経営理念でも謳われる多様性を社員一人ひとりが実践 

DEI ロールモデル対談 第2回

川上 留美 様

ヤンセンファーマ株式会社  固形腫瘍事業本部 固形腫瘍営業・マーケティング部門 西日本支店 北九州・大分・山口営業所 所長

外資系製薬会社を経てヤンセンファーマ株式会社入社。翌年に産休・育休を取得した後、オンコロジー事業本部 九州第一営業所配属。2021年1月、固形腫瘍事業本部 北九州・大分・山口営業所 所長に就任

鷲尾 夕紀子 様

エチコン事業部 アドバンスドサージェリー 静岡ディストリエチコン事業部 アドバンスドサージェリー 静岡ディストリクト ディストリクトセールスマネジャー

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に新卒入社し、ライフスキャン事業部にて営業を経験。入社8年目に社内公募制度を利用してエチコン事業部に異動し、営業として埼玉県、東京都を担当。2021年より静岡営業所 ディストリクトセールスマネジャーに就任

工藤 麻依子 様

ジョンソン・エンド・ジョンソン  ビジネスユニットHR リーダー

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に新卒入社し、営業・マーケティングを経てHRへ異動。現在はサージカルビジョン事業部のシニアリーダーシップチームの一員として、ビジネス戦略達成のための人材育成施策の立案・推進等に従事。同時に、全社のDE&I PMO(プロジェクト・マネージメント・オフィス)として、日本におけるDE&Iの浸透を加速する取り組みを展開中


インタビュアー:三宅 遥

組織・人事変革コンサルティング部門 アソシエイト

前編:女性営業マネジャー2名のストーリー

リーダーの固定概念に囚われず、営業所長に挑戦

お二人のこれまでのキャリアについて教えてください

(川上様)大学卒業後、医薬業界の営業を長年経験してきました。ヤンセンファーマ入社前は、外資系企業にて様々な領域を担当し、結婚・出産等のライフイベントも経験しました。2013年にヤンセンファーマ入社後は、第二子の出産を経てオンコロジー(がん)領域のMRを続け、今年から営業所長をしています。自分にとって営業は天職だと感じながら、日々仕事をしています。

(鷲尾様)2009年に新卒でジョンソン・エンド・ジョンソン入社後、糖尿病領域の器具を扱うライフスキャン事業部に配属され、営業担当として岩手県・宮城県、神奈川県、さらには東京都を担当しました。2017年に社内公募によって外科系の器具を扱うエチコン事業部に異動し、埼玉県や東京都の営業を担当、そして今年から静岡県のディストリクトセールスマネジャーに就任しました。

これまでのキャリアにおいて、ターニングポイントとなるような出来事はありましたか

(川上様)今年所長になるまでには2つの大きな出来事がありました。一つはメンターとの対話を通じ、営業所長ポジションやリーダー像への固定概念を取り除けたことです。以前は「所長は時間的に融通を利かせられること」が条件だと考えていました。しかし、メンターとリーダー像について話し、メンター自身のワークライフバランスについて聞く中で、今の所長、リーダーに時間の融通という条件より、他にもっと大切なことが求められていることに気づきました。自分の資質や強みを活かし、価値観を体現する為に、営業所長を目指したいと思うようになりました。

もう一つは、事業本部でのファーストラインリーダーを目指すプログラムに参加し周囲から多くのサポートを受けたことです。プログラムでは自分と同じくリーダーを目指す人たちが集まり、率直にフィードバックや悩みを共有しながら、お互い切磋琢磨し成長できました。また、上司や二次上長に、自分の能力開発により密に関与していただいたこともとても大きかったと感じています。上司との1on1でかけていただいた言葉やコメントが、今の自分のキャリアに繋がっていると思います。

(鷲尾様)ターニングポイントは2つあります。一つ目は事業部間の異動です。新卒で入社して8年目、入社時から関心のあった事業部にたまたま社内公募があり、応募して異動しました。この経験があったからこそ、0から新しいことを始めるチャレンジへの抵抗が無くなったと思います。

二つ目のターニングポイントは、今年からマネジャー職になったことです。今まではずっと営業だったため、初めて役割が変わることになりました。マネジャー職を目指すきっかけになったのは、事業部の女性リーダーシッププログラムです。プログラムの中で、「様々な方針を決める組織の上層部に女性がいないため、働く環境に女性の視点が反映されていない現状がある」という話がありました。そこで、自分がマネジャーになりたいというよりも、後に続く女性が目指せる道を切り拓きたいと思い、マネジャーを目指すことを決めました。

お二人とも今年からマネジャー職に就任されたとのことですが、ご自身のリーダーシップスタイルはどのようなものでしょうか

(川上様)メンバーには年上の方が多く、自分より経験豊富な年上の方に対し、自分がどんな価値を提供できるか、どんなリーダーシップが取れるか、とても悩みました。考えた結果、その人のありたい姿や価値観をベースにコミュニケーションをとることを大切にしています。年齢というフィルターをかけずに一人の人間として向き合い、その人が目指す姿に近付けるよう一番応援する存在でありたいと思います。また、マネジャーとしては実績構築も重要なので、より良い戦略やエリアプランを構築するよう取り組んでいますし、戦略実行にチームメンバーを巻き込むために、チームビルディングやメンバーと一緒に営業所を運営していくという意識を大切にしています。私らしさも大切にしつつ、リーダーとして、その時の場面よってスタイルを変えながら対応しています。

