C-Suite Talk Live第12回 ワタミ株式会社 代表取締役社長 COO 桑原 豊さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第12回(3/4)

第12回 ワタミ株式会社 代表取締役社長 COO 兼 ワタミフードサービス株式会社 代表取締役社長COO 桑原 豊さん
Calendar2010/01/06
桑原 こうなると、自分達のやっていることに「誇り」が出てくるのです。とてつもないロイヤリティを抱くようになりますね。組織体としても強くなり、個人としても強くなる。実はその当時、会長の渡邉から「桑原さんのところが一番ワタミらしいね」と言われました。それがもう、私も含め皆にとって最大の「自信」と「誇り」。最初ダメだと言われていた人間達が、今やワタミグループの幹部になっています。今度は、自分達が指導する側になって、周りに「自信」と「誇り」を持たせようと働きかけているのです。

古森 多くの会社で「人が大事」と言いますが、一方で「オトナを変えるのは難しい」とも言われます。「最近の若いのはダメだ」などという声も。でも、こういうお話を伺うと、「人間はいつだって変われるんだ」という福音になりますね。

桑原あきらめたくない、という思いがあります。もっというと、人に興味があります。一緒にワタミで働いている人々に対する興味が。「この子に何とかなってもらいたい」と思うわけです。もちろん、社員にも向上心がなければダメですが、向上心のないような人は、ワタミには来ていません。

古森 理念に基づいて仕事の「自信」と「誇り」を伝えるほうも、また伝えられるほうも、ともに前向きで本気だということですね。

桑原 チェーン経営というのは、人に対して根本的には性善説に立っているのですよ。性悪説に立っていたら、こんな事業展開はできません。どんなに規則で縛ったって、全国に散って本社からは見えないところでそれぞれが働くわけですから、性悪説だったら成り立たないわけです。

古森なるほど、そういう角度からチェーン経営を考えたことはありませんでした。でも、たしかにそうですね。

桑原 もちろん、最低限の守るべき規則は必要ですよ。お客さまの命や健康に関わる仕事をしているわけですから、安全性などもきちんと管理する必要があります。しかし、最終的には現場ごとの個々人の行動の正しさを信じるしかないわけです。

古森だからこそ、規則ではなく理念が先に立つのですね。コンプライアンスという言葉に象徴されますが、規則・規範的なものはこの10年ほどで非常に多くなったと感じています。どこかで悪いことが起きて、その再発を防ぐために色々な枠組みが導入されていくわけですが、これには終わりがありません。どんなに詳細に網をかけても、本人に抜け穴を探す気があればどうしようもない。でも、理念で結びついたら人は裏切らない。そういうことだと思います。

桑原 ですから当社は、理念のもとに集まった仲間の数だけしか事業成長しないことにしています。事業成長のために清濁併せ呑んで妥協して・・・ということは、しない。100人にしか増えないならば、そのサイズの事業をするだけです。単に優秀な人材という尺度で見れば、他の企業さんのほうが優秀な人はたくさんいると思いますが、当社では理念を共有できる人間だけで組織を作っている点が強みです。

古森 優秀な人の数が云々というよりも、優秀の定義・・・なのでは。ワタミにはワタミとしての優秀な人が集うということでしょう。

桑原 そう、まさにそうです。ワタミの経営がちょっと傾いたら去るというような人ではなく、給料がいくらもらえるからということでもなく、ワタミに共感して集まった人々なのです。泥臭く、ぶきっちょな人間が多いのですが(笑)。

古森 優秀かどうか、などという平たい表現ではなくて、いうなれば「裏切れないものを共有した人たち」という感じですかね。

桑原 これからも、そういう人たちの集まりでありたいと思っています。規模も大きくなっていくし、経営だからデジタルな側面が不要だとは言いませんよ。でも、大事にしているのは、こういうところです。

古森 御社の理念を読んで感じるのは、昔の日本に根付いていた、親が子に教える根本的な考え方だとか、躾のようなものに近い世界ですね。人間教育のようなもの、人間として非常に基本的なことを大真面目に追求する。そんな印象を受けます。

桑原 理念は企業の核ですよ。そこに集まっているから、言葉が続くんです。「家族なんだ」と皆が言えるわけです。

仕事とのめぐり合いの中で育つ

古森ところで、桑原さんがここに至るまでの過程というものに、たいへん興味があります。一体、どのようにして桑原さんは成長して来られたのでしょうか。少しお聞かせ頂けませんか。

桑原 そうですね・・・。それはもう、色々なことを経験してきましたから、何からお話しすれば良いのか。経緯というよりもまず、経営者としての感覚を持ったという意味では、やはり社長という立場になったことが大きいと思いますね。今も社長ですが、6年くらい前に初めてグループ企業の社長になった時のことです。

