C-Suite Talk Live 第10回 日本アイ・ビー・エム株式会社 最高顧問 北城 恪太郎さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第10回 日本アイ・ビー・エム株式会社 最高顧問 北城 恪太郎さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第10回(1/4)

第10回 日本アイ・ビー・エム株式会社 最高顧問 北城 恪太郎さん
Calendar2009/11/24
C-Suite Talk Live 第10回 ~対談エッセンス~
  • 中高生に仕事の喜びを直接伝えていく
  • 大学変革は必須・・・有名大学は変われるか
  • イノベーションの意義とベンチャー企業の支援
  • これからの時代、日本人が持つべき英語観

中高生に仕事の喜びを直接伝えていく

古森 本日はよろしくお願いします。この対談、広い意味で人・組織にまつわるテーマで、読者に何かしらヒントになるような良いものを世に伝えていきたい・・・という思いで続けております。私も昨年40代に入ったのが契機になったのか、教育のあり方ですとか、世の中全体のことに自然と関心が向くようになりました。今、うちの子供が8歳と5歳でして、親としても色々と思うところがあります。北城さんの著書『経営者、15歳に仕事を教える』(文春文庫)には、大変感銘を受けました。今日はまず、著書のテーマにもなっていた中高生層への働きかけについて、お考えを改めて伺えればと思います。

北城 「学校に行こう」としたきっかけは、経済同友会で教育委員会の委員長をしていた10年ほど前の取り組みにあります。当時から経済同友会は、企業経営の視点から教育に対して色々と提言をしていました。しかし、なかなか思うようには教育が変わっていない。そこでまず、先生や保護者、子供達に直接会ってみようということになったわけです。

古森 経済同友会としても、提言だけに留まらず現実の課題を見つめようと。

北城 教育の現場にいる先生方や保護者の方々の話を聞いていったのですが、我々と考え方が大きく異なることに気づきました。端的に言えば、企業が一般的に必要だと考えていた人材像と、学校が育てようとしていた人材像の間に、大きなズレがあったのです。

古森 企業経営の世界では、目指す人材像があって、それに向けて人材育成の取り組みをしていきますね。これを社会全体の視点で見れば、学校というのはまさにその初期的人材育成機関なわけですね。学校がやっていることと、日本経済を支える企業側の求める人材像に大きなズレがあるとすれば、それは社会的にもロスですね。

北城 色々な意見を伺いましたが、一般化して言うと、親は、子供を良い会社に入社させたいと思っている。そのためには、有名な大学に進学させたい。そのためには、学校の勉強で良い成績をとる必要があり、そうすれば希望する会社に入れる。

古森 なるほど、確かにそうだと思います。

北城 ところが、今の現実はかなり違います。企業は採用の際、その学生の熱意、行動力、コミュニケーション能力などを面接で判断しているのであって、学校の成績で決めるわけではありません。企業が人材に何を求めているかが、教育の現場に正しく伝わっていないということが分かりました。

古森 中途採用では経験や専門性も重要ですし、新卒でも職種によっては学問的バックグラウンドを問う場面は当然あります。しかし、人間性や潜在性が評価尺度から消えるということはないでしょう。少なくとも、学校の成績が良いというだけでは、これだけ不確実性の高い世界で戦っている企業として育成投資は出来ませんね。

北城 日本の受験勉強は、「モノを覚える」という要素が強く、試験で早く正解を出したり、暗記をして問われた問題に答えを出す勉強に多くの時間を割いています。それも重要ですが、それ以上に大事なことがあります。社会に出ると、問題は「問われる」ものではなくて、「問題を探す」ことから始める必要があります。自分なりに考えて、何が重要か見極めて正解を出すことが求められるのです。

古森 問題対処系の能力も必要ですが、これからの経済環境や競争環境を考えると、自律的な問題定義力を伴った問題解決力が鍵だと思います。あと、不確実な中での孤独な判断力なども。すごいと言われる経営者だって、不確実な中で必死に考えたり感じたりして、賭けの確度をひたすら高めていくのが日常なわけです。

