C-Suite Talk Live第5回 キユーピー株式会社 研究所長・品質保証本部担当 取締役 和田 義明さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第5回 キユーピー株式会社 研究所長・品質保証本部担当 取締役 和田 義明さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第5回(2/3)

第5回 キユーピー株式会社 研究所長・品質保証本部担当 取締役 和田義明さん
Calendar2009/10/01

ひらめきは、無ではなく有から生まれる

古森ところで、研究開発組織の活性化というのは、冒頭にも申し上げましたとおり私の追及分野の一つです。研究開発というのは、もちろん他の部門でもそうなのですが、特にクリエイティヴな要素を求められますよね。いうなれば、これまでにないものを生む、「0(ゼロ)を1に変えていく」という世界がどうしても必要です。ひらめきと言ってもいいでしょうか。そういうものを組織として生んでいくうえで、和田さんはどのような考えをお持ちですか。

和田 これはまた、確たる答えはない世界です。しかし、思考の飛躍といいますか、新しい技術や手法がポンと生まれる瞬間というのは、実際うちの研究開発部門の中でも確かにありますね。ただ、0から1をと言いましても、無からひらめきが生まれるということではないのですよ。

古森 あ、これまた深い話をしようとしておられる(笑)。

和田 発明や創造というのは、何もないところから出てくるものではないわけです。これは以前京都大学の先生がどこかで語っておられた話ですが、新しいことが発想される瞬間というのは、色々な情報が頭の中で複雑に反応しているのだと。専門家が、言い換えればその道のプロが、色々な経験を積み重ねつつ必死に何かを求めて考える。それらが反応して、新しいものがひらめく。発明や創造というものは、そういうものなのではないでしょうか。

古森 「勘」というものに対する私の経験的仮説とも符合するものを感じます。私は、勘というのはいわゆる「思いつき」や「思い込み」ではなくて、たくさんの経験の引き出しが脳の中に蓄積された人が、緊張感を持ってそれらを無意識に総動員した際に生じる、「論理的に見えないけど当たっている答」のことだと思っています。必ずしも経験した引き出しそのものと同じでなくても、引き出しが多い人の脳は、未知の現象に推察的な解を瞬時に出す・・・。

和田 勘!我々の仕事にも、勘は非常に大事なんですよ。第六感ですね。社内で実際にそれを業務に生かしています。例えば、品質保証の仕事というものは、もう本当に寸分の間違いもあってはならない仕事です。それを、下から上へのレポーティング・プロセスでやっていたら、本当に危ないかもしれない事象を会社として認識するのに時間がかかってしまいます。レポーティングするに足る事実やロジックを探して準備する間にも、リスクが顕在化する可能性があります。

古森確かに、それでは「現場では感じていたのに、会社として間に合わなかった」という話になりかねませんね。

和田 ええ。それでどうしたかというと、明確な事実がない段階でも、プロの第六感で「危ない」と感じたら、即刻本部に報告するようにしたわけです。危ないと感じたら、現場も本部も同時にそれを認識して、上下ではなく車の両輪として一緒に事実確認や検討を進めていく。こうすることで、上下を結ぶレポーティング型の仕組みよりも圧倒的に速く、安全・安心を確保できるようになるわけです。

古森素晴らしいですね。第六感というものを、「なんとなく」ではなく、明示的に認めたうえで業務プロセスに組み込む。それが、本当に品質保証業務のパフォーマンス向上につながる。しかし、その第六感が本当に「勘」の粋に達したものである必要もありますね。かなりレベルの高い前提に立った仕掛けだと思います。

和田 それはその通りで、素人の「こんな気がする」というのとは、全く異次元の話です。私は必ず、「プロの第六感」「プロなんだから」という言い方をします。プロなんだから、いい加減なことは言わない。言えない。基本的なことはたくさん経験して常に深く考えている。そういう素地の上に、「危ない」とひらめくものがある。そのときに、そのひらめきを人為的なプロセスで殺さないようにしているということです。基本を飛ばすという話ではなくて、基本を卒業していないと出来ない技です。

