C-Suite Talk Live第12回 ワタミ株式会社 代表取締役社長 COO 桑原 豊さん

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第12回 ワタミ株式会社 代表取締役社長 COO 兼 ワタミフードサービス株式会社 代表取締役社長COO 桑原 豊さん
Calendar2010/01/06

理念浸透への徹底した取り組み

古森御社は、理念重視の経営で知られていますね。理念というのはまさに、「変えるべきでないもの」の核心に位置するものだと思います。桑原さんとしては、この理念なるものに対してどのような関わり方をしておられますか。変えずに守っていくにしても、色々なやり方があると思いますが。

桑原 当社では一貫して、「ワタミらしくないことはしない」ということを大前提にしています。その際に一番大事なのは、人の評価ですね。何を許し、許さないか。何をしたら褒められるのか。逆に、これだけは絶対許さないというものは何か。そういったことを、意思決定の場面や日々の行動の中で示していくようにしています。

古森評価というのは、人事制度としての技術的側面の前に、まさにそこが大事ですよね。その会社における、思想的・行動的支柱のようなもの・・・。

桑原 それをおさえた上で、もちろん、様々な理念浸透の取り組みをしています。体系としては、かなり出来上がってきていると思いますね。当社の歴史を語る書籍も企画していますし、新入社員に伝えていくための手順もあります。ツール面でも、研修会や社内報など充実してきました。特に研修会では、三ヶ月に一度は必ず私が全社員に会うようにしています。

古森 経営者が直接伝える。かつ、その頻度や密度を維持することを重視しておられるのですね。

桑原 研修会自体は、地域ごとに毎月やっています。理念浸透だけでなく、自己啓発を促す仕掛けとしても機能しています。当社のような業態では、多くの人々が店舗に分散していますので、お互いが顔をあわせる機会は限られます。また、現場は本当に忙しいので、ともすれば日々忙殺されるだけになってしまいます。

古森 かなり意識的に、人が集うきっかけをつくる必要がありそうですね。

桑原そこで、この研修会なのです。例えば、年間に6~7冊の課題図書を出し、読書を奨励しています。皆それを読んで感想文を書くのですが、感想文は、もう一つの定例課題である「経営目的に対して一ヶ月間どう考え、どう行動したか」を報告するレポートと一緒に、研修会で共有化されます。

古森それを愚直に、毎月繰り返していく・・・。

桑原 「月に一回は、理念に立ち戻る機会を持て」と言っています。実際に仕事をしていると、日々の厳しい現実の中で理念を見失いそうになることだってあります。意識して、目指すべきものを確認しあう場が必要です。

古森 三ヶ月に一回、その場に社長が直接行くわけですね。

桑原 当社は北海道から九州まで展開していますので、どうしても直接参加できるのは三ヶ月に一回くらいになります。しかし、社長の来ない2ヶ月間にも、前回社長が来た際の研修会のビデオを再投影するなどして、そこに各社のトップが解説を加えながら語りかけていきます。

古森そのようにして、熱を伝え続けるのですね。こうした研修会以外にも、社長ご本人として意識してらっしゃることがありますか。

桑原 トップが自ら示す、理念にあることを本当にやる、というのがすべからく重要でしょう。例えば、お客さまから私宛に、日々ご意見が寄せられます。お褒めのお言葉もありますが、そうでないものもあります。お客さまからのお叱りの声は、業務改革会議で一枚ずつ検証して、再発防止のための手を打ちます。また、社長としてお客さまのご自宅にまで伺ってお詫びすることもあります。私が全部行くわけにはいきませんが、常にそうした姿勢を示すようにしています。

古森率先垂範、ですね。

桑原 まだまだ足りないと思っていますよ。完全だなんて、これっぽっちも思っていません。とにかく、立ち居振る舞いを含めて、日々の行動の中でトップも現場も目指すべき姿を意識し続けるように努力しています。