(鷲尾様)以前は、リーダーは先頭に立って部下を引っ張っていかなければならないと思っていました。しかし振り返ってみると、自分が一緒に働きやすかったマネジャーはそういったリーダーシップの取り方はしていなかったこと、また多様なリーダーシップの取り方があることに気付き、「自分にもできるかもしれない、やってみよう」と思えるようになりました。

現在は、メンバーの方が今の事業部についての知識が豊富なこともあるため、メンバーの意見を尊重し、自分がわからないときはわからないと伝えるなど、オープンに接するようにしています。自分で背負いすぎず、皆で一緒にチームを作り上げていく雰囲気を大切にしています。

自分一人で抱え込まず視野を広く持ち、チャレンジをためらわないことが重要

今後の中長期的なキャリア展望を教えてください

(川上様)自分が今所長を務めているのは、「より多くのドクターや患者様に貢献したい」という想いがあるからです。今後も引き続き、その思いを実現できるキャリアを形成していきたいと考えています。直接顧客とコミュニケーションがとれる営業職への思い入れは強いですが、より多くの顧客へ貢献するには視野を広げる必要があることから、より上位のポジションや他の部署への挑戦も視野に入れています。

(鷲尾様)今後数年はマネジャー職を続けてピープルマネジメントの経験を積み、自分の下で働きたいとメンバーから思ってもらえるようなマネジャーになりたいです。また、営業とは別の職種や他の事業部など、様々なことを経験できればと考えています。

これからマネジャーを目指す女性にメッセージをお願いします

(川上様)ぜひ自分自身にかけているバイアスに気付いてください。自分を女性という枠組みではなく、社員の一人として捉えて、いろいろな人に話を聞き視野を広げることが重要です。男性社員にも女性社員に対する考えを聞いてみると、自分が抱えていた悩みが簡単に払拭されることもあるかもれません。また自分に対するフィードバックを自ら周囲に求めて、自分の自信に繋げてください。自分一人で考えず、広い視野で考えてキャリアに繋げてほしいと思います。

(鷲尾様)「私なんて」「私にはできない」と考えてしまうこともあるかもしれません。しかし、チャレンジをためらわないでほしいです。やりたいことが明確にあるなら、積極的に声を上げないと通らないこともあるので、ぜひ手を挙げてください。また、新しい仕事の話がもちかけられた時は、まずやってみると意外と新しい道が切り開かれて楽しい未来が待っているのではと思うので、積極的に挑戦してほしいです。

後編:ジョンソン・エンド・ジョンソンにおけるDE&I施策

企業理念に謳われる多様性。グローバル戦略の下、日常業務の中での実現を目指す

経営戦略上のDE&Iの位置付けについて伺えますか

(工藤様)ジョンソン・エンド・ジョンソンの企業理念である「我が信条(Our Credo)」には、「社員一人ひとりが個人として尊重され、受け入れられる職場環境を提供しなければならない。社員の多様性と尊厳が尊重され、その価値が認められなければならない」と明記されています。従って、DE&Iは何か特別なことというわけではなく、自分たちのベースにあるものという位置付けです。

グローバルでのDE&Iの方針や、日本支社での施策との関連性について教えてください

グローバルでのコンセプトは、”You Belong.”といって、「一人ひとりが受け入れられて居場所がある」状態を作っていくことを目指すものです。つまり、特別な時だけ行うというものではなく、日常業務の中でDE&Iを実現するという方針が掲げられています。その中で、グローバルで「インクルージョンとイノベーションの文化を推進する」「未来のために多様性に満ちた組織を築く」「ビジネスの成果とレピュテーションを高める」という3つの戦略が定められ、日本でもその戦略に沿ってDE&I施策が実行されています。

経営、人事、社員がそれぞれの役割でDE&Iを推進。中でも社員による自発的な活動がユニーク

DE&Iの推進にあたって、President Council(経営陣)、人事、ERG(Employee Resource Group:社員有志の自発的な活動グループ)、DE&I Councilの連携体制はどのようなものでしょうか

President Councilは、プレジデント(経営陣)としてDE&Iの推進にコミットし、DE&Iに関する指針や重要性を社内外に明確に表明して、様々な活動をサポートしています。人事は、文化を醸成するための制度やトレーニング、リソース整備を担っています。そして、文化は誰かが作るものではなく皆で作るものであるという考えの下、社員の有志が集まったERGが、社員のDE&I意識を高めるために全社員に向けて活動をしています。ERGは世界に12のテーマがあり、日本では、日本においてニーズが高いと考えられるテーマについて社員が提案し、会社の承認を経て活動をしています。そしてこれらの活動を、DE&I Council(各組織の代表やビジネスユニット・人事・広報などが集まるアドバイザリーボード)が横断的にサポートしています。