古森デジタルとアナログ・・・ですね。今年の年初に脳科学の対談本を黒川伊保子さんとの共著で出したのですが、その中でも大きなテーマの一つが、脳のデジタル特性とアナログ特性の話でした。今の話も、日頃から色々なことを経験して分析して学んで、いわばデジタルな情報をしっかりと積み重ねる活動が当然のようにあって、その上でアナログな脳の回路がひらめきを生むという流れだと思います。どちらが欠けても、これは起きない。プロの第六感には、デジタルな努力とアナログ感性の開放の両方のバランスが必要だと思います。

和田 ええ、ですから、ひらめきは無ではなく有から生まれる。そういうことなのです。

プロセスへのこだわり~実践・向上・展開

古森 深く考えたり、プロとしてのひらめきを重視したり。キユーピーさんの遺伝子として私の勝手な解釈かもしれませんが、とても有機的なものを感じています。組織・人事面でも、以前から「プロセス重視」を標榜しておられますね。これも切り口は違いますが、根本的な思想は同じなのだろうと思います。少し、お聞かせ願えませんか。

和田 おっしゃるとおり、全部つながっている話です。人事面の評価では、もちろん立てた目標が「出来たかどうか」という結果についても、無視はしませんよ。でも、それに至るまでに何をやったか、何をどう考えたか、という点は非常に重要視しています。過去に一度、いわゆる成果主義的な体系を検討したこともあるのですが、すぐにプロセス重視の体系が重要であると認識しました。

古森 生体において遺伝子が成しうる、免疫反応が起きたかのような印象ですね。

和田 ちなみにプロセスの出来栄えを問う際に、弊社では3段階のレベル感を設けています。まず、自分の計画を常に意識し、自分できちっと考えて実践したら「実践レベル」。次に、工夫した自分のやり方を自分のチームに水平展開できるレベルまで高め、それが出来れば「向上レベル」。そして、そのやり方が、もっと大きな範囲で影響を与えたら、「展開レベル」と定義しています。こうして、結果もさることながら、プロセスを展開することを目指しています。

古森3段階でシンプルですが、問うていることの水準は厳しいなぁ、という印象です。自分のチームに広げただけでは「展開」とは呼んでくれないわけですね。日常の同心円の外にまで働きかける動きができて、かつそれが実際に何か好影響を与えて、初めて「展開」ですか。単純なプロセス主義ではなく、結果も当然重視する中で、さらにそのプロセスをも厳しく問う主義・・・のようなイメージですね。

和田 皆、そういう中で育つんです。いわゆるQC活動も、同じことですよ。弊社の場合はQCといわずに「わくわく活動」と呼んでいますが、それはQC的手法自体が目的化しないようにする配慮からです。あくまでも本質は、皆が現場で考え抜くこと。課題を見出し、考え抜いて、新たな解を見出すこと。そこにあります。

古森 なるほど、さすがにこだわっておられますね。何か組織的にそのわくわく活動を推進していく取り組みのようなものは、ありますか。

和田 もちろん、色々な形で光を当てています。例えば、活動の取り組み内容を大会形式で発表していき、部門予選、地区予選を勝ち抜くと、社長はもとよりグループ全社から大勢が参加する全国大会で発表するという仕組みもあります。そこでは工場のパートさんであっても堂々と発表しています。また、そうした共有化の場面で一番重視しているのは、表面的なことではなくて、それを考えた思考回路や着眼点まで遡って共有化するように努めていることです。

古森よくある「事例共有」ではなく、その裏にある本質部分を共有化するということですね。例えばどんな話があるのですか。

和田具体的な中身までここで公表するのは控えるとしまして、例えばこんなことです。ある分野でコストダウンをする必要が出た。安易に安い原料にシフトしたりは出来ないし、それでも届かないかもしれない。でも、よく考えていくと製造工程のこの部分をこう変えることで、実はコストも下がるし品質向上の可能性さえある。それで、こうしてみたら・・・というような話です。いわゆる事例共有だと、こうして起きた結果としての良い話を、多分に自慢も込めて発表するような形になってしまいます。弊社の場合はそうではなくて、着眼点そのもの、思考回路や検討プロセスそのものを重視して共有化するわけです。だから、その事例と全く異分野の人が聞いても、思考のレベルでヒントになって応用が利く。

古森これこそ「展開」ですね。どこかで生まれた良いものを本当に展開していこうと思ったら、その本質にまで戻って共有化する。また、物事の改善取り組みひとつとっても、そういうレベル感で打ち出していくべきという風土が、キユーピーさんにはあるのでしょうね。これは、一朝一夕に真似できるものではないと思います。