確定給付企業年金における財政運営基準の見直しについて

2012年1月31日に確定給付企業年金の財政運営基準等の見直しが公示されました。以前のニュースレターにて解説いたしました通り、確定給付企業年金では毎年度の決算時に「継続基準」「非継続基準」の両基準による積立状況の検証が義務付けられています。本稿では、今回の見直しのうち、掛金額への影響が大きい下記3点の見直しに絞って、ポイントを解説いたします。

  • 継続基準における過去勤務債務の償却方法の追加
  • 非継続基準の【積立比率判定】および【必要掛金算定方式】における積立比率の段階的引き上げ
  • 非継続基準抵触時の【必要掛金算定方式】のうち「回復計画方式」の廃止

 

Ⅰ.継続基準における過去勤務債務の償却方法の追加

「継続基準」とは、年金制度が永久に継続するという前提のもと、将来の掛金拠出分では賄えない現時点で積立しておくべき額(責任準備金)と年金資産(実際の積立金)とを比較することで、財政再計算時に立てた掛金の拠出計画に問題がないかチェックする基準です。継続基準に抵触した場合、財政再計算時と同様、過去の勤務期間に対応する給付にかかる債務(数理債務)から年金資産を差し引いた額(過去勤務債務)を償却する掛金(特別掛金)を見直す必要があります。
この償却方法として、従来は「元利均等償却」「弾力償却」「定率償却」の3つの方法が選択可能でした。

加えて今回の見直しで「段階的引き上げ償却」の選択が可能となりました。「段階的引き上げ償却」とは、過去勤務債務の償却期間のうち当初5年間について、段階的に償却額を引き上げる償却方式です。ただし、引き上げ方は「定期的」かつ「引き上げ額が経年的に増加しないこと」が条件となります。

具体的に償却開始時の過去勤務債務を100、償却年数を10年の場合の段階的引き上げ償却の掛金設定を例示します。ここでは簡便化のために金利の影響は無視します。

上表は、元利均等償却(ケース1)、段階的引き上げ償却(ケース2・3・4)の特別掛金の推移を示しています。ケース2では毎年の増加額が2ずつ、ケース3では6、2、2、1と経年的に増加していないので、掛金の設定に問題ありません。一方ケース4では掛金の引き上げ幅が2、4、2、1と経年的に増加している年度があるため、ケース4の掛金の設定は認められません。

段階的引き上げ償却」は、不足金が多額に発生した場合に、急な掛金増加が困難な場合に有効な選択肢となるかもしれません。ただし金利の影響を考えると、償却を先送りした分だけトータルの掛金額が増加することに留意する必要があります。

Ⅱ.非継続基準の【積立比率判定】における積立比率の段階的引き上げ

「非継続基準」とは、仮に制度が継続できず現時点で制度を清算しなければならないとした場合、それまでの加入者期間に応じた最低限保全すべき給付の原資(最低積立基準額)が確保されているかどうかをチェックする基準です。具体的には下記のとおりに積立比率の判定を行います。

積立比率 = 年金資産 / 最低積立基準額 として
【基準A】 積立比率 ≧ 1.0 a
【基準B】 積立比率 ≧ 0.9 b かつ
      前3事業年度のうち少なくとも 2事業年度で 積立比率 ≧ 1.0 a
⇒【基準A】を満たさず、【基準B】も満たさない場合、「必要掛金の判定」へ

 

上記判定のa. b.について、2002年4月の確定給付企業年金制度発足以来、低迷する市場環境を考慮して、下表にあるようにa:0.9, b:0.8が適用されていましたが、今回の見直しにより本来の要請水準であるa:1.0, b:0.9とされました。たたし、激変緩和措置として2013年3月末決算から5年間かけて毎年0.02ずつ水準を上げていくことになり、2017年3月末決算よりa:1.0, b:0.9が適用されることとなりました。

Ⅲ. 非継続基準抵触時の【必要掛金算定方式】の変更

Ⅱ.で基準を満たさなかった場合、「必要掛金の判定」を行うことになります。この判定には二つの方式があり、「積立比率に応じて必要な掛金を設定する方式(積立比率方式)」または「積立比率の回復計画を作成して積立不足を解消するように必要な掛金を設定する方式(回復計画方式)」のいずれかを選択して規約に定めておく必要があります。選択した方式により「必要な掛金」を算出し、現行の掛金がそれに不足する場合は、特例掛金または特別掛金見直しにより掛金を引き上げる必要があります。 今回、「必要掛金算定方式」については下記2点の変更が決定しました。

i.「積立比率方式」の比率の段階的引き上げ
ii.「回復計画方式」を2017年3月末決算にて廃止および5年間の暫定措置の設定

i.「積立比率方式」の比率の段階的引き上げ

積立比率方式では「必要な掛金」は下記の式により算出します。

「必要な掛金」 = (1)最低積立基準額の年間増加見込額 + (2)積立比率に応じた掛金
(2)の上限:積立不足分(最低積立基準額-年金資産)
(2)の下限:下記の合計額