古森 初めて、組織の三角形の頂点に立った時のご経験ですね。

桑原社長になって2~3年経った頃だったと思いますが、良い意味で公私の区別がなくなったのに気づきました。会社にいようが趣味を楽しんでいようが、仕事とオフという感じがしない。その日一日の人生として、同じ。変わらない。自分のこと、家族のこと、従業員の家族のこと、株主様のこと、お客さまのこと・・・。皆、常に一緒に頭の中にあって、いつもそれを考えている。考えようと思っているのではなくて、何をしていても自然にそれがある。そういう感じになってきたのです。

古森 立場が人を育てると言いますが、トップという立場に立った時、人間は何か感じるものがあるのでしょうね。

桑原 そうだと思います。

古森 しかし、よく考えてみれば外食産業というのは、店長という形で、小さくても三角形の頂点に立つ機会を若い頃から経験できる世界でもありますね。社長とはまた違うのかもしれませんが、店長は店全体のことを考えさせられますよね。

桑原 その通りです。そういう意味では、私にとっては店長の経験も大きかったと思いますよ。「好きな仕事を何でもいいからやれ」と言われたら、また店長をやりたいぐらいです。店長というのは30~40人の組織のリーダーで、「ここは俺の店」と思ってやるわけですね。お客さまともダイレクトに接します。すぐに反応が返ってきて、それが一番楽しい。新卒で入って3年ですぐ店長になったとしても、やっぱり得られるものがあります。立場が人を育てるという面が、確かにあります。

古森 店長としてのご経験、そして、6年ほど前からの社長としてのご経験。そうした「立場」という視点以外にも、何か強く印象に残っているものはありますか。

桑原ローテーションといいますか、「思いもかけぬ仕事との巡りあい」で、自分が大きく変わった時期がありました。事業に関わって30年くらいになりますが、自分が一番変わったのは、実はその時のことです。

古森キャリアにおける最大の変化・・・。是非お聞かせ下さい。

桑原以前、ローテーションで工場長になったことがあるのですよ。外食チェーンというのは、だいたい95%の仕事が店で、本部は5%くらい。一般的には、店以外の部分でローテーションできるポストは、少ないのです。

古森 その中で、工場長に?

桑原私、その頃は営業の親分をやっていましてね。「次の営業のボスは自分だろう」と思っていましたね、勝手に。すると、「今度工場つくるから、そこの責任者になれ」と。もう、頭を殴られるようなショックを受けました。外食産業に入ったのは、店が好きだったからです。何で自分が工場かということで、うらぶれていました。

古森まったく予想もしていない、希望もしていない異動が起きたわけですね。

桑原 まあ、とにかく工場長にはなりました。でも、工場着工のタイミングでしたから、色々決めてくれと言われるわけです。「FL = 1000でいいですか」なんて聞かれても、「FLって何?」というところから。要は、作業台の高さが下から1メートルで良いかと聞かれているわけですが、そう説明されたところで判断も出来ない。

古森言葉が通じない世界に放り込まれたわけですね。

桑原しかも、相当に忙しいんです。うらぶれるのも忘れていたくらい。それで、とにかく工場ができて、ゴールデンウィーク前に稼動したのですが、苦労が続きます。初日、朝9時に稼動し始めたものの、翌日14店舗の発注量が作れない。24時間つくっていたのに。結局、あろうことかゴールデンウィーク中、全店を閉めることになりました。外食の最大の稼ぎ時に、ですよ。

古森 それはもう、想像を絶する切迫感でしょうね。自分が困るだけならまだしも、多くの人に迷惑をかけている状況というのは、耐え難いものがあると思います。

桑原そんなスタートでしたので、工場は当初1ヶ月間、休みなしで稼動しました。誰も家に帰れない。2時間仮眠をとって、24時間体制です。誰か姿が見えないと、「冷凍庫を探しに行け」と本気で心配していたような状態で。「このままで、一体どうなるのだろう」と不安になりましたね。店数は増えていきますし。

古森 文字通り、危機的状況ですね。

桑原そこで、コンサルタントを入れようということになりました。トヨタ生産方式をベースにしたコンサルティング会社があって、現場に入って厳しく指導することで知られていました。私は、本部に対して「イヤです」と言ったのですけど。

古森 しかし、自力だけではもう限界が来ていた・・・。

桑原 しばらくゴネていたのですが、とにかく一度先生が視察に来ることになりました。先生が工場を一周回ったところで、「私にどうして欲しいのか」と聞くのです。それで私は、「家に帰りたい」、「品質を安定させたい」の2つをお願いしました。するとその先生は、「そうか、それなら条件がある」と。「なんですか」と私が聞くと、「俺の言うことを聞け」(笑)。

古森桑原さん、よほど頑固そうに見えたのでは(笑)。