北城 そこで、企業側としても積極的に子供達や保護者の方々と話をする機会を増やして、「企業の求める人材像」を伝えていくことにしました。いきなり日本中のすべての学生に伝えられるわけではないので、対象を絞りました。大学生になれば進路はある程度決まってきているし、私立系にはそれぞれ独自の方針もあるだろうということで、まず公立の中学・高校を訪問先にしました。

古森 私は大学生と接する機会もわりと多いのですが、本質的な変化を起こすには、大学生では遅いかな・・・という感覚も、正直なところちょっとあります。もちろん、何事も遅すぎるということはないわけですが、「まず中高生から」というのは腑に落ちます。それで、中高生に対してどんな話をされるのですか。

北城 まず、「将来何がしたいか」と問いかけます。聞いてみると、多くの場合は「どの大学に進学するか」が学生さん達の最大の関心事で、それがまた親の期待でもあるわけです。進学先の選択は大切ですが、多くの人は、大学を卒業してから40年間も企業で仕事をします。それが自分の能力を活かせる職場であり、自分の関心がある分野であることは、もっと重要なことではないかと思います。

古森 企業でもそうですが、本当に目指すものと短期的に超えねばならないものと、両方が視野に入っている必要がありますね。受験という現在のシステムの中で、進学先のことで頭が一杯になる時期があっても、それは理解できることです。でも、北城さんが見た現実は、そういう話ではないのでしょう。実質的には、受験の成功以外に人生の幸せの定義がない状況になっている。10代中盤の段階で、既に学生さんの多くがそうなっている。そういう現実を、目の当たりにされたのでしょう。

北城 そういうことです。戦後の話を引き合いに出すのが良いかどうかは分かりませんが、日本が貧しかった頃には、学校を出てから社会で働くのは「当たり前」でした。だから、良くも悪しくも「仕事」ということに関して、子供達も何かを感じることが出来ました。たとえそれが現実とは少し違うイメージであったとしても、子供は子供なりに仕事を感じていたわけです。しかし、今の子供達は生活が豊かになった分、そうした感覚が弱いと思います。

古森 「豊か」をどう定義するかは、やり始めると深い議論になります。が、戦後間もない日本の状況を想起すれば、仕事をするかしないかさえも「選択肢」になりうる今の日本は、明らかに違う国になっていますね。

北城 「昔は、仕事というのはこうだった・・・」などと言っても、今の子供達には伝わらないので、今の日本の環境の中での仕事の意義を感じてもらう必要があります。そのためには、「何のために働くのか」をもっと問いかけていくことです。もちろん答は一つではないでしょうが、少なくとも子供達がそれを考えるきっかけを増やし、将来の夢や希望、それに向かって挑戦する気持ちを持ってほしいと思います。

古森 答が一つではないからこそ、たくさんの現実を伝えて、考える機会や感じる機会を増やしてあげたいですね。それで、北城さんの場合は中高生にどんな体験や考え方を伝えるのですか。

北城恪太郎さん プロフィール
1967年に日本アイ・ビー・エムに入社されてから、システムエンジニアとしての仕事を皮切りに、今日まで一貫してIBMとともに歩んで来られました。1972年にはカリフォルニア大学大学院(バークレー校)で修士課程を修了され、グローバルで活躍する基礎を築かれました。今でこそ米国のMBAは珍しくありませんが、当時の日本では思い切った挑戦だったはずです。
1983年に経営者の登竜門とされる米国IBM の会長補佐をご経験された後、1986年に取締役、1988年に常務取締役、1989年に専務取締役、1991年に取締役副社長 、そして1993年に代表取締役社長に就任されました。1999年には、日本での代表取締役会長とIBM Asia PacificのPresidentをご兼任され、世界的大企業で日本の枠を超えて活躍することができる、数少ない日本人経営者のお一人となりました。
社業の傍ら財界活動にも献身され、2003年から2007年までの間、経済同友会代表幹事を務められたことは人々の記憶に新しいところです。2007年5月、経済同友会代表幹事を退任されるとともに、日本IBM最高顧問にご就任。その他、複数の日系企業の社外取締役、大学の理事や評議員、政府関係の委員会など多方面で活躍されています。