海外派遣規程および福利厚生制度調査(IAPPS)の活用でセルフチェックを実現する 

20 4月 2023

唐突だが、あなたは社内に海外派遣者処遇に関する疑問を解決してくれる相談相手がいるだろうか?

海外人事業務担当者が複数いたとしても全員が他の人事業務と兼務しているという組織は意外と多く、海外派遣者処遇に精通する担当者が社内にはいないという声をよく聞く。また、適切な社外のネットワークがなく他社がどのようなプラクティスなのか知る機会がない、限定的であるという声も多い。

 「なぜ海外勤務手当は一律10万円なのか?」と海外派遣者から聞かれたら……
 「海外勤務手当が低いのではないか、もう少し増やしたらどうか」と経営層に言われたら……

そこで、早々に他社の情報を収集し、エビデンスに基づいた説明ロジックを組み立てられるだろうか。海外勤務手当に限らず、“なぜ”その手当が設定されているのか、“なぜ”その手当額となっているのかなど、設定当初の議論やその根拠が担当者間で引き継がれず、時間の経過と共に詳細が不明となってしまうことは珍しくない。また、取り組みや水準などの他社事例は誰もが気にするところだろう。

 

IAPPSレポートは心強い味方となる参考書

そんな時に活用したいのがマーサーの海外派遣規程および福利厚生制度調査レポート(IAPPS: International Assignment Policies and Practices Survey)である。2021年版では513社もの日本企業が調査に参加し、海外派遣者処遇のプラクティス集としては他に類を見ない規模で、日本企業のプラクティスが把握できる貴重な参考書だ。目次を見れば、海外派遣の成功を考える上で規程に必要な項目が網羅されている。この参考書を使って他社の海外勤務手当支給の有無や支給目的、手当額水準を知り、なぜ一律10万円と設定されているのかを推測することで、手当に対する考え方も整理できる。

また、一律10万円という現行制度をこのまま継続して運用するのか、または見直しを検討するのかをエビデンスに基づいて判断できるようになる。海外派遣者の肌感や感情的な側面から捉えがちな海外派遣者処遇だからこそ、日本企業の事例、実態をエビデンスに議論をスタートさせることは非常に重要だ。参考書はいつでもすぐに取り出せるように手元に置いておきたい。

 

IAPPS参加は処遇内容や水準の定期セルフチェックとなる

ここで提案したいのは、IAPPSへの参加である。海外派遣規程や運用マニュアルを毎日読み返しているという人はいないだろう。しかし、何らかのきっかけがあれば該当する項目が規程ではどのように記述されているかを確認するのではないだろうか。きっかけとなるのは、海外派遣者からの問い合せや経営層からコメントされた時などだ。規程をすべて暗記する必要などないが、自社の規程に盛り込まれていることの根拠や妥当性は日頃から関心をもって調べ、考えておくと様々な問合せに対する準備が容易となる。


また、盛り込まれていない項目に気づくことも必要だろう。もしかすると、その中には派遣者から何度も問合せを受けている項目があるかもしれない。“何かことが起きないと何も動かない”、これは企業内に限らず、一個人でも事後になって“前もってできることはあった”という後悔もよくある。ただ、手をつけるきっかけや時間がないというのも本音だろう。そこで活用できるのが、海外派遣規程のセルフチェックである。IAPPSへ参加し用意された設問に回答することは、まさに自社の海外派遣規程の全体をセルフチェックとなる。なぜなら設問へ回答するためには海外派遣規程や運用マニュアルなどを読み返す作業が必要であり、自然と自社の規程の網羅性や水準を再確認するからだ。

自社の規程には盛り込まれていない項目や設定されている水準に違和感があれば、該当箇所をマーキングしておくと良い。最終的に得られるレポート内容と照らし合わせて、答え合わせができる。最近のトレンドを踏まえた設問もあるため、時間経過に伴う制度疲労や劣化している部分を見つけ補修したり、他社で採用している好事例などを自社の処遇に反映したりする機会ともなる。回答にはそれなりの時間を要するが、これを定期的なセルフチェックの機会と捉えていただきたい。回答した特典として調査結果をまとめたIAPPSレポート(2023年12月頃リリース予定、販売価格未定)が無料で入手できる。また、検討において「500社を超える全体と比較するのではなく、企業規模が自社と同程度の企業群と比較したい」という意見もあるだろう。全参加企業を主要産業別や企業規模(従業員数)、または海外事業展開の深化(派遣者数)、海外事業展開の多様性(派遣国数)等でデータカットしたレポートを用意することもできる。IAPPS2023は4月から参加申込みを受け付けており、回答入力は5月から9月末までを予定している。じっくりとセルフチェックするためにも早めに回答入力のステップへ進まれることをお勧めする。

 

IAPPSへ参加し、結果レポートを参考書として手元に備えておく。そうすれば、海外派遣者からの問合せや経営層からのコメントに対し、すぐにエビデンスを示しながら自信をもって説明できるようになるだろう。なお、調査結果レポートからは読み取れない事例やマーサーが推奨する考え方を知りたい、そのような時はぜひマーサーのコンサルタントにご相談されたい。

 

主な調査内容
  • 海外派遣規程
  • 家族の定義
  • 利用データ
  • 単身赴任
  • 赴任、帰任支度料
  • 残置荷物
  • 赴任前視察
  • 医療費
  • 一時帰国
  • ウェルビーイング
  • 給与体系
  • 税金、社会保険料
  • 支給方法
  • 海外勤務手当
  • 着後手当
  • 旅費
  • 保育費、教育費
  • 自動車
  • 特別休暇
  • 異文化研修
  • 労働条件
  • 給与
  • 支給通貨
  • ハードシップ手当
  • 荷物枠
  • 一時滞在費用
  • 住宅施策
  • 転任休暇
  • 物資送付
  • 任期中の退職

 

著者
山縣 勘介
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