退職給付に関する会計基準の改正について(日本基準) | マーサージャパン

年金ニュースレター第15号 退職給付に関する会計基準の改正について(日本基準)

年金ニュースレター第15号

退職給付に関する会計基準の改正について(日本基準)

平成24年5月17日に企業会計基準委員会から『企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」』および『企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」』の改正(以下、まとめて「新基準」)が公表されました。

新基準は、平成22年3月18日に同委員会から公表された公開草案と基本的に同内容ですが、未認識項目の処理方法については連結財務諸表と個別財務諸表とで異なる取り扱いがなされることとなりました。

主な改正

1.未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の処理方法

(1) 連結財務諸表における取り扱い

  1. 連結貸借対照表
    現行基準でオフバランスとなっていた未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用は新基準では連結貸借対照表に認識され、退職給付債務と年金資産の差額全額が負債(年金資産の方が大きい場合には資産)として計上されます。
    また、負債の場合には「退職給付に係る負債」、資産の場合には「退職給付に係る資産」の名称で連結貸借対照表に計上されます。
  2. 連結損益計算書・連結包括利益計算書(又は連結損益及び包括利益計算書)
    未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の費用処理方法については変更ありません。
    ただし、数理計算上の差異および過去勤務費用の発生額のうちその期に費用処理されない部分は、連結貸借対照表(その他の包括利益累計額)に計上されます。これらはその後の期間にわたって費用処理され、当期純利益を構成することとなります。

 

(数値例) 数理計算上の差異の処理

 

(2) 個別財務諸表における取り扱い
現行基準から変更はありません。負債の場合には「退職給付引当金」、資産の場合には「前払年金資産」の名称で計上され、こちらも現行基準から変更はありません。

2.退職給付債務および勤務費用の計算方法

(1) 退職給付見込額の期間帰属方法の見直し
現行基準では、退職給付債務および勤務費用を算定する際の期間帰属方法として、期間定額基準が原則的な方法とされていました。新基準においては、期間定額基準と給付算定式基準(ポイント制度・キャッシュバランス制度を採用している場合のポイント基準も含まれます)の選択適用が認められます。ただし、選択できるのは新基準の適用日に限ります。これ以降に変更する場合には、会計方針の変更にあたり合理的な理由が必要となります。

(※)給付算定式基準を採用する場合で給付額が著しく後加重になっている場合には、給付の伸びが(実質的に)頭打ちとなるまでの期間にわたり、給付額が各期に定額で生じるとみなして補正した給付算定式を使用することとされています(上の図の点線のようなイメージです。)。給付算定式基準の採用を検討される際にはご留意ください。

(※※)簡便法と給付算定式基準の違いについて:簡便法は計算基準日時点で退職することを想定した場合の給付額(要支給額)を退職給付債務とみなし、毎年の要支給額の増加を費用として認識する方法です。一方、給付算定式基準は、将来見込まれる給付額をそれまでの各勤続期間に配分する基準として給付算定式を用いる方法で、要支給額を債務とみなす簡便法とは異なります。

(2) 割引率の見直し
給付見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用するか、または各年度の退職給付の金額および給付までの期間を反映した単一の加重平均割引率を使用することとなりました。(各年度の退職給付の金額および給付までの期間を反映した、給付支払までの平均的な期間(加重平均)をデュレーションといいます。下の図を参照ください。)現行基準で認められている、従業員の平均残存勤務期間に近似した年数を基礎として割引率を設定する方法は新基準では認められません。平均残存勤務期間は従業員が平均してあと何年勤務するかを見込んだもので、デュレーションとは異なった概念です。

3.開示の拡充

新基準で追加された主な注記事項は次のとおりです。

  • 退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表
  • 年金資産の期首残高と期末残高の調整表
  • 年金資産の主な内訳:新基準には下のような開示例が記載されています。

年金資産合計に対する主な分類ごとの比率は、次のとおりです。

 

債券 48%
株式 39%
現金及び預金 8%
その他 5%
合計 100%
改正の影響

1.未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の処理方法

現行基準ではオフバランスとされていた未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用が負債(または資産)に認識され、同額がその他の包括利益累計額で調整されることとなります。従って、ここ数年の運用環境の悪化により大きな数理計算上の差損を抱えているような企業の場合には、新基準の適用により純資産の部が圧迫され自己資本比率が低下します。

一方、未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の費用処理方法には変更がないため、新基準の適用による当期純利益への影響はありません。

2.退職給付債務および勤務費用の計算方法

(1) 退職給付見込額の期間帰属方法の見直し
退職給付債務は、退職時に見込まれる給付額をその従業員の各勤続期間に配分し、債務の算定日までの勤続期間に配分された額を現在価値に割り引いて計算されます。また、勤務費用はその期に配分された額の現在価値となります。

この期間帰属方法として期間定額基準を適用していれば、退職給付見込額は各期に同額が配分されます。一方、給付算定式基準であれば支給倍率の伸び方などに比率して配分されることとなります。

勤続期間が長くなるにつれて給付額の伸びが大きくなるいわゆる後加重の場合を考えると、勤続期間の短い従業員については、給付算定式基準による退職給付債務・勤務費用のほうが期間定額基準によるものよりも小さくなります。よって、従業員の平均勤続年数が比較的短い企業で将来的に平均勤続年数が伸びると予想される場合、給付算定式基準を選択すると勤務費用が年々増加することになります。期間帰属方法の選択に当たっては現時点の人員構成・平均勤続年数、さらには今後の人員推移の予測等も考慮した慎重な検討が必要と思われます。

なお、新基準の適用初年度に期間帰属方法を変更したことによる退職給付債務の増減額は利益剰余金で調整され、当期純利益への影響はありません。

(2) 割引率の見直し
現行基準に従い従業員の平均残存勤務期間に近似した年数をもとに割引率を設定している場合、新基準の適用によって割引率が変化し退職給付債務が増減することが考えられます。例えば退職一時金制度の場合、平均残存勤務期間に比べてデュレーションが短くなる傾向があります。このような場合にはより短い期間の金利を参照して割引率を設定することになるため、割引率の低下・退職給付債務の増加につながります。この増減額については新基準適用初年度に利益剰余金で調整され、当期純利益への影響はありません。

適用に向けたスケジュール・適用時期等

新基準は平成25年4月1日以降開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されます。

退職給付債務および勤務費用の算定方法に関する規定(期間帰属方法および割引率の設定方法)については平成26年4月1日以降開始する事業年度の期首から適用されます。ただし、実務上適用が困難な場合には、必要な注記を行うことを条件に平成27年4月1日以降開始する事業年度の期首から適用することができます。

いずれも平成25年4月1日以降開始する事業年度の期首から適用することが可能です。

 

例として3月末決算の会社で、新基準の適用に伴い期間帰属の方法を期間定額基準から給付算定式基準に変更する場合を考えます。この場合、平成26年3月31日の貸借対照表には期間定額基準により算定された退職給付債務に基づく負債が計上されます。また、同日の貸借対照表には従前の未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用がその他の包括利益累計額に認識されます。その翌期首平成26年4月1日において、給付算定式基準による退職給付債務が算定され、期間定額基準による退職給付債務との差額は期首の利益剰余金で調整します。そして翌期平成26年4月1日から平成27年3月31日までの損益計算書には給付算定式基準で算定された勤務費用が計上されることとなります。

(数値例) 適用初年度の処理

(※)この例示の利益剰余金による調整は、退職給付債務及び勤務費用の計算方法の変更時のものですが、割引率の見直しの場合も同様の処理となります。