DEI

ミッション・バリュー体現の土台となるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進 

イノベーションを支える多様性の文化

DEI ロールモデル対談 第5回

田中 マヤ 様

株式会社メルカリ所属
株式会社メルペイ HRBP マネージャー

2018年にメルカリ入社。通訳・翻訳チームのマネージャーを務める傍ら、メルカリの育成型組織の土台作りやメルペイのD&I推進をリード。2021年にHRBPへ正式に異動し、現在はメルペイHRBPチームのマネージャーを務める。


インタビュアー:菅原翔子
組織・人事変革コンサルティング部門 アソシエイトコンサルタント

 目の前の課題と向き合いながら、自分で仕事をつくっていく。所属・肩書は後からついてくるもの

メルカリ入社後のキャリアについて教えていただけますか


2018年、通訳・翻訳担当として、メルカリに入社しました。当時メルカリは、グローバル企業を目指し、規模拡大の真っ只中でした。海外から積極的に採用を進める一方、社内ではマネージャーとメンバーの1on1ミーティングですら通訳が必要な状態でした。通常、通訳とは存在感をあまり出してはいけないと言われています。しかし、日本語を全く話せないエンジニアと、海外で働いた経験がない日本人のマネージャーの間には、言葉だけではなく文化の違いがありました。「伝えたはずなのに、相手にうまく伝わらない」というジレンマを双方から聞くうちに、通訳の域を超えて、その場をファシリテートしたり、本人の気持ちを汲んで意訳したりするようになりました。マネジメントや仕事の進め方について相談を受ける機会が増え、「マネージャーとメンバーの架け橋」のような存在になっていきました。

その後も、通訳・翻訳チームのマネージャーをしながら、人事評価制度の改定や人材育成の仕組みづくりなど人や組織にかかわる課題解決に継続的に携わってきました。現在は、メルペイでHRBPのマネージャーをしています。メルペイのD&I推進に関心を持ち始めた頃、周囲から強く勧められ、人事組織に異動しました。所属上はキャリアチェンジしたと見えるかもしれません。しかし、私としてはたとえ所属が変わっても仕事の内容は変わっていないと感じています。組織課題はどの会社にも無数にあります。自分自身が「おかしいな」と違和感を覚えたことを深堀りし、社内で協力者を得ながら課題に対して働きかけてみる。その繰り返しで、自然と一番適した組織への所属が決まりました。本業に加えて関心があることに継続的に関わっていたら、結果的にキャリアが拓けていた、そのような感覚です。

 

以前からD&Iに関心があったのですか

D&Iに関心をもち、活動を始めたのはメルカリに入社してからです。優秀な女性がなかなか管理職に登用されない悔しさから、何とかしたいと思ったことがきっかけでした。ただ、D&Iの考え方自体は昔から馴染みがありました。私は、10歳まで日本の小学校に通い、その後アメリカに引っ越した経緯があります。日本とアメリカ、どちらにおいてもマイノリティだと感じることがありました。マイノリティとマジョリティ両方の経験を持ち、双方の気持ちに寄り添えることは、D&Iに携わる中で私の強みとして活きています。

 

会社のミッション・バリューの実現のために、D&Iは必要不可欠。多様な意見を結集して活用するインクルーシブな企業だからこそ、サステナブルに成長できる

メルカリでD&Iを推進する理由は何ですか

『新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る』という会社のミッションの実現にD&Iは欠かせません。特定の声だけを反映していてはユーザーの幅を狭めます。多様な意見を聴き、受け入れ、活用するインクルーシブな企業でなければ成長はないと考えます。D&Iに対して100%の社員が賛同しているわけではないものの、何もしないと後退してしまうので、模索しながら取り組みを進めているところです。

また当社では、『Go Bold』『All for One』『Be a Pro』というバリューをとても大切にしています。バリューは社員に浸透していて、会話や意思決定の際にも、「それって『Go Bold』じゃないよね。」という言葉が自然と出てくるほどです。D&Iはこのようなバリューを発揮していくうえで土台となる重要な考え方です。だからこそ、最近改定した人事制度の中にも、バリューと併せてD&Iの項目を取り入れました。『Go Bold』の評価が高くてもD&Iが欠けている人がいた場合、管理職への登用を慎重に議論し、見送る場合もあります。

