米国で始まった年金費用計算の新手法(スポットレートアプローチ) | マーサージャパン

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年金ニュースレター第27号

米国で始まった年金費用計算の新手法(スポットレートアプローチ)

伊藤 寛太

執筆者: 伊藤 寛太(いとう ひろた)

年金コンサルティング シニア アクチュアリー
日本アクチュアリー会 正会員・年金数理人

制度設計を変えずに年金費用の削減に成功

一部報道にもあるように、積立不足が拡大している米企業年金は、会計処理の新手法を適用した企業の年金費用の削減に注目している。過去における企業の主な対応は、DB(確定給付型)制度の凍結や廃止、DC(確定拠出型)制度への移行など、給付制度へのてこ入れだった。しかし、今回は色合いが異なり、企業会計上の年金費用の新たな計算方法の適用だ。新手法の適用により、年金制度によって、影響度合いは異なるものの、米国大手通信企業では、7.4億ドルの勤務費用と利息費用のコスト削減に成功した。

割引計算の新手法 (スポットレートアプローチ)

年金費用計算の新手法は、割引計算の新たな手法で、「スポットレートアプローチ」と呼ばれている。スポットレートアプローチは年金費用の計算を精緻化し、年金費用の削減を実現するものだ。

年金費用の構成要素には、企業が将来支払う年金(キャッシュフロー)の当期分を現在価値に割り引くことにより算出される費用(勤務費用)とキャッシュフローの割引にかかる金利コスト(利息費用)がある。割引計算に用いる想定金利(割引率)は、優良社債の市場金利によって、決まる。社債金利は満期までの年限(デュレーション)により、水準が異なるため、デュレーションごとにキャッシュフローと割引率をマッチングして、計算を行う。

しかし、典型的な年金費用計算の実務は、上述のような計算を行わず、同様な手法であるが、キャッシュフローの異なる年金債務(PBO)の計算に用いた平均割引率を簡便的に当てはめて、割引計算が行われてきた、云わば、年金費用計算はそれほど精緻なものでもなかったのだ。

人事・財務担当者を悩まさない新手法の適用

スポットレートアプローチの適用は、そもそも、制度設計の変更ではないため、労使交渉などの制度変更の手続きが必要はなく、人事担当者の抱える課題はない。

2015年、米国証券取引委員会 (SEC) は、この手法を新たに適用する場合、「手法の変更 (change in method) 」でなく、「見積りの変更 (change in estimate) 」として、会計処理を行うことを認めており、会計方針の変更には当たらない。財務担当者の新手法の適用に対するハードルは低いだろう。

スポットレートアプローチは、米国のみならず、国際会計基準を適用する企業にも拡がりも見せている。まだ、適用の検討を行っていない企業は、まずは影響度を分析してみる価値はある。

実務家のための計算例

表1は、(a)PBOのキャッシュフロー(CF)、(b)勤務費用(SC – Service Cost)のキャッシュフロー、(c)スポットレートが分かっている場合で、スポットレートアプローチを適用した場合のPBO、SCおよびその利息費用(IC – Interest Cost)の単純化された計算例である。

表1. スポットレートアプローチ

期間
N
(a)
PBO CF
(b)
SC CF
(c)
スポット
レート
(d)
割引係数
1/(1+(c)) N
(e)
PBO
(a) x (d)
(f)
SC
(b) x (d)
(g)
IC
(e) x (c)
1 500 10 1.00% 0.9901 495.0 9.9 5.0
2 600 35 1.25% 0.9755 585.3 34.1 7.3
3 700 55 1.50% 0.9563 669.4 52.6 10.0
4 600 65 1.75% 0.9330 559.8 60.6 9.8
5 500 110 2.00% 0.9057 452.9 99.6 9.1
合計 2,762.4 256.8 41.2
平均割引率 1.64% 1.80% 1.49%

一方、従来のSCとICの計算は、表1でのPBOの平均割引率1.64%が適用される。その計算結果が、表2である。新手法の勤務費用と利息費用は従来に比べ低いことが分かる。

表2. 従来手法

期間
N
(a)
PBO CF
(b)
SC CF
(c)
スポット
レート
(d)
割引係数
1/(1+(c)) N
(e)
PBO
(a) x (d)
(f)
SC
(b) x (d)
(g)
IC
(e) x (c)
1 500 10 1.64% 0.9839 491.9 9.8 8.1
2 600 35 1.64% 0.9680 580.8 33.9 9.6
3 700 55 1.64% 0.9524 666.7 52.4 11.0
4 600 65 1.64% 0.9370 562.2 60.9 9.2
5 500 110 1.64% 0.9219 460.9 101.4 7.4
合計 2,762.4 258.4 45.3
平均割引率 1.64% 1.64% 1.64%
 
注) 端数処理の関係で合計額と内訳の合算値が合わない場合がある。