積立不足分のうち最低積立基準額×0.8を下回る部分・・・当該部分×1/5
積立不足分のうち最低積立基準額×0.8を上回り
        最低積立基準額×0.9を下回る部分・・・当該部分×1/10
積立不足分のうち最低積立基準額×0.9を上回り
        最低積立基準額×1.0 aを下回る部分・・・当該部分×1/15

従来は【積立比率判定】と同様、(2)でa:0.9が適用されていましたので、積立水準が0.9以上の部分については償却不要とされていましたが、今回の基準見直しに伴い、5年間かけて前表のとおり段階的に引き上げられ、2017年3月末決算よりa:1.0が適用されることとなりました。

ii.「回復計画方式」を2017年3月末決算にて廃止および5年間の暫定措置の設定

回復計画とは、ある前提の下で一定期間内に【基準A】(積立比率 ≧ 1.0 a)を満たすような必要な掛金を設定します。従来適用されていた前提は下記の通りでした。

  • 回復期間 ・・・ 10年以内
  • 積立計画に用いる運用利回り・・・ 直前の財政計算における予定利率以下

今回の基準見直しにより、回復計画方式は2017年3月末決算にて廃止されることとなりました。ただし、それまでの期間は暫定措置として以下の前提のもとで適用可能となっています。

  • 回復期間 ・・・ 7年以内
  • 積立計画における運用利回り
    「過去5事業年度の平均運用実績」と「最低積立基準額の利率」のいずれか大きい率

そもそも回復期間の10年についても【積立比率判定】と同様緩和されたものであり、今回の見直しで本来の7年に短縮されました。また【基準A】(積立比率 ≧ 1.0 a)のa.に対する5年間の段階引き上げは、回復目標についても適用されることになります。

Ⅳ. 非継続基準見直しの影響

今回の見直しは、現在「回復計画方式」を選択している先に特に影響が大きいと思われます。上述のとおり2017年3月末決算までは継続適用できますが、回復期間が10年から7年に短縮されること、および回復計画に使用する運用利回りの定義変更により、必要掛金が大幅に増加する可能性があります。
以下に、具体的な数値をもとに、見直しの影響を検証してみます。

財政状況が下記のとおりで、「回復計画方式」を選択している先とします。なお、簡略化のため、最低積立基準額・年間掛金額・年間給付額は、一定としています。

[現行の基準]
回復期間が10年、かつ90%であったため、掛金額が26で基準を満たしていました。なお、この際の年金資産の運用利回りは、財政計算上の予定利率である4.50%を使用しています。

なお、「積立比率方式」を採用していれば、
(1000×0.8-700) / 5 + (1000×0.9-1000×0.8) / 10 = 100 / 5 + 100 / 10 = 30
であったため、「回復計画方式」より4だけ掛金額が多く必要でした。

[基準見直し後 (回復期間7年, a = 0.9 (比較のため) )]
回復期間を7年と設定すると、以下の回復計画のもとで必要な掛金額は50となり、現行の掛金から24増加させる必要があります。なお、この際の年金資産の運用利回りは、最低積立基準額の予定利率である2.38%を使用しています。

[基準見直し後 (回復期間7年, a = 1.0 (5年間の移行措置後) )]
回復期間を7年と設定すると、以下の回復計画のもとで必要な掛金額は63となり、現行の掛金から37増加させる必要があります。

また5年間の移行措置後の「積立比率方式」では
(1000×0.8-700) / 5 + (1000×0.9-1000×0.8) / 10 + (1000-1000×0.9) / 15 = 100 / 5 + 100 / 10 + 100 / 15 ≒ 37
となり、「積立比率方式」を選択するほうが「必要な掛金」は26も少なくなります。

このように、今回の見直しにより、「積立比率方式」の方が掛金負担を少なくできる可能性は十分にあると思われます。まずは、直近の決算をベースにその影響を確認しておくべきでしょう。弊社では、当該影響額の計算サポートならびに経営層へのご説明(外資系企業の場合は英語も可)のサポートを提供しております。

Ⅴ.コメント

今回の見直しにより、特に5年間の激変緩和措置期間には、掛金拠出のスケジュールに選択肢が多数存在することになりました。本来はこうした緩和措置に関係なく、現時点で2017年度3月末決算以降の基準でも抵触しないような掛金を設定するのが、受給権保護の観点から望ましいのは言うまでもありません。もし余裕資金がある場合、非継続基準の積立比率方式を選択すれば、単年度の間に最低積立基準額に対する不足を一気に解消することもできます。

しかし現実問題として、特に積立水準の低い先にとっては、企業全体の資金繰りの中で、年金の積立不足解消へどの程度の資金を振り向けられるかは重要な問題となります。持続性のある制度運営のためにも、非継続基準のそもそもの仮定である「清算」という事態を避けるべく、法令上強制力のある「拠出の下限」を把握しておくことは非常に意義のあることと思います。


 

執筆者: 奥平 剛次 (おくひら たけつぐ)
年金コンサルティング プリンシパル

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