公的年金の縮小に伴う企業の役割の変化 | マーサージャパン

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公的年金の縮小に伴う企業の役割の変化
Calendar2017/05/12

公的年金には少子高齢化による影響を年金額に反映するマクロ経済スライドという仕組みがあり、将来的な給付水準の縮小が見込まれている。そのため、公的年金を補完する企業年金や個人の資産形成が昨今ますます注目されている。

公的年金の縮小によって変化する企業の役割や従業員の関心について筆者の見解を示す。

1. 公的年金の縮小

今年1月、厚生労働省から平成29年度における公的年金の年金額の改定率は▲0.1%と公表された。

そもそも公的年金の年金額は、受給し始める際(新規裁定)の年金額については名目手取り賃金変動率をベースとし、受給中(既裁定)の年金額については生活水準を維持する目的から物価変動率による改定をベースとし、毎年改定を行っている。平成29 年度の参考指標としては、物価変動率▲0.1%、名目手取り賃金変動率▲1.1%であったが、改定のルール上、この場合、どちらも物価変動率▲0.1%をもとに改定を行うこととされている。

野党が「年金カット法案」と批判した年金制度改革案が昨年末に可決されたが、その法案の目玉は(1)マクロ経済スライドによる調整のルールの見直し、(2)賃金・物価スライドの見直しで、それぞれ平成30年4月、平成33年4月の施行を予定している。詳細は以下の図に示すとおりであり、公的年金制度を持続可能なものとするために、給付調整が可能な部分を織り込もうとするものである。この法案(2)が施行されると平成29年度の改定率は▲0.1%ではなく▲1.1%となる。

1. マクロ経済スライドによる調整のルールの見直し

<景気拡大期>
物価・賃金の上昇がマクロ経済スライドの調整率を超える場合
<景気後退期>
物価・賃金の上昇がマクロ経済スライドの調整率を超える場合

マクロ経済スライドの調整率が点線のように算定されても物価・賃金の上昇を上回る場合は年金給付額の改定率はゼロとなる
<景気回復期>
物価・賃金の上昇が再びマクロ経済スライドの調整率を超える場合

現在は、景気後退期におけるマクロ経済スライドの未調整分は反映されないが、未調整分をキャリーオーバーできるようにする
 

2. 賃金・物価スライドの見直し

物価>賃金>0

本来であれば既裁定の年金額は物価上昇率で決定するが賃金上昇率より高い場合は改定率は賃金上昇率と同じとなる
0>物価>賃金

賃金・物価上昇率がどちらもマイナスであり、物価上昇率が賃金上昇率よりも高い場合は、改定率はどちらも物価上昇率となる。平成29年度のケースである。このケースでは、見直し後は新規裁定、既裁定どちらも賃金上昇率が用いられる。
物価>0>賃金

賃金上昇率がマイナスで、物価上昇率が賃金上昇率よりも高い場合は、改定率はどちらもゼロとなる。このケースでは、見直し後は新規裁定、既裁定どちらも賃金上昇率が用いられる。
 

平成26年の公的年金財政検証では、あらゆる前提においても将来的な所得代替率の低下は免れず、国が約束する所得代替率50%を守るために、上述のようなマクロ経済スライドが十分に発動される仕組みや基礎年金の保険料拠出期間の延長(65歳まで)といった政策が考えられている。平成26年では標準的な年金の所得代替率は62.7%であったが、仮に所得代替率が50%であるとすると現在、標準的な年金額は21.8万円であるが17.4万円に低下する水準である。

※ 所得代替率:年金を受け取り始める時点における、現役世代の平均手取り収入額に対する厚生年金の標準的な年金額の比率

2. 個人の意識改革の必要性

今年4月に国立社会保障・人口問題研究所より日本の将来人口推計が公表され、「総人口は、2065年には8,808万人」「65歳以上の割合は、2015年の26.6%から2065年には38.4%へと上昇」といった印象的な数字がメディアでも大きく取り上げられた。公的年金の縮小だけでなく、平均寿命・健康寿命の伸長に伴い、今後の雇用環境の変化が見込まれる中、国や企業が面倒を見ていた時代から、個人が何とかしないといけない時代になってきていると筆者は感じている。

3. 引退後の生活費

弊社では、毎年、各企業の企業年金・退職金の給付水準やDB・DC等の制度設計に関する調査「退職給付サーベイ」を実施している。

本サーベイによると22歳から60歳まで勤続した場合の全産業の中央値(Median)は一時金ベースで約2700万円程度であった。実際、この金額で退職後の生活に必要な水準を確保できているのであろうか。

以下、60歳以降の収支のシミュレーションを示す。

収入

  • 公的年金:厚生労働省が示す夫婦の年金額の平均 (月21.8万円)
  • 退職金分割:2700万円を60歳以降1%で運用し、85歳まで均等に分割して取り崩した場合 (月10.2万円)


支出

  • 一般的な費用:生命保険文化センターによるアンケート結果に基づく夫婦のゆとりある生活費 (月35万円)

 

以上からも分かるように公的年金支給開始65歳までの生活やいつまで生存するか分からない長生きリスクをカバーするのは企業年金や退職金だけに頼るのでは難しい。節税メリットもあるDCを活用した自己資産形成や以前のコラムで筆者が述べたように60歳以降、65歳以降も勤労所得を得て、公的年金の繰下げ支給で長生きリスクをカバーするのが有益であると考える。こうした人生の長期的なライフプランニングを個人が考えていくとともに、企業も福利厚生の一環として積極的な教育の支援、退職給付制度のアピールで人材の定着にもつなげてほしいと考える。


永島 武偉

執筆者: 永島 武偉 (ながしま ぶい)
年金コンサルティング コンサルタント

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