iDeCo(イデコ)の法改正で人事が対応するべきこと 

11 4月 2022

2022年10月1日法改正により、企業が実施する確定拠出年金制度(企業型DC制度)の加入者は原則iDeCoに加入できるようになる。

iDeCoの掛金拠出限度額は、自社の企業年金制度における自身の掛金相当額により決定されるため、個人の自助努力としての積立制度であるiDeCoと、企業の退職金制度である企業年金制度は切り離せないものとなる。

本コラムでは、法改正の内容および人事として対応すべきことを述べていきたい。

iDeCoにかかる法改正の概要

1. 企業型DC加入者における iDeCoの加入要件の緩和(2022年10月1日)

現在の法令では、企業型DC加入者のうちiDeCoの加入資格があるのは ①企業型DC規約に加入を認める規定があり、かつ②事業主掛金の上限が月額3.5万円(確定給付企業年金(DB)にも加入する場合は1.55万円)の企業の従業員に限られている。

2022年10月から、企業型DCの加入者は規約の定めがなくても、2. に記載する拠出限度額の範囲内でiDeCoを併用できる1。また、マッチング拠出制度がある場合、加入者はiDeCoに加入するかマッチング拠出制度を利用するかも選択可能となる。

企業型DCの事業主掛金が各月の拠出限度額の範囲内での各月拠出となっていない場合を除く

2. iDeCoの拠出限度額の見直し(2022年10月1日、2024年12月1日)

2022年10月1日より、iDeCoの拠出限度額は一律 ”月額2万円2”から、“月額5.5万円2-各月の企業型DC事業主掛金額” に変更となる。

また2024年12月1日からは ” 月額5.5万円-(各月の企業型DC事業主掛金額+DB等の他制度掛金相当額)”に再度見直される。企業型DC事業主掛金額は個人毎に異なる額であり、他制度掛金相当額は各DB等の制度掛金の拠出水準を反映した額である。

2 DBにも加入する場合はそれぞれ月額1.2万円、月額2.75万円

人事が対応するべきこと

本法改正により人事が対応するべきこととして以下が挙げられる。

1. 従業員への法改正による変更点の周知

(1) iDeCo加入の可否および拠出限度額の確認方法

2022年10月1日より原則全ての企業型DC制度でiDeCo加入が可能となるが、そのうちDC掛金を年単位で拠出している場合等、例外的に加入できないこともある。特に加入できない場合は、企業型DC加入者に丁寧に説明しなくてはならない。

またiDeCoに加入できる制度では、iDeCo拠出限度額が個人毎に異なる額となることに伴った拠出限度額の確認方法の案内が必要だ。個人毎のiDeCo拠出限度額は、企業型DCの記録関連運営管理機関が保有する情報をもとに企業型DCの加入者WEBサイトに掲載されるため、企業はその旨をあらかじめ従業員に案内しておくとスムーズである。

(2) DB等の他制度掛金相当額の事前周知

DB等の他制度を実施する制度では、2022年10月時点で、従業員がiDeCoへの加入や拠出額を決定する判断材料として他制度掛金相当額についても事前に周知する必要がある。これは、2024年12月からiDeCoの掛金の拠出限度額に他制度掛金相当額を反映することに伴い、他制度掛金相当額とDCの事業主掛金額の合計額によっては、iDeCoの掛金の上限が小さくなったり、掛金を拠出できなくなったりするためである。

人事部門は、上記の周知に併せて従業員から想定される質問をまとめ、事前にQ&Aを準備しておくことを強くお勧めする。

2. 自社の退職金制度の特徴を踏まえた周知

さて、上記法改正の内容を聞いても従業員の大半はそもそも現行の退職金制度をあまりよく理解しておらず、却ってどうすればいいのか混乱させてしまう可能性がある。そこで既存の退職金制度内容の説明と法改正による変更箇所をセットで、かつ自社の退職金制度の内容に合った説明を行うことが望ましい。

例えば、企業型DCでマッチング拠出を導入している制度においては、iDeCoの加入希望者に対して自社制度利用のメリットも伝えるべきだろう。加えて、DC事業主掛金額やDB等他制度掛金相当額が高い退職金制度を実施している場合は、iDeCoへの拠出余地が少ないことや最低掛金(5,000円)を下回る場合には拠出できなくなること等も伝えておかなくてはならない。 

また本法改正を契機として、一般的に給与と比較して関心が低いといわれている退職金制度の内容(企業年金(DB、DC)と退職一時金の構成割合、月々の掛金水準およびモデル給付額のイメージ等)についても説明を行い、退職金制度の認知・理解を向上させ、長期的視点での従業員の生活設計のサポートにつなげることもできる。

3. 企業型DCの商品ラインアップの確認

本変更により予想されるその他の反応として、iDeCoと企業型DCはどちらが有利か?という質問が考えられる。例えば、iDeCoの方が類似するパッシブの運用商品の信託報酬が著しく安い場合、企業型DCの商品は適切に選定されているのかと従業員から問われる可能性もある。そうならないよう、現行の運用商品を適宜除外・追加も検討すべきだろう。また事業主は、少なくとも5年毎に運営管理機関に委託する運営管理業務の実施に関する評価を行う努力義務があるため、運用商品についても運用実績や手数料の面で加入者等の利益のみを考慮したものになっているかどうか定期的なモニタリングが重要である。

ウェルビーイングの向上にむけて

DCをはじめとした退職金制度は、従業員の老後の不安を和らげることによるウェルビーイングの向上を目的として、企業は毎年かなりのコストをかけて実施している。しかし従業員としては、公的年金制度も含めた老後資金形成の仕組みが難解であるがゆえに思考停止してしまい、漠然とした不安を感じているのが実態ではないだろうか。

今回の法改正は複雑だが、今後ますますDCを中心とした個人の資産形成が求められる中、従業員のエンゲージメントを高めるため、これを好機に真摯な取り組みが望まれる。

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著者
七五三 萌
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