ダイバーシティはリーダーの武器(前編) 

04 3月 2021

当方、日本人、男性、管理職。中高一貫男子校出身。戦国時代マニア、プロ野球ファン、ゴルフ大好き(なおスコアは未だ100切りに至らず)。近年でこそ、歴女やカープ女子、ゴルフ女子の存在が知られて久しいものの、一般的には「男臭い」といわれる趣味ばかり。家族は妻と娘1人。しかし、仕事優先というか仕事しかしておらず、「男性の家庭進出」は大幅未達……。

かような者に、ダイバーシティを語る資格があるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれないが、少しだけ辛抱して本稿にお付き合いいただきたい。

結論から述べると、「価値創造を目的とした組織のリーダーにとって、ダイバーシティは大きな武器になる」ということだ。なお、本稿で使用する「ダイバーシティ」という言葉は、女性や外国人といった「属性」の多様性のみならず、価値観や能力等「特性」の多様性を含む広義の意味合いであることを先にお断りしておく。

ダイバーシティ=経営アジェンダ

近頃、「SDGs」「ESG」という単語を新聞で目にしない日はなく、企業経営や投資家との対話への組み込みが強く求められている。その一環として、ダイバーシティの実現が大きな経営アジェンダとなっていることは周知の通りだ。

また、政府が成長戦略の一環として進めてきたコーポレートガバナンスの強化等による経営改革の後押しの中でも、ダイバーシティは極めて重要なアジェンダとなっている。例を3つ挙げてみよう(下線筆者)。

改訂版『コーポレートガバナンス・コード』(東証、2018年)
【原則4-11. 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。(後略)

『投資家と企業の対話ガイドライン』(金融庁、2018年)
【取締役会の機能発揮】
3-6. 取締役会が、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、適切な知識・経験・能力を全体として備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性を十分に確保した形で構成されているか。その際、取締役として女性が選任されているか。

『コロナ後の企業の変革に向けたコーポレートガバナンスの課題』(金融庁、2020年)
● 資本コストを意識した経営(現預金保有、政策保有株式の在り方等)
● 取締役会の機能発揮(社外取締役の質・量の向上、ダイバーシティ等)
● 中長期的な持続可能性(サステナビリティ、管理職等におけるダイバーシティ等)
● 監査の信頼性の確保(内部監査部門から経営者及び取締役会等に直接報告を行う体制の構築等)
● グループガバナンスのあり方(グループ全体としての経営の在り方、上場子会社の一般株主保護等)

以上に加えて、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(2020年12月)では、本年予定されている次期コーポレートガバナンス・コードの改訂に向けた提言として、「(前略)上場企業に対し、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況の公表を求めるべきである。また、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表するよう求めるべきである」と上場企業が開示すべき内容を踏み込んだ形で明示している。

ダイバーシティの実現は、特に上場企業にとって、政府から強く要請されている待ったなしの経営的取り組みであると言えよう。

企業が取るべき「7つのアクション」

経済産業省では、「企業価値を実現するダイバーシティ2.0」を「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指して、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組」と定義し、企業が取るべき「7つのアクション」を整理している(2018年改訂)。

  1. 経営戦略への組み込み
    • ダイバーシティ・ポリシーの明確化
    • KPI・ロードマップの策定
    • 経営トップによるコミットメント
  2. 推進体制の構築
    • 経営レベルの推進体制の構築
    • 事業部門との連携
    • 経営幹部への評価
  3. ガバナンスの改革
    • 取締役会の監督機能の向上
    • 取締役会におけるダイバーシティの取組の監督と推進
    • 多様な人材の取締役・監査役登用
  4. 全社的な環境・ルールの整備
    • 人事制度の見直し
    • 働き方改革
  5. 管理職の行動・意識改革
    • 管理職に対するトレーニングの実施
    • 管理職のマネジメントを促進する仕組みの整備
  6. 従業員の行動・意識改革
    • 多様なキャリアパスの構築
    • キャリアオーナーシップの育成
  7. 労働市場・資本市場への情報発信と対話
    • 一貫した人材戦略の策定
    • 労働市場への効果的な発信と対話
    • 企業価値向上のストーリーの策定
    • 資本市場への効果的な発信と対話

以上のように、ダイバーシティの実現は、政府から強く要請されているばかりか、それに対して取るべきアクションまで明確に示されている。これほどまでに、我が国全体として実現が求められている経営的取り組みは、なかなか珍しいと言えるのではないか。

であるにも関わらず、全上場企業の女性役員比率は、2020年に6.3%(出所:30% Club Japanニュースリリース)と低迷している。実際、筆者が役員報酬・コーポレートガバナンスを専門とするコンサルタントとしてお客様からしばしば聞くのも、「ダイバーシティについて、経営陣や管理職といったリーダーの腹落ち感がない」という声である。

ただ、嘆いてばかりいても始まらない。「今、ここで、自分に何が出来るか」を考えるのみである。

ダイバーシティを担当されている方であれば、自社の課題について全体観を持って捉え、他者と意識を共有していくために、まずは上記の7つのアクションに照らして自社の取り組みの実効性を評価してみてはいかがだろうか(ここでは、コーポレートガバナンス・コードで実施が求められている「取締役会実効性評価」に倣い、「ダイバーシティ実効性評価」と命名する)。アウトプットイメージは以下の通りで、7つのアクションそれぞれの実効性を信号形式で表現し、自社において出来ていることと出来ていないことは何か、自身の業務はどこにどう繋がっているか、次にどのような取り組みを行っていくべきかを把握する営みである。

前編はここまで。後編では、「価値創造」という観点からダイバーシティの必要性を考えるとともに、その必要性を実感した筆者自身の経験を述べてみたい。
著者
河本 裕也

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