古森言い古された言葉ですが、理念浸透も「継続は力なり」ということでしょうか。

桑原 4,000人いるワタミグループの社員が、東京にいようが台湾にいようが、さもワタミの創業のときにそこにいて、「高円寺でさあ~」というような話を我が事のように語れる、語り部になってくれることを目指しています。労働集約的な事業展開をしている組織においては、これが一番大事だと思うのですよ。

「自信」と「誇り」の好循環

古森 そうした、頭だけではなく体も心も巻き込んだ理念浸透の取り組みは、当然人材育成という方向にもつながっていくのでしょうね。

桑原 まさにその通りです。ちなみに私は、人が育つうえでの最大の要素は、「自信」と「誇り」だと思っています。6年ほど前に常務だった頃、「わたみん家」という新しいフランチャイズ事業の会社をつくりまして、その社長になりました。その事業の中で、「自信」と「誇り」の力を実感する機会に恵まれました。

古森 「自信」と「誇り」・・・人間の内なる力ですね。そのエピソード、是非お聞かせ下さい。

桑原新しいフランチャイズの立ち上げというのは、一筋縄ではいきません。なにしろ新しいわけですから、最初から出来上がった人材がいるわけでもありません。他の業態で力を出し切れなかった人が、再起をかけて来ていたりもします。業績だって、当初は本当に厳しかったですね。お客さまからも毎日怒られるような始末で。

古森 人間、そういう状況の中では、得てして自信をなくしてしまいますよね。

桑原 自信のない社員が多かったですよ。より根本的には、理念に掲げているものを日々の行動の中で表現できていなかったのです。頭で分かっていても、体はそのように動いていなかった。しかし、そのままでは駄目なわけで、「この業態を復活させるために一緒に頑張ろう」ということで、私も徹底的に指導をしていきました。

古森 徹底的に・・・。

桑原 もう、めちゃくちゃに。それこそ箸の上げ下ろしに至るまで、「ダメだ」「ダメだ」と言い続けました。しかし、それをし続けていると、「何でこの人はこんなにダメだダメだと言っているのだろうか」ということが、徐々に分かるようになるんですね。

古森 そうとう厳しそうですね、桑原さんは。

桑原 例えばタバコを、こう持って、吸うとするでしょう。すかさず私が、「お前、人の迷惑が分かるか!」と指摘するわけです。高速道路で料金を払う。見ていたら、「ありがとう」も何も言わないでスッと払って通り抜けようとする。その瞬間、「バカヤロウ!」ですよ。「ありがとうを集める」なんて言っている会社の人間が、人にありがとうを言う感性を持たないようではダメでしょう。

古森そこまで細かいことを、脇についてリアルタイムで指導していくわけですか。いうなれば、親のような関わり方ですね。

桑原 とにかく、理念に照らして、日常的な行動の中で当てはまるだろうということはすべて指導したつもりです。面白いことに、三ヶ月くらいするとこれが変化につながってくるのですね。一回言ったくらいでは、変われない。しかし、三ヶ月も言い続けて一種の癖にまでしていくと、以前から彼らを知っている人々からもらう言葉が変わってくるのです。「何か、雰囲気が変わったね」と。

古森 内面に変化が起きて、醸し出すものが変わってくるのでしょうね。

桑原 この時点で業績が云々とまではいきませんが、とにかく、「あなた、人として変わったね」と言われるようになります。生まれてこの方、そんなこと言われたことのない人たちが・・・。周りからの評判が良くなってくると、上司もそれを認知するようになります。そうなると、それ以降は本人達が自分で意識し始めます。何か一つ、「自分が変わった、変われた」という「自信」が生まれるのです。

古森好循環の最初の歯車が、動き始めるわけですね。

桑原 皆がそういう心境になってくるにつれ、会社全体が変わっていきます。お客さまからの評価がどんどん良くなっていき、業績が劇的に改善し始めます。やがてワタミグループ内での位置づけも変わってくる。当時グループ全体で400店、わたみん家が30店の規模でしたが、自分達がグループ内の空気を変えてきているという「自信」を持つようになっていきました。

古森まさに、最初の「自信」からの連鎖が起きていく・・・。