D&I推進のために、数値目標を掲げていますか

数値的なゴールは、意図的に設定していません。例えば女性管理職の数値目標を定めた場合、登用された側は、実力で選ばれたのか、D&Iの数値目標達成のために選ばれたのか不安を感じるでしょう。登用された側のことを考慮すると、数値目標は持たない方が良いというのが当社の方針です。数値目標は置きませんが、プロセスKPIを設定し、平等な登用・昇格プロセスになるよう尽力しています。定期的にマネージャーやリーダーシップの比率を確認し、進捗がない場合にはプロセスを再度見直すなどの振り返りも実施しています。また、施策の効果を測るために、定期的にサーベイも行っています。「D&Iを自分の言葉で語れますか?」といった問いのサーベイを実施し、スコアが上がれば、D&Iが着実に浸透していると見なしています。近年、サーベイのスコアは上がってきており、施策や対話の手応えを感じています。

 

具体的には、どのようにしてD&Iを推進していますか

入社者に対しては、オリエンテーションやe-Learningを通してD&Iの大切さを伝えています。また昨年、社内委員会『D&I Council』が、全社員対象にワークショップ形式で研修を行いました。研修の資料自体は全社員共通のものを活用しましたが、部署ごとに異なる事例を交えて、受講者が自分ごととして理解し腹落ちするにはどうすれば良いのか、進行の仕方も工夫しています。

加えて、新しい人事制度を検討する際には、人事組織のマネージャーとD&Iチームが集い、それぞれの視点から意見交換し、D&Iの観点を人事制度に反映するようにしています。

 

田中様が力を入れて取り組んでいらっしゃる施策はありますか

メルペイにおける女性活躍の推進です。メルペイは、ITとファイナンスを掛け合わせたサービスを展開しています。日本全体として女性エンジニアの数が少ないと言われる中、さらにファイナンス領域が加わるメルペイでは、女性活躍に対するケアが必要不可欠だと考えました。女性活躍を推進するために、まずは経営層に対する問題提起に取り組みました。メルペイの女性登用率の将来予測を示し、「何も手を打たないと数値は一向に上がらない。メルペイとしてそれでも良いのか」と危機感を訴えた結果、経営層からもコミットいただきました。様々な施策を提言しましたが、費用があまり掛からないものについても積極的に提案しています。例えば、女性社員を対象としたメンター制度、女性だけのシャッフルランチなどです。男性と比較して、女性は自分のことを低く見積もり、リスクを取りたがらない傾向があると言われています。社内のネットワーキングは、女性のキャリア形成を後押しするうえで有効だと考えました。

女性の管理職登用に一定の成果が出始めた頃、今度は女性の採用者数が少ないことに気が付きました。そこで、女性がより応募しやすいような仕組みづくり、具体的には募集要項の書き換えやセミナーの実施などを通じて、女性の採用強化に取り組んでいます。女性活躍の動きは、メルペイからメルカリ全体に波及しているものもあり、やりがいを感じています。

自分ひとりの力だけでD&Iのすべてを成し遂げられるとは思わない。様々な立場の人に理解者になってもらい、共に推進していくことが重要

D&Iを推進する中で、否定的な意見をもらうことはありますか

 

「会社が成長しているのにD&Iに取り組む必要はあるのか」「女性だけを特別扱いして下駄を履かせるのか」「自分にはバイアスはない」といった意見もあります。時と場合によりますが、私は全員が同じタイミングで納得する必要はないと考えています。それぞれのタイミングで納得してもらえば良いと気長に構えなければ、D&I担当者は疲れてしまいます。また、自分の力だけで周囲を説得しようとする必要もありません。自分が働きかけるより似たような経験・職種の人から説得してもらった方が、物事がスムーズに進む場合があります。だからこそ、経営層含め、様々な立場の人に理解者になってもらうことをとても大切にしています。

