C-Suite Talk Live第12回 ワタミ株式会社 代表取締役社長 COO 桑原 豊さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第12回 ワタミ株式会社 代表取締役社長 COO 桑原 豊さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第12回(4/4)

第12回 ワタミ株式会社 代表取締役社長 COO 兼 ワタミフードサービス株式会社 代表取締役社長COO 桑原 豊さん
Calendar2010/01/06
桑原実際始まってみると、言っていることがまったく分かりません。鍋を見て、「半分に切れ」と。「先生、切れません」と言うと、「いいから切れ、俺の言うことをきくといったな。とにかく半分にしろ」と。「今だって仕込み量が足りなくて困っているのに、鍋を半分にしたら死ぬしかない」と思いましたが、とにかく半分にしました。

古森 半分の大きさの鍋にしたのですね。

桑原 それで、「あーあ」と思った矢先・・・。なんと、終わる時間が早くなって、皆家に帰れるようになったのです。これ、100作れる大きな鍋では101の発注に対して200作って、毎回99の余剰を出していたということなんです。それが半分の50の鍋になったら、余剰は49になります。余剰に作っていた50パック分はやらないで家に帰ることができるわけです。

古森 なるほど、まさに日本のお家芸、生産工程管理ですね。プロセス上の鍵になるところを見抜いて鋭く突いておられたわけですね、その先生は。

桑原 それ以降、ラインがみるみる変わって行き、24時間かけても14店分を作れなかった工場が、80店まで対応できるようになったのです。生産性が劇的に改善したわけですね。これは本当に嬉しかったです。やがて、鬼のようだった先生からも、褒めてもらえる時が来ました。もう、工場の仕事が面白くてしょうがない・・・。

古森 まさに、「誇り」が生まれた瞬間ですよね。まったく予想もしなかった仕事に飛び込み、ものすごく痛い思いをして苦しみ、危機的状況下で厳しい指導を受け、そしてついに成果にこぎつけた。営業の親分だった人が、工場で名をなした。何よりもご本人にとって、ものすごく大きな起伏だったことでしょう。

桑原それで、工場が面白くてしょうがないときに、今度は商品開発をやれと・・・。でも、工場長の時代に、仕事に対する考え方が革命的に変わりました。今の自分の基礎が、その時に出来上がりました。だから、自分の経験をこれから育っていく社員に伝えていきたい、そうしてあげたい、と思っています。

古森 そのためには、どのようなローテーションをしていくかも、良く考えねばなりませんね。

桑原 特に、将来の幹部を育てていくためには、色々な経験を積ませてあげたいと思っています。幸い今のワタミグループには様々な事業があり、外食の他にも介護や高齢者向け宅配、農業、環境などの分野があります。また、それぞれに商品、人事、人材開発、営業、製品開発、加工などがあり、かなり多様な経験が提供できるのです。

古森これから、本当に楽しみですね。

それぞれの「個」を観て育てる

古森しかし、ローテーションも闇雲にやればよいというわけではなくて、実際はかなり個々人の特性を観て決めていく必要がありそうですね。人間は、思いもよらない変化をします。同じAさんでも、いつどこにいくかできっと反応や変化が違う。中国の古典で「伯楽」というのがありましたが、今こそ、人事の世界に伯楽が必要だと思います。人への興味を持ち、「この人がどう変わっていくだろうか」ということに勘を働かせて、異動にその人の成長を賭ける。本人にとっても大変な経験かもしれませんが、会社としても賭けなんですよね、ローテーションって。

桑原 まさに。何をどう経験したら、この人がプロパーの経営陣に育ってくれるのか。どういうローテーションがいいのか。そういうことを、いつも考えています。私自身もそうしてもらってきたので、それを2倍、3倍にして皆に返していくのが役目だと思っています。もちろん、現時点で4,000人もいる組織ですべての人をローテーションで動かしていくのは無理があります。しかし、幹部候補と目される人は、個別に人となりを判断してチャンスを与えていきます。

古森 御社は、これからまだ人が増えていくはずですね。幹部候補を見出すスクリーニングの過程は持った上で、そこから先はアナログに深く人間を観て、個別に濃い経験を持たせていくということですね。経営者が、そうして個々人を深く観る・・・。

桑原 それを怠ったら、先ほどからのことがすべて嘘になるわけです。よほど人をしっかりと観ていないと、理念に基づく人の評価・育成なんて簡単には出来ません。

古森 人事評価の効果というのは、結局は「本人がなるほどと思うか否か」に帰着します。個人がきちんと観られている中で下された評価と、見てもいないのに決まった評価では、本人の受け止め方はまったく違いますね。

桑原それが王道だと思っていますよ。それしか知らない。

古森結局、組織をリードする人間が個々の人間を観ていないと、理念経営なんて出来ないのかもしれませんね。「WAYマネジメント」なんていう格好良い言い方もありますが、要は、手のかかる人間技ですね・・・。本日は、本当にありがとうございました。この一時間の中にも、世の中に伝えたいものが沢山ありました。

~ 対談後記 ~
経営の将来など、誰も言い当てることは出来ません。そんな中で私が唯一確かだと思っているのは、将来は人材の中にあるということです。創業者からのバトンを受け、折からの経済環境変化もあいまって、きっとたいへんな重圧を感じているはずの桑原さん。「あえて今は変えない」との確信に満ちて引き継ぎ、率先垂範で示す理念経営を通じて、人材の育成に心血を注いでおられます。

創業者の渡邉会長は、「100年続く企業にするために社長交代の道を選んだ」とのこと。100年先の経営は神のみぞ知るところなれど、ここには確実に人の育つ組織があることを感じました。立場が人をつくる、されど、人を育てるのは人。そんなことを改めて噛み締めながら、社屋をあとにしました。

桑原さん、お忙しい中、本当に有難うございました。