C-Suite Talk Live第9回 日本郵船株式会社 経営委員 甲斐 幹敏さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第9回 日本郵船株式会社 経営委員 甲斐 幹敏さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第9回(4/4)

第9回 日本郵船株式会社 経営委員 甲斐 幹敏さん
Calendar2009/11/12
甲斐変化を先導するという意味では、「NYKスーパーエコシップ2030」という構想があります。2030年を目標に、1コンテナを1マイル輸送する際のCO2排出量を約70%削減するという構想です。太陽電池と風力(帆)、それに燃料電池を組み合わせて活用するもので、100%の削減は無理ですが、7割というのは想定しうる目標値です。

古森 それはまた、大変意欲的な目標ですね。しかも非常にロングスパンの、技術ビジョンと言ってもいいような設定です。なかなかそこまでの構想は立ち上げられないと思いますが、よく社内が動きましたね。

甲斐 最初は社内でも、私も含め、「何それ」という反応があったのではないかな。さきほど申し上げた環境特命プロジェクトのメンバーが、このコンセプトを打ち出し、造船所、電機メーカーさんなどを巻き込み、開発に向けて英知を絞っていくことになります。最近では、業界のバリューチェーン全体で機運が高まってきているのを感じます。ユーザーである我々が革新的なコンセプトを形作っていくことで、物事が動いていきます。太陽電池が採算ラインに達するのは難しいだとか、自動車がまだなのに船はもっと先だ・・・といった議論は常にありますが、待っていては駄目。積極的に動いていかないと。

古森 まさに、イノベーションにも業界の「フラッグシップ」が重要なわけですね。そこに人や企業が集まり、新しいものが現実味を帯びていく。何か明確なスタンスをとって、負荷をかけて地道にやっていく。楽しい場面ばかりではなく、我慢の積み重ねもある。新しいものの創造というのは、そういう一面もあるのだと思います。

ファシリテーションという役目の価値

古森 ところで、先ほどから「社内で反対意見が出た」という話がありますが、イノベーションを生んでいく上で反対意見というのは私、非常に重要だと思うのです。皆が違った意見を戦わせるからこそ、新しいものが形を帯びていく。あるいは、信憑性を試されていく。もの言わぬ組織では、そういう化学反応が起きないのではないかと思っています。

甲斐同感です。そもそも、「執行役員」ではなく「経営委員」という職制名にしたのも、そのような経営の意思があってのことと理解しています。担当分野の仕事を執行するだけではなく、担当を持ちながら常に経営全体の視点を持って議論しあう。そういう意味が経営委員という名前には込められているのです。

古森なるほど、そういうことだったのですね。

甲斐 ですが、完璧だとは思っていません。まだまだ、クロスファンクショナルに議論すべき課題はありますし、やればもっと出来ると思っています。本当にイノベーションに挑戦して行こうと思ったら、今以上に横串の議論を遠慮なく皆が展開していく必要があります。

古森 それが起きていくために、何が必要でしょうか。あからさまな発言をしないというのは、御社に限らず日本の企業に多く見受けられる組織現象ですが・・・。

甲斐 ファシリテーションという機能の担保が、鍵の一つだと思いますよ。多くの場合、皆意見はある。でも、それを上手に引き出していく機能が必要です。実際、「良い会議だったな」と後から思える会議というのは、そのようなファシリテーション役の人がうまく機能していた場合が多いのです。

古森 それは、ダイバーシティ・マネジメントの問題そのものですね。特に日本の場合、思考のダイバーシティは存在しているのに、それがオピニオン・ダイバーシティの形で言葉になって提示されにくい。だから、それを引き出してあげる役回りに大きな意義があるわけです。コンサルタントの付加価値も、かなりそういう面があると思います。

甲斐 難しいのは、皆がみなそのような役回りを担えるわけではないということですね。それに、ファシリテーションを任せたら、自分の「我」を出して議論を引っ張っていってしまう場合も出てきたりします。それだと、ファシリテーションにはなりません。なかなか、この役回りを根付かせるのは難しいと感じています。

古森 私は、21世紀の人材マネジメントでは、センスというものを真正面から捉えて、意図的に生かしていくべきだと思っています。例えば、人材アセスメントの場面では、明らかに「人を観る」というセンスのようなものがあります。アセスメントの技術的な側面は当然習得すべきですが、最後にはやはりセンス、感性のような部分が重要になります。ファシリテーションも同じことで、集団の中で他人の顔色なども感知しながら、デリケートに色々な意見をテーブル上に引き出していけるセンスを持った人がいるわけです。技術的な面は当然訓練可能ですが、やはりセンスの要素もある。

甲斐 それは、その通りだと思いますよ。

古森 だったら、センスのある人を見出して、会社の中でファシリテーターとして積極的に役割付与していったらどうか・・・と思うのです。10人に1人でもこういう人がいれば、その集団の議論の質は大きく向上するはずです。ヒエラルキーの中で必ずしも位置づける必要はなく、ライン管理の権限などなくても、正規の役回りとして認知すれば一定程度機能するのではないかと思います。

甲斐 弊社は、もともと人を育てるという取り組みに関しては熱心な会社だと思っています。ただ、いわれてみればファシリテーションに関する講座はまだないですね・・・。実地で場数を踏むことが重要で、座学での体得は難しい領域でもあります。が、そういった視点での育成活動もやってみる価値はあるかもしれませんね。ファシリテーターがたくさん育って、会社のあちこちに動きが出てくれば、イノベーティヴな話ももっと生まれてくるに違いありません。

古森イノベーションを、技術だけでなく「人」の角度からエンジニアリングしていくというのも、面白いのではないでしょうか。本日は、貴重なお話をたくさん聞かせて頂き、どうもありがとうございました。

~ 対談後記 ~
船の世界でのイノベーションも、「環境」という旗印を得て本格的に動き出した感があります。足下の経済危機の中、20年先の危機をイメージして「危機感」を持つ。なかなか、できることではないですね。IRという会社の語り部として、世界を行脚する甲斐さん。静かな語り口の中に、時折覗く厳しさや激しさ。イノベーションに確実な手法などありませんが、この会社なりの息吹のようなものを、ふと感じました。

甲斐さん、有難うございました。