ESGの考慮はパフォーマンスにプラスであるのか?~マーサーのESGレーティングとパフォーマンスの分析結果から~ 

28 6月 2021

はじめに~ESGの考慮とパフォーマンスの関係の議論~

過去数年間で投資家のESGへの関心は急速に高まり、一過性のブームではなく、長期的な取り組みとして根付いてきていると感じられる。その一方で、ESGに関心はあるものの、取り組みが進んでいない投資家もいる。その理由として、ESGの考慮がパフォーマンスにプラスの効果がある、もしくは少なくともマイナスの効果が無いことを説明できなければステークホルダーを説得できないという声も多い。

ESGの考慮がパフォーマンスに対してプラスの効果があるのかは長年にわたり議論の多いテーマである。ESGとパフォーマンスについての過去の数多くの研究を分析した論文によると、ESGが企業業績等のCFP(Corporate Financial Performance)に対してポジティブな効果があるとした論文は、35.3%とネガティブな効果があるとした論文の7.1%を大幅に上回っている。1

投資家にとっては、企業業績等よりも、実際の資産運用としてのリターンが重要であり、ESGの考慮が運用商品のパフォーマンスにプラスの効果があるのかという点に関心がある。そこで、マーサーが運用商品に対して付与しているESGレーティングとパフォーマンスの関係を分析した。

1 Friede, G., Busch, T. & Bassen, A., 2015. “ESG and Financial Performance: Aggregated Evidence from more than 2,000 Empirical Studies.”

マーサーのESGレーティングとパフォーマンスの関係の分析結果

マーサーは2008年から運用商品がESG要因を運用プロセスに組み入れている度合いを、グローバルに200名超が配置されているリサーチャーが評価し、ESGレーティングを付与している。ESGレーティングは1から4の4段階で表示し、1が最も高く、4が最も低い評価となる。2021年3月末時点では、株式、債券、オルタナティブ等の幅広い資産クラスの5,558の運用商品にレーティングを付与している。

このマーサーのESGレーティングを使い、グローバル株式のアクティブ運用商品の中で、マーサーが将来の超過収益の獲得の可能性が平均以上と評価した運用商品2を、ESGレーティングが高いものと低いもの3の2つのグループに分類し、2つのグループのパフォーマンスを比較した。過去3年間のリターンは、ESGレーティングが高いグループは年率13.1%、ESGレーティングが低いグループは年率10.2%と、2つのグループに年率2.8%という大きな差がついた。この分析結果からは、ESGの考慮が運用商品のパフォーマンスにプラスの効果があるということになる(表1)。

このような大きなプラスの効果という分析結果の背景としては、ESGの考慮が運用プロセスにおいて、非財務情報も考慮した優れた投資アイデアの創出、問題のある銘柄の回避、企業とのエンゲージメント等を通じて、リターンに寄与したと考えられる。ただし、ESGを考慮した運用商品への資金流入、スタイルの影響を受け、ESGの考慮の効果が大きく出ている可能性については留意が必要だ。なお、ESGを考慮した運用商品への資金流入については、投資家へのESGの考慮の浸透により、今後も中長期的に続く可能性も高い。また、分析を行った過去3年間はバリュー・スタイルよりもグロース・スタイルの方が有利な市場環境であったため、バリュー・スタイルの運用商品は炭素集約度が高い傾向がある等から、ESGレーティングが低いグループにバリュー・スタイルの運用商品が多かったことが影響している可能性がある。

2 マーサーのレーティングでAおよびB+の運用商品
3 ESGレーティングが高い:ESG1およびESG2、ESGレーティングが低い:ESG3およびESG4

 

表1

*分析対象:超過収益の獲得の可能性が平均以上と評価する(レーティングAおよびB+)の グローバル株式アクティブ戦略
*ESGレーティングが高い:ESG1およびESG2 ESGレーティングが低い:ESG3およびESG4
*MercerInsight、2020年12月末時点、米ドルベース、グロス収益率、年率換算後
*ESGレーティングは直近のものを使用

 

投資家のESGへの関心が高まっていることで、ESGを標榜する運用商品が増えている。その中には、ESGのブームに目を付け、ESGを考慮しているかのように見せかけている「グリーンウォッシング」の商品が紛れている可能性がある。ESGレーティングは、マーサーのリサーチャーが実際の運用プロセスにどれだけESGを組み入れているかを評価しており、「グリーンウォッシング」を見分けることができる。今回の分析がマーサーのESGレーティングを使った分析であることも、大きなプラスの効果という結果となった理由である可能性があり、ESGを考慮しているかの運用機関による自己申告に基づいて分析した場合にはここまで大きな差にはならなかったかもしれない。

おわりに

マーサーのESGレーティングとパフォーマンスの関係についての分析が、ESGの考慮が運用商品のパフォーマンスにプラスの効果があるという結果になったことが、ESGに関心はあるものの、ESGの考慮がパフォーマンスにプラスの効果があるか説明できず、取り組みを進めることができていない投資家にとって、ESG投資を進める一助になれば幸いである。

著者
五藤 智也

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