DC掛金拠出限度額に関する法改正への対応 

24 9月 2021

はじめに

2024年12月1日から、確定給付企業年金(DB)に加入している従業員の確定拠出年金(DC)への掛金拠出限度額の定義が変更される。この変更はDBを実施している事業主・従業員への影響が大きいため、概要および対応例をご紹介したい。

 

DC掛金限度額変更の概要

DBとDCを併用している企業の現在の企業型DC拠出限度額は、DBの給付水準によらず、一律2.75万円(月額)である。税制上の公平を図るため、法改正後は加入しているDB掛金相当額を算出し、5.5万円からDB掛金相当額を控除した額がDCの拠出限度額となるよう変更される。これにより、多くのケースではDC掛金の拠出限度額は大きくなることが見込まれる。一方、DB掛金相当額が2.75万円以上になる場合、DC拠出限度額は現行制度の2.75万円よりも減少する。また、DB掛金相当額が5.5万円を超えるケースでは、DC拠出限度額は0になる。

 

DC掛金の拠出限度額(月額)

  現行 2024年12月~
DCのみの場合 5.5万円 5.5万円
DB/DC併用の場合 2.75万円 5.5万円-DB掛金相当額(下限0円)

※ 拠出限度額は将来分の掛金にのみ適用され、過去に積上げた残高には影響しない
※ DB掛金相当額(法令上の用語は「他制度掛金相当額」)は、DB掛金の占める割合を評価するため、法令等に定められた算式によって計算される額。各DBの給付水準や計算基礎率等により異なる
※ DB掛金相当額・DC拠出限度額は給付区分(標準掛金を算定している加入者の範囲)ごとに計算され、その給付区分の全員に適用される。DB内で給付水準が高い個人がいてもDB掛金を拠出できなくなることはないが、DC掛金水準の高い個人は拠出限度額までしかDC掛金を拠出できない
※ DB/DC併用の場合の企業型DC拠出限度額には経過措置が設けられ、企業型DCの事業主掛金の算定方法・DBの給付設計を変更する規約変更を行うときまで、2.75万円を維持することも可能

 

ここで、具体的なケースを考えてみたい。ある会社ではDBとDCを併用しており、現在のDC掛金限度額は2.75万円である。DB掛金相当額が4万円だった場合、法改正後のDC掛金拠出限度額は5.5万円-4万円=1.5万円となり、これが全員に適用される。そのため、従来のDC掛金が1万円の加入者は従前通り1万円を拠出できるが、DC掛金が2万円の加入者は限度額超過分0.5万円をDCに拠出できなくなり、超過分の取扱いを検討する必要がある。

DB掛金相当額が2.75万円を超えるケースでは、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金上限にも影響する。

DB掛金相当額4万円、DC掛金拠出額1万円の場合、現行制度でiDeCo加入を認めていれば1.2万円をiDeCoに拠出できるが、新制度では0.5万円(=5.5万円-4万円-1万円)しか拠出できなくなる。iDeCoについては経過措置も設けられていないため、2024年12月の法改正以降すぐに新制度のiDeCo掛金上限額が適用されることに留意されたい。

 

DC掛金限度額変更による課題

本法改正により、以下のような課題が生じる。

1. DC拠出上限が下がる/0になるケースがある

DB掛金相当額が5.5万円を超えるケースは、DCを維持すること自体が不可能になり、最も影響が大きい。DB掛金相当額が2.75万円を超えるケースでも、本来意図していたDC掛金を維持することができなくなり、DCの活用度が下がる。企業のリスク削減等のためにDCを導入/拡大した経緯があっても、法改正によりこれに逆行せざるを得なくなるといえる。同時に従業員拠出の枠も減少する。

2. DC拠出限度額は再計算の都度変更する必要がある

DB掛金相当額およびDC拠出限度額は総幹事の数理人により計算されるが、DB再計算の都度、基礎率や人員構成の違いにより額が見直される可能性がある。この場合、仮にDC拠出上限が大きくなった分を従業員拠出枠としていた場合、その枠が一定年数ごとに変更されることになり、従業員の貯蓄計画に影響を及ぼす。これについて従業員への説明が必要となるが、制度変更等の明確な理由ではなく「計算前提の変更」により拠出上限が変わることについて、納得感は得られにくいのではないだろうか。

 

今後の検討ポイント

本法改正により、DBの運営負荷は従来よりも大きくなるものと感じられる。DB、DCの併用でDC拠出限度額が減少する企業では特に負担が大きい。

そこで、DC+DBの組み合わせを、DC+退職一時金の組み合わせに変更するのも一つの選択肢となる。拠出限度額5.5万円の全てをDC掛金の枠として活用することができ、DC拠出限度額も変動しない。退職一時金には掛金等の上限がないため、退職給付全体の給付水準を5.5万円に縛られず設定することができる。DBと退職一時金は、退職時即時に支給できる点、退職給付会計上の取扱いなどの点で、同様の効果を持つ制度として活用可能である。退職一時金の額計算・給付の負担が生じるなど、DBと退職一時金で異なる点もあるが、そういった点に対処できるのであれば、DCを活用できる使い勝手の良い制度であるといえる。

制度変更時には以下のような論点が出てくるため、ご検討の際は参考にしていただきたい。

  • 将来分掛金の設定:DC拠出限度5.5万円を最大限企業型年金のため活用する設計のほか、従業員の税制面でのメリットが大きい仕組みとして、マッチング拠出/iDeCo等の枠を残す設計も可能
  • 過去分の取扱い:DC+退職一時金への移行後は、DBを凍結、またはDBの過去分をDCへ移換
  • 経過措置の適用:経過措置(現行の2.75万円を維持)を活用するかどうか

なお、DC拠出限度額が減少する場合、経過措置を適用し現在の制度(DC拠出限度額2.75万)を維持することも可能であるが、給与体系の変更、組織再編、定年延長等、将来突然に経過措置が適用できなくなる可能性は排除できない。そのため、経過措置が使えなくなった後にどのような制度とするかについては、法改正前にあらかじめ検討しておくことをお勧めしたい。

著者
漆山 綾香

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