確定拠出年金の資産配分と意思決定について|マーサージャパン

確定拠出年金の資産配分と意思決定について

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確定拠出年金の資産配分と意思決定について
Calendar2019/06/10

ほとんどの経済理論は、選好の推移性(A>B、B>Cという選好を持っていれば、A>Cという選好となる)が仮定されている。しかし、実際の選択結果を見てみると、選好の推移性を満たさないケースが多々散見される。心理学や、それを経済学に応用した行動経済学においては、人々の認知能力には限界があることを前提に、推移性を満たさない選択を対象とした研究が数多く存在しており、そちらの手法を用いた方が、現実をより分かりやすく説明できることがある。

ファイナンスの世界において、このようなことが問題となるのは、個人が資産配分を決定する確定拠出年金であろう。Benartzi and Thaler(2002)は、被験者に対して自分が選択した確定拠出年金の資産配分から期待されるリターン分布と、加入者の資産配分の中央値から期待されるリターン分布を示し、それぞれの配分について評価をさせたところ、中央値の配分の方が評価の高い傾向にあった。このことから、個人が行う資産配分の決定においては、経済学が想定するような推移性の仮定を満たさないケースが存在するようである。

実際の配分においても、企業年金の平均的なポートフォリオと比較すると、預金や国内株式に大きく偏っており、直観的にあまりいい配分でないと感じる方が多いだろう。*1今回は意思決定における情報処理の負荷という観点から、これらの現象が発生する原因を考えていく。

図1:DCとDBの平均的な資産配分の比較


出所:企業年金連合会「企業年金実態調査(2017年度概要版)」及び企業年金連合会「確定拠出年金統計資料 2002年3月末~2018年3月末」より筆者作成

 

意思決定の方法は、情報処理の方法によっていくつかの種類に分けることができる。例えば、複数の比較項目に対して重みづけした得点を付与し、その合計が高いものを選択する加法型方略、重要な項目の評価から選択肢を絞っていく辞書編纂型方略などである。また、ヒューリスティクスと呼ばれる、経験的に使われる簡便な方法も存在する。伝統的なファイナンス理論によるポートフォリオ構築は、リスク、リターン、相関行列から必要な情報を取得し、平均分散効率的なウェイトを計算するため、加法型の様な複雑な意思決定方略である。これらの意思決定方法は、選択肢の数、評価属性の数、時間制約などの状況に応じて、使い分けられていることが知られている。Payne et al(1988)。選択肢、評価属性が多くなるほど、情報処理のための心理的負担が大きくなるため、負担が少なくなる方法(例:辞書編纂型やヒューリスティクスなど)が選択される傾向がある。

確定拠出年金において有名な意思決定方法のひとつは、Benartzi and Thaler(2001)によって発見された1/nヒューリスティクスである。この論文では、被験者にバランスファンドと債券ファンドを提示した時の好ましい資産配分と、バランスファンドと株式ファンドを提示した時の好ましい資産配分をそれぞれ回答してもらい、株式と債券のエクスポージャーを比較した。バランスファンドの内訳を考慮していればエクスポージャーは両方の回答で変わらないはずであるが、実際は株式ファンドを提示した場合は株の、債券ファンドを提示した場合は債券のエクスポージャーが高くなった。また、米国の401kプランの株式ファンドの本数と、加入者の株式への配分を比較すると、株式ファンドの本数が相対的に増加すると、株式への配分が増える傾向にあり、人々は与えられた選択肢に対して分散する傾向があることがわかった。

しかし、1/nバイアスは選択肢の数が増えるに従い、効果が薄れていくことが知られており、Huberman and Jiang(2006)は、選択肢の数が10本以上では、ファンドの数と資産配分の間の相関が有意でなくなると指摘している。企業年金連合会による「確定拠出年金に関する実態調査」によると、リスク資産の間の関係のみに着目すれば、平均的に1/nバイアスが成り立っているように見えなくはないが、元本保証型を含めた全体の配分においては、元本保証型商品の本数に対して明らかに配分が大きい。

図2:資産配分と商品数の割合(全体)


図3:資産配分と商品数の割合(リスク資産のみ)


出所:企業年金連合会「確定拠出年金統計資料 2002年3月末~2018年3月末」及び企業年金連合会「2017(平成29)年度決算 確定拠出年金実態調査結果(概要)」より筆者作成

 

