NISA非課税枠が1,800万円に拡充 ~資産所得倍増プランにおける新NISAとiDeCo拡充の方向性と企業の役割~ 

17 4月 2023

日本の金融資産は依然として過半数がリターンの少ない現預金で保有されており、投資家の数は約2,000万人に留まる。こうした現状を受け、現政権は中間層の投資を増やし安定的な資産形成を実現することを目指す、資産所得倍増プランを策定した。

これに基づき、2024年1月より現行のNISAの非課税枠が1,800万円まで大幅に引き上げられ、非課税期間が恒久化される。またiDeCoについてもさらなる拡充が検討されている。本コラムでは、資産所得倍増プランにおけるNISAとiDeCoの拡充の内容と退職金制度を運営する企業の役割について考えていきたい。

 

1. NISAとiDeCo拡充の内容

(1) 新しいNISAの概要

金融庁によると、NISAの変更の概要は以下の通りである。

出所: 金融庁「新しいNISA」を基にマーサー作成
その他、ジュニアNISAについては2023年で廃止される。

 

現行のNISA制度と比較して ① 非課税保有期間の無期限化、②口座開設期間の恒久化、③年間投資枠が計360万円に拡充、④非課税保有限度額が計1,800万円に拡充、⑤売却時の非課税枠の再利用が可能になる等の点で大きく改善され、生涯にわたって資産形成に活用できる制度となる予定である。

(2) iDeCoの方向性

また、iDeCoについても拡充する方向性で検討されている。足元では、2022年にiDeCo加入可能年齢の上限引き上げ(60歳⇒65歳)、受給開始年齢の上限引き上げ(70歳⇒75歳)、企業型DC加入者が原則全員iDeCoに加入可能となる法改正がすでに実施済であるが、加えて資産所得倍増プランには①加入可能年齢のさらなる引き上げ(65歳⇒70歳)②拠出限度額および受給開始年齢の上限の引き上げの検討 ③マイナンバーカードの活用も含めた事務手続きの効率化・迅速化が盛り込まれている(参考コラム:iDeCo(イデコ)の法改正で人事が対応するべきこと)。

 

2. NISAとiDeCo、どちらを選ぶ?

NISAとiDeCoはどちらも同じ、運用益が非課税となる運用の器である。例えば、月々2万円を利回り3%で20年間積み立てた場合、元本480万円、運用収益176.6万円となる。課税口座で積み立てた場合、運用収益に20.315%(執筆時時点)の税金がかかるため35.9万円(176.6万円×20.315%)は運用収益から引かれるが、非課税口座であるNISAやiDeCoで運用した場合は手元に残るというメリットがある。

どちらも同じ運用の器であるならば、NISAとiDeCoを選ぶ際のポイントは何だろうか。民間会社員および公務員のケースについて、以下の表でそれぞれ特徴を比較する。

* 2024年11月以前は、確定給付企業年金(DB)がある場合最大年14.4万円
** 年間積立上限、非課税保有限度額は積立投資枠と成長投資枠の合計額を記載

 

特に大きな違いは① iDeCoは60歳まで原則中途引き出しが不可なのに対し、NISAはいつでも引き出し可能であること、② iDeCoは掛金が全額所得控除となるのに対し、NISAは所得控除の対象とならないことだ。つまり、それぞれの制度に適しているのは以下の通りとなる。

  • NISAが適している…住宅購入や教育資金等に備えて中途引き出しができるようにしておきたい方
  • iDeCoが適している…報酬に余裕があり所得控除の恩恵を受けたい方、既にある程度資産があり老後に向けた資産形成を行いたい方

ただし、iDeCoの拠出可能額は勤務先で加入している企業年金の掛金額に応じて決定されるため、企業年金で掛金を多く拠出している場合は加入できない場合もある。また勤務先で企業型確定拠出年金(DC)に上乗せして給与から掛金を拠出できるマッチング拠出制度や、給与・賞与の一部を原資として加入できる選択型DCの制度が用意されている場合、それらを活用すると会社が加入中の手数料を負担し、投資教育も行ってくれるためiDeCoよりも有利に資産形成できる可能性が高い。会社員の場合、iDeCoは「退職金制度の上乗せとしての選択肢の一つ」と考えるのが自然だろう。

 

3. 企業に求められる役割

NISA/iDeCoの拡充により、金融リテラシーが高く投資に積極的な層については資産形成のチャンスが拡大している。一方で金融リテラシーが低く投資未経験の層は、どのような魅力的な制度が用意されても活用できず、格差の拡大も想定される。

またここで求められる金融リテラシーとは、長期的な視野で自身の資産を形成するための知識である。単に有利な制度の活用に留まらず、自分を知り、利用できる制度を知り、長期のライフプランに基づき資産形成を行うための知識を身につけることが必要となる。

これに対し、資産所得倍増プランにおいて企業は、自社の資産形成制度を充実させること、適切な金融教育の機会を与えることで社員の資産形成をサポートしていく役割が期待されている。このように社員の金銭面での将来の不安を取り除き、ファイナンシャル・ウェルネス(金銭面の健康度)の向上は、社員が業務に主体的・意欲的に取り組めているかを示す従業員エンゲージメントの向上にも効果的とされる。多くの企業はすでにコストをかけて退職金制度を社員に提供しているが、その目的や主旨、金額等については社員に十分伝わっておらず、結果としてファイナンシャル・ウェルネスにつながっていないのが実情ではないだろうか。

また、よりマクロの視点で考えると、少子高齢化、グローバル化、デジタル化等の大きな環境変化の中で企業価値を維持していくには、変化に対応し得る人材の獲得が必要だ。変化に対応し得る人材とは、スキルアップや転職等により自律的にキャリアを形成する人材が想定される。自律的なキャリア形成とライフプランに基づく自律的な資産形成は当然一体で捉えるべきだ。企業にとってはそうした人材を惹きつけ、サポートする仕組みの必要性が問われている。

 

4.企業型確定拠出年金(DC)は今後ますます重要に

このような環境下で、今後ますます重要となる企業型DCには、その役割として以下のような特徴が挙げられる。

  • 投資未経験者も、企業のスキームを使って容易な手続きで投資を開始できる
  • 企業から投資教育を受ける機会が継続的に与えられる
  • 社員が自身のDC口座を保有し、退職金を現役時から主体的に運用できる
  • 転職時にポータブルで持ち運べるため、自律的なキャリア形成がしやすい

ただし単に仕組みを用意するに留まらず、加入者目線に立った運営していくことがこれまで以上に求められる。例えば、運用商品においては、iDeCo等と比較しても運用報酬が優位となっているか、ラインナップが十分なものになっているか。投資教育においては、リテラシーの高い層と低い層、ライフステージ別の教育内容等、参加者それぞれの課題を解決する内容となっているか。制度設計においては、退職金全体におけるDC割合の妥当性、全員加入の制度か、選択制の場合の参加率はどうか等の目線で点検を行い、都度見直しを行うことが重要だ。

すでにDC運営管理機関の業務に関する評価を最低でも5年に1度行うことが努力義務化されているが、企業はDC運営を運営管理機関任せにせず、定期的な評価と改善に向けた対話を重ね、DC制度をさらに主体的に運営していくことが求められる。

 

 

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著者
七五三 萌
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