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運用資産額を踏まえた商品選択

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運用資産額を踏まえた商品選択
Calendar2019/04/19

アクティブマネージャーがアルファを獲得できるかという疑問は、ファイナンス研究の主要なテーマのひとつであり、多くの学術研究が行われてきた。結論には多少の違いがあるものの、多くの学術研究が、アクティブマネージャーは「平均的には」リスク調整後のアルファを獲得することができず、少数のマネージャーが有意にアルファを創出するものの、アルファは長期にわたって持続しないことを支持している。例えば、Jensen(1968)の古典的な研究では、報酬控除後で有意なアルファを獲得できたファンドは、115ファンド中1ファンドのみであった。また、Carhart(1997)は超過リターンの短期の持続性はモメンタムファクターによって説明することができ、上位ファンドと下位ファンドの間にアルファの差があるものの、その主な要因は下位ファンドの影響であること示した。一方、Kosowski et al(2006)では、アルファの分布の歪みを調整することで、上位ファンドにおいて1~3年のリターンの持続性があることを示した。また、Fung et al(2008)は、Fung-Hsieh7ファクターモデル(Fung、Hsieh(2004))を用いてヘッジファンドを分析したところ、約20%のファンドがアルファを獲得しており、そのうちの一部は、その後の期間においてもリターンが持続していたことを確認した。

この事実だけを見ると、ほとんどのアクティブマネージャーはアルファ獲得能力がないように思われるかもしれない。しかし、報酬控除後でアルファが残らない原因は、必ずしもマネージャーの能力によるものではないことを、Berk、Green(2004)が、経済学的な均衡モデルを用いて理論的に説明した。結論から言うと、例えアルファ獲得能力があったとしても、アセットオーナーが自由に資金の出し入れができれば、運用資産額の増加を通じて運用コスト・運用報酬控除後でリターンがゼロに近づいていくため、超過リターンは持続しないということである。この論文の面白いところは、アセットオーナーにアルファが残らない原因を、運用商品市場(アセットオーナーとマネージャーの間の市場)の均衡に着目したことと、今まで実証分析で示されていた事実と整合的な結果を理論モデルから導出したことであると筆者は考えている。

Berk、Green(2004)では、運用商品市場は競争均衡であり、無数のマネージャーとアセットオーナーが存在しており、アセットオーナーは超過リターンを獲得できると思うマネージャーに自由に資産を配分できる状態を想定している。アセットオーナーは、実現したリターンからマネージャーのリターン獲得能力を推定し、その能力に応じて資産を預けるか引き出すかを決定する。マネージャーは、運用資産の規模が大きくなるにつれ、アルファを維持するためのコストが逓増*1する。マネージャーの利得は、運用資産額に報酬率を乗じた額であり、アセットオーナーの利得は、実現したリターンから運用コストと報酬を引いた額である。

この様な前提をもとに、それぞれの主体の最適な行動を計算すると、次のような結論が得られる。

  1. 超過リターンがプラスであれば資本流入、マイナスであれば資本流出が起こり、報酬控除後の期待リターンがゼロになるよう運用資産額が調整される。
  2. マネージャーのリターン獲得能力と運用コスト・運用報酬が釣り合うまで、資本流入が発生する。そのため、能力のあるマネージャーは多くの報酬額を得ることができ、アセットオーナーに残るリターンがゼロであっても、マネージャー間の収益格差が生じる。
  3. ファンドの運用年数が長くなるにつれ、過去のリターンの蓄積によってマネージャーの能力の推定における直近のリターンの影響が少なくなる。そのため、運用年数が長いほどキャッシュフローが安定する。


この理論から導かれた結論は、下記の研究によって実証されている。Fung et al(2008)は、アルファを獲得したファンドは、他のファンドに比べて多くの資本が流入しており、これがアルファやアルファの有意性の低下に影響していることを示した。さらに、1990年代から2000年代前半にかけてヘッジファンドの運用資産額が増加しており、それと共にヘッジファンドの平均的なアルファも減少していることから、市場全体の運用資産額の増加が、ヘッジファンド市場のアルファの低下につながった可能性を指摘している。また、Boyson(2008)は、アルファの有意性、サイズ、運用年数の関係を調べると、サイズの大きいファンドや運用年数が長いファンドの方が、アルファの有意性が低い傾向があることを確認した。

これらの研究から得られる実務への教訓をまとめると、次のようになる。アルファは短期的には持続する可能性があるため、可能であれば過去の実績を分析するべきである。しかし、アルファの持続性は運用資産額の増加を通じて減少してしまうため、キャパシティ管理をしっかり行っているマネージャーや、運用資産額増加を目指すインセンティブが少ないマネージャーなどを、定性的に判断することが必要となる。また、商品カテゴリー全体の運用資産額についても考慮することが望ましく、過去の実績が良好であった市場においても、運用商品市場の競争が十分に働いてしまうと、資本流入を通してアルファが減少してしまう可能性がある。現実はこれらの研究が仮定している世界より複雑であり、これらの教訓を単純に当てはめることができないかもしれない。しかし、委託運用において、自分にどれだけアルファが残るかということは、必ずしも採用するマネージャーのアルファ獲得能力と一致するものではないと認識しておく必要がある。


*1 Berk、Green(2004)は、情報収集活動を非常に薄く広げること、巨額の取引が価格に与える影響や執行コストを捉えたものと説明している。筆者の見解であるが、例えば、運用資産額が大きくなるにつれ、アルファを維持するためにはリサーチ範囲を広げ、より詳細な調査をする必要が出てくる。また、市場取引額の少ない銘柄は、巨額の売買執行が困難であり、アルファのとれる範囲が限られてくる。そのため追加的な費用は増加していくと仮定することは妥当であると考える。但し、Berk、Green(2004)は、この仮定はある程度資産があるファンドが対象であると述べており、運用規模が小さく資産額の増加が費用逓減をもたらすようなファンドは、このモデルの射程外である。


参考文献
[1]Berk, Jonathan, and Richard Green. 2004. ”Mutual Fund Flows and Performance in Rational Markets.” Journal of Political Economy, vol.112, no.6: 1269-1295.
[2]Boyson, Nicole. 2008. ” Hedge Fund Performance Persistence: A New Approach” Financial Analysts Journal. Vol.64, no.6: 27-44.
[3]Carhart, Mark M. 1997. “On Persistence in Mutual Fund Performance.” Journal of Finance, Vol.52, no.1: 57-82.
[4]Fung, William, and David A. Hsieh. 2004. ”Hedge Fund Benchmarks: A Risk-Based Approach” Financial Analysts Journal, Vol.60, no.5: 65-80.
[5]Fung, William, and David A. Hsieh, Narayan Y. Naik, and Tarun Ramadorai. 2008.” Hedge Funds: Performance, Risk, and Capital Formation” Journal of Finance, Vol.63, no.4: 1777-1803.
[6]Jensen, Michael C. 1968. “The Performance of Mutual Funds in the Period 1945-1964.” Journal of Finance, Vol.23, no.2: 389-416.
[7]Kosowski, Robert, Allan G. Timmermann, Russ Wermers, and Hal White. 2006. ”Can Mutual Fund ‘Stars’ Really Pick Stocks? New Evidence from a Bootstrap Analysis.” Journal of Finance, Vol.61, no.6: 2551-2595.



新井 拓也

執筆者: 新井 拓也 (あらい たくや)
資産運用コンサルティング
アナリスト


 

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