ジョンソン・エンド・ジョンソンではERGによる社員の自発的な活動が盛んであることが特徴かと思いますが、中でも面白い取り組みや注目すべき活動はありますか

Women’s Leadership & InclusionというERGグループでは、2005年に日本での活動を開始して以来、今年初めて参加者の半数が男性となるなど、ジェンダーを超えた活動を推進しています。ジェンダーダイバーシティや女性活躍支援というと、従来は「若い女性がマネジャーになる」「産休育休を経て復帰する」という部分がフォーカスされていましたが、現在では医学的な観点から見たジェンダーの違いや、キャリア形成に関する学びの場を提供するなど、ジェンダーの垣根を越え、全社員が自分らしく働けるという視点での取り組みを行っています。 

今年発足したGenerationNOWは、すべての世代を対象に、「世代を超えて今を一緒に生きる私たちが経験や価値観を共有し、価値を生み出していこう」というコンセプトで始まりました。今年は試験的にリバース・メンタリングを行い、経営陣自ら若い世代からメンタリングを受けました。

他にも、LGBTQ+とのその支援者から成るOpen&Out、障がい・メンタルヘルスなどの理解促進と支援活動を行うAlliance for Diverse Abilitiesがあり、社内向けの取り組みだけでなく対外的な活動も行うなど、DE&Iのリーディングカンパニーとして社会全体を良くしていくことを目指しています。

社員のDE&I意識を高める仕掛けとして、DE&I活動は目標設定等の人事制度に連動させていますか

全社員に求められるリーダーシップ行動には、多様性に関するリーダーシップも含まれ、それをベースに目標設定が行われます。また、ピープルリーダーは全員、DE&Iの目標設定が必須であり、DE&Iの取り組みに責任を持っています。目標設定は主に行動ベースとなり、例えば「チームメンバーにDE&Iのイベントへの参加を促す」「自分が中心となってチームメンバーとDE&Iを理解するワークショップを行う」などが挙げられます。また、DE&I推進活動全体では、イベントの参加人数の推移や満足度なども指標としています。私たちが皆で取り組むDE&I活動は、「社員一人ひとりが会社に居場所があると感じられる」のはどういう状態かということを追求するものと捉えています。

社員の意思を尊重しながらDE&I活動を実施。様々な取り組みを経験しながら、社員一人ひとりが文化を育む

これまでDE&I活動で苦労した点、工夫している点はありますか

DE&Iの活動には終わりがありません。何ができたら「できた」と言い切れるものでもないですし、目に見えない多様性や価値観もたくさんありますので、自分たちの今の姿を客観的に捉えようとする際に難しさを感じることがあります。また、会社としては様々な活動を行っていますが、積極的に参加したい人もいれば、そうでない人もいます。それも多様性の一つであり、実際DE&Iに関するイベントは必須参加にせず、任意参加というスタンスをとっています。そのような中でも、DE&Iをビジネスの力にし、イノベーションを生み出していくために、取り組みを継続していくことにおいてさらに努力が必要と考えています。

貴社では社員による自発的な活動が盛んであるなど、DE&Iを尊重する文化がかなり浸透している印象ですが、その背景には何があると思いますか

Women’s Leadership & Inclusionが2005年に日本で活動を開始して15年以上になります。当時は「我が信条(Our Credo)」もあり多様性も大事にしていましたが、どうしたらいいのかわからない、本当にビジネスに良い影響があるのか明確ではないという時代だったと思います。様々な取り組みを試行錯誤しながら行う中で、社員一人ひとりがDE&Iが大事であると実感し、会社もサポートを続けて形にしてきたということではないでしょうか。現在も、様々な取り組みを皆で経験しながら一人ひとりが文化を育んでいると思います。

2021年11月16日 対談実施

写真撮影のために一時的にマスクを外しています
 

【編集後記】

女性営業マネジャーお二方へのインタビューでは、リーダーシップ像へのバイアスを打ち破り、マネジャーという新たな職種で活躍され、今後も新たな領域に挑戦していきたいと意欲的に語っておられることが印象的でした。また、お二人ともマネジャーを目指す上ではリーダーシッププログラムへの参加が大きかったとおっしゃっていたことから、改めてリーダーシッププログラムの有効性を感じました。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのDE&I施策については、多様性が企業活動のベースであるという概念や、グローバル、そして日本での経営陣の方針と社員の自発的な取り組みがうまく共存していることが特徴的でした。また、目標を行動で設定するなど、随所に社員のことを信じ、自発性を重視する思想が見られ、社員の意思を尊重する姿勢が成功の秘訣なのではと思います。

先進企業とはいえ、地道な取り組みを通して一人ひとりが文化を育んでいるというジョンソン・エンド・ジョンソン。年代に応じた心身の変化に着目した取り組みや育休復帰後の中長期的なキャリア形成にフォーカスした取り組み等、次なる取り組みも進んでいるとのこと、今後も他企業の道しるべとなるのではないでしょうか。

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