実は、元本保証型商品の配分が高くなることに関しても、心理的負担の観点から考えることができる。竹村(1996)は、心理的負担があまりに大きい場合、人々がその場から離れる傾向があることを指摘している。Iyenger and Lipper(2000)の実験では、店頭に24種類のジャムを6種類のジャムを展示したところ、24種類のジャムを展示した場合には60%の人が立ち止り、そのうち3%の人がジャムを購入した。一方で、6種類のジャムを展示した場合は、40%しか立ち止まらなかったものの、そのうち30%の人がジャムを購入した。これは、多数の選択肢に魅力を感じて立ち止ったものの、いざ選択となると心理的負担が高く、購買には結びつかなかったからと考えられる。

リスク資産に関する研究では、Iyenger and Kamenica(2010)によって、選択肢の本数が安全資産の配分に影響を与えることが、実験、実証の両面から示されている。実験においては、確実に一定額がもらえる選択肢を含む3本のくじと、10本のくじを被験者に提示したところ、3本のくじでは最もリスクの高い選択肢が選好され、10本のくじにおいては、無リスクの選択肢が最も選好される結果となった。また、401kプランの加入者が選択する資産配分を、そのプランの商品数で回帰したところ、商品数の増加が、有意に株式への配分を減少させ、債券への配分の増加させることが分かった。

以上のことから、確定拠出年金の意思決定においては、選択肢が少ない場合でさえ、平均分散効率的なポートフォリオではなく、1/nの様な、資産を分散させるヒューリスティクスが使われているようだ。そのため、出来上がった配分は選択肢によって変化してしまう可能性がある。また、選択肢の数が多くなるにつれ、意思決定の負担が高くなり、安全資産の配分が増える傾向にあるようだ。*2

これらを考慮した万人に最適な商品選定は恐らくできないだろう。心理的負荷の感じ方は人それぞれであり、商品数を絞った場合、資産運用に興味のある人にとっては物足りないプランとなってしまう一方、商品数を増やしてしまうと、資産運用に興味のない人が元本保証型に逃げてしまう。この問題のひとつの解決策は投資教育だろう。リテラシーの向上により意思決定の負担が軽減されれば、商品数の増加による負の影響を軽減できるかもしれない。また、「平均的に元本保証型商品の配分を減らす」など、具体的目標に絞ることで、例えば「商品数を減らす」など、何かしらの解決策を講じることができるかもしれない。


*1 確定給付企業年金が保有する生保一般勘定は元本保証型に含めた
*2 但し、現実にはフレーミング効果等の影響を受けるため、必ずしも今回のコラムで書かれたことが原因の全てではない


参考文献
[1] Benartzi, Shlomo, and Richard H. Thaler. 2001. “Naïve Diversification Strategies in Defined Contribution Saving Plams.” American Economic Review, 91(1): 79-98.
[2] Benartzi, Shlomo, and Richard H. Thaler. 2002. “How Much is Investor Autonomy Worth?” Journal of Finance, 57(4): 1593-1616.
[3] Huberman, Gur, and Wei Jiang. 2006. “Offering versus Choice in 401(K) Plans: Equity Exposure and Number of Funds.” Journal of Finance, 61(2): 763-801.
[4] Iyenger,Sheen S., Emir Kamenica. 2010. “Choice Proliferation, Simplicity Seeking, and Asset allocation.” Journal of Public Economics, 94, 530-539.
[5] Iyenger,Sheen S., Mark R. Lepper. 2000. “When Choice is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing?” Journal of Personality and Social Psychology, 79(6): 995-1006.
[6] Payne, John W., James R. Bettman, and Eric Johnson. 1988. “Adaptive Strategy Selection in Decision Making.” Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 14(3): 534-52.
[7] 竹村和久(1996)「意思決定の心理―その過程の探求」福村出版
[8] 企業年金連合会「2017(平成29)年度決算 確定拠出年金実態調査結果(概要)」https://www.pfa.or.jp/activity/tokei/files/dc_chosa_kessan2017_1.pdf
[9] 企業年金連合会「確定拠出年金統計資料 2002年3月末~2018年3月末」https://www.pfa.or.jp/activity/tokei/files/dc_toukei_20190212_1.pdf
[10] 企業年金連合会「企業年金実態調査(2017年度概要版)」https://www.pfa.or.jp/activity/tokei/j-chosa/files/jittaichosa_gaiyou_2017.pdf




新井 拓也

執筆者: 新井 拓也 (あらい たくや)
資産運用コンサルティング
アナリスト


 

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