後期高齢者医療制度の今後 - 年金ニュースレター第17号 | マーサージャパン

後期高齢者医療制度の今後 - 年金ニュースレター第17号 | マーサージャパン

年金ニュースレター第17号

後期高齢者医療制度の今後

浅井 将尚

執筆者: 浅井 将尚(あさい まさなお)

年金コンサルティング シニア アクチュアリー
日本アクチュアリー会 正会員・年金数理人

後期高齢者医療制度において、現役世代の負担分となる後期高齢者支援金は毎年増加し、健保組合や協会けんぽの財政を悪化させる要因となっています。財政悪化は、場合によっては保険料の引き上げを必要とし、結果として、個人や企業の負担の増加につながります。しかし、この支援金が今後どのように増えていくのか、具体的な数値はあまり目にしません。そこで今回、複数のシナリオの推計を試みました。結果、考えられるどのようなシナリオでも支援金が大幅に増えることがわかりました。このニュースレターでは、まず後期高齢者医療制度の仕組みを整理した上で、推計結果について説明します。

後期高齢者医療制度の仕組み

75歳以上の高齢者を「後期高齢者」とし、独立した制度としています。(正確には65歳以上75歳未満であっても、障害状態にある方の一部は対象になります。)費用の負担は、後期高齢者自身が約1割、公費が約5割、75歳未満が約4割となっています。75歳未満の負担は、個人でお金を納めるのではなく、健保経由で支援金として支払われる仕組みとなっています。つまり、個人と企業が払っている保険料の中に含まれていることになります。

 

  • 支援金の算定式
    各健保組合・協会けんぽ等の被用者保険が後期高齢者支援金として支払う金額は以下の算式で計算されます。
    総加入者数×加入者1人当たり負担額×2/3+標準報酬総額×支援金拠出率
    (青字:各健保の実績に基づくもの、赤字:厚生労働大臣が定める数値)

    厚生労働大臣が定める数値の近年の実績は、 加入者1人当たり負担額:44,297円(2010年)、46,888円(2011年)、49,497円(2012年) 支援金拠出率: 0.00597690(2010年)、 0.00633772 (2011年)、 0.00660480(2012年) と年々上昇しています。

    例えば、被保険者数:10,000人、被扶養者数:10,000人、平均標準報酬総額:500万円の健保組合の場合、2012年度の支援金を計算すると、
    (10,000人+10,000人)×49,497円×2/3+500万円×10,000人×0.00660480
    で、およそ10億円となります。この金額を保険料率に置き換えると、2%相当(=10億円/(500万円×10,000人))となります。健保組合の平均保険料率は約8%ですので、大きな負担であることが分かります。


  • 厚生労働大臣が定める数値の算出方法について
    算出方法は省令で定められており、後期高齢者の医療費の40%弱を75歳未満で負担し、その3分の2は一人当たりの定額、残り3分の1を報酬比例の定率で負担するよう支援金の算定式が定められています。算出方法の概要は以下のとおりとなります。

    (1)後期高齢者医療制度で必要となる額:後期高齢者医療保険給付総額
    (2)75歳未満の加入者で負担すべき額:(1)×(100%-約50%(国庫負担)-後期高齢者の自己負担率*)
    *後期高齢者の自己負担率:10%+調整率(2008年度の75歳未満の負担割合(約4割)×75歳未満人口減少率÷2))
    (3)加入者一人当たり負担額:(2)/(75歳未満の加入者総数)
    さらに、(3)の3分の1は報酬比例で支払い、支援金拠出率は被用者保険分の負担額の3分の1を標準報酬総額で割って求められます。

 

支援金の推計

将来の支援金を推計は、医療給付費の伸びと人口推移の推定の前提の置き方により変わってきます。
一人あたり後期高齢者の給付費の伸びは、次の3パターンの前提を置きます。

  • 1.0%(厚生労働省:長期の経済前提・物価上昇率、インフレ分程度、医療費が伸びる)
  • 3.1%(2008~2011年度の実績平均、将来も伸びは一定)
  • 5.0%(将来の伸びは加速する、高めの設定)

将来人口推計の前提は、次の3パターンの推計を利用することにします。
国立社会保障・人口問題研究所-日本の将来推計人口(平成24年1月推計)より

  • 出生高位(死亡高位)推計
  • 出生中位(死亡中位)推計
  • 出生低位(死亡低位)推計

これらの前提の下、加入者1人当たり負担額の推移を推計します。

  • 2008年度からの75歳未満人口減少率の推計
    将来人口推計から、10年後には10%前後になるものと推計されます。

 

 

  • 後期高齢者医療被保険者数
    将来人口推計では、75歳未満とは逆に、現在のおよそ1,500万人から、10年後には2,000万人程度まで増加すると推計されます。

 

 

  • 後期高齢者医療保険給付費総額の推計
    高齢者人口の伸びに加え、高齢者1人当たりの給付費も伸びると予想されることから、後期高齢者医療保険給付費は大きな増加が予測されます。
    10年後には医療費の伸び率が1.0%であっても、現在の13兆円から約19兆円規模まで増加します。現在の伸び率が3.1%の場合、これが約24兆円規模となります。

 

  • 後期高齢者支援金の75歳未満の一人当たり負担額の推計
    結果として、今後の75歳未満の1人当たり負担額は、医療費が年3.1%で増加すれば、10年後の負担はおよそ2倍に、増加率が年1.0%であった場合でも、15年後には負担がおよそ2倍になると推計されます。人口推移が多少変動したとしても、高齢化自体は避けられず、高齢化に伴う負担額の増加はほぼ確実と言えます。

 

10年ないし15年後には負担が倍になると見込まれる中、やはり何らかの改革は必要ではないかと思われます。後期高齢者医療制度の問題点は、高齢者の負担の観点からはよく取り上げられていますが、現役世代の負担、企業の負担の観点でも、もっと取り上げられるべきではないでしょうか。

改革の一番のポイントは、やはり医療費抑制だと考えられます。高齢者の医療費抑制は、医療の効率化だけでなく、高齢者の就業とも密接に関係していると考えられます。そのため、働く高齢者へのインセンティブを与えるような施策も必要かもしれません。

また、負担の仕組みを見直すことも必要と考えられます。少子高齢化の社会では、世代間扶養を前提の財源手当てのやり方では持続可能性の低い制度となってしまうでしょう。世代間扶養を前提としない事前積立するような仕組みも考えられるのではないでしょうか。

しかし、現在の状況下では負担の仕組みがすぐに変わることはあまり期待できません。健保への保険料負担は今後増えていくことが想定されるため、企業の財務リスク管理の観点から、支援金の増加に伴い、保険料負担がどのように増えていくのか把握しておくべきでしょう。負担の一部は報酬比例の部分もあり、企業ごとに受ける影響度合いが異なるため、個々企業で影響度合いを把握することが必要かもしれません。また、一部は人数比例だった支援金のすべてを報酬比例とすることも検討される動きもあります。報酬水準の高い企業では更なる負担増が予想されるため、その影響度も把握しておくべきと思われます。

マーサーでは、企業年金制度における将来推計等のアクチュアリーの技術を活かし、健保のコンサルティングを行っています。上述のような後期高齢者支援金の推計だけでなく、各収支項目を合理的に推計し、リスク管理をサポートいたします。