また、D&I推進者も多様な視点を持つことが重要です。例えば、「どんな人でも自分の居場所を感じられる会社をつくりたい」という人もいれば、「会社は会社だから、個人がそれぞれ居場所をつくれば良い」と考える人もいます。D&Iの活動が大きくなるにつれ、多様な人を巻き込む重要性は増します。しかし、道徳的にD&Iが必要だからという訴えだけでは多くの人を説得できません。そのためには、D&Iにあまり関心がない人の意見を聴いたり、自分の考えとはあえて反対の主張の本を読んだりすることが大事です。日本独自の問題もあるため、海外と日本の書籍両方を読むよう心掛けています。

貴社の東京オフィスで働く社員の約2割が外国籍と伺いました。外国籍の人材に対するバリューやD&I浸透のうえで、意識されていることはありますか

例えば、人事制度の説明会を実施する際に、英語の説明会の方がその場ですぐに質問や意見が出るという傾向の違いは感じますが、外国籍だから特別に意識して対応するようなことはありません。大切なのは、国籍に関わらず、心理的安全性のある環境です。心理的安全性は意識しなければすぐに低下してしまうので、どれだけネガティブな意見が出たとしても、歓迎するように心掛けています。すべての意見を取り入れられるわけではないですが、会社に関心を持っているからこそ発言してくれると考えていますし、意見を踏まえて検討した結果を必ず説明することで、信頼や心理的安全性はつくられると感じています。そのような環境で繰り返し対話していくことこそが、バリューやD&Iを徐々に浸透させていくため、大切ではないでしょうか。

日本の女性活躍指数を120位から100位以内へ。日本社会の女性活躍推進に貢献できるよう、メルカリで挑戦を続けたい

今後の中長期的なキャリア展望を教えてください

日本は優秀な女性が多いのに、家庭と仕事の両立で、仕事を辞めざるを得ない人はまだまだいると感じています。メルカリがそのような方々に勇気を与え、他社の見本となれるような会社になれるよう尽力したいです。世界経済フォーラムが発表した『ジェンダーギャップ指数2021』によると、日本の女性活躍指数は156か国中120位でした。ジェンダーギャップ指数には様々な要因が影響すると理解していますが、日本が100位以内に入れるように少しでも貢献できればと考えています。

 

最後にD&I推進者に対してメッセ―ジをいただけますか。

D&I推進者には情熱をもって大きな目標の実現に取り組んでいる人が多いと感じます。D&I浸透への道のりは長く、地道です。あまり自分一人で抱え込まず、上手く周囲の力を借りながら、一歩一歩実現できる範囲で目標を設定して、クリアしていくことをお勧めしたいです。

 

2022年4月12日 対談実施

写真撮影のために一時的にマスクを外しています

【編集後記】

自社の組織文化に合うやり方を模索しながら、D&I推進に取り組まれる様子がとても印象的でした。女性登用数等の数値的なゴールを持たない、評価制度にD&I指標を組み込むといった一つひとつの決定には、メルカリの哲学を感じます。また、オープンな対話を重視されていることが心理的安全性を高め、D&I推進のドライバーとなっているように見受けられました。メルカリにおいて、D&Iはミッション・バリューの体現の土台となる考え方です。担当者からの一方的な発信ではなく、社員から多様な意見をもらい、さらに良いものに昇華させていくというプロセスこそがまさにD&Iそのものだと感じました。

さらに、D&Iを推進するうえでは、すべて一人で対応しようと気負わず周囲の理解者の力を借りながら進めること、多様な意見を持つ人を説得するために自分の主張と反対の意見をあえて勉強してみること、スモールゴールを設定して少しずつ前に進んでいくことなど、重要なポイントを教えていただき、とても勇気づけられました。

最後に、本対談では触れなかったものの、メルカリのホームページでは、「無意識(アンコンシャス)バイアス」を適切に理解するためのワークショップ資料およびそのファシリテーション方法が無償で提供されています。「自社の取り組みを共有し合い、日本社会としてD&Iが進めば嬉しい」とその背景を教えていただきました。自社の取り組みに留まらず、社会全体に働きかける姿に大変感銘を受けました。

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