C-Suite Talk Live第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん

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第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん
Calendar2010/01/26
C-Suite Talk Live 第13回 ~対談エッセンス~
  • ブレンド~時間と異質のなせる技
  • 「99%の失敗と1%の妥協」~試行錯誤の価値
  • サントリーのウイスキーが世界で勝つ理由
  • 酒づくり、人づくり
  • 功なってなお「運が良い」と言える人は・・・

ブレンド~時間と異質のなせる技

古森今日はお忙しい中、本当にありがとうございます。以前スコッチ文化研究所の会合でご挨拶してから、もう5年ほどになります。この対談企画、暗い話が多い昨今の世の中に、「なにか良いもの」を発信していきたいという思いで続けております。以前から、ウイスキーづくりと人づくりには共通する示唆があると感じておりまして、是非色々とお話を伺えればと思います。

輿水 なるほど。何からお話ししましょうか。

古森まずは、チーフブレンダーというお仕事について、どのようなものか改めてお伺いしたいと思います。

輿水 チーフブレンダーの仕事は、平たく言えば「熟成されたものをどう混ぜるか」ということになります。ですので、ブレンドというのは、まず「いかに良い原酒があるか」を抜きにして語ることは出来ません。

古森「ブレンドする以前の段階で何がなされているか」に、ブレンド後の品質を大きく左右する要素があるわけですね。ブレンド技術以前に、まず原酒づくりがある。

輿水 そうです。ウイスキーには長い熟成期間が必要です。10年かけて作られる品質は、やはり10年かけないと出来ません。それより若いもので補おうと試みても、やはり出来ないのです。時間の価値というものには、他のやり方では乗り越えられないものがあります。そうした時間の蓄積があった上で、いかに個々の原酒の個性を組み合わせるかということになります。

古森 時間の絶対量の重みを、まず受け止める必要があるのですね。その上で、様々な原酒をブレンドしていく・・・。

輿水 ご存知の通り、樽で眠っているウイスキーの原酒には、実に様々な個性があります。この山崎の地で眠っているものには、山崎の水や空気による共通した性格はありますよ。でも、蒸溜に至る各工程、貯蔵庫の構造や場所、樽の素性、倉庫内での樽の置き場所など、色々な要素が作用しあって、長い熟成期間のうちに樽ごとの個性は大きく多様化していきます。それを、一つにあわせていきます。

古森 昨年ここにお邪魔した際に、山崎12年の原酒をいくつかテイスティングさせて頂きました。原酒のままで完成度を感じるものもありましたが、それ単体では必ずしもバランスの良くないものも入っていたのが印象に残っています。ブレンドされた時に初めて成り立つ、総体のバランスのようなものがあるのでしょうね。

輿水 ええ。同質なものばかりを混ぜていても、良いものは出来ません。ところが、異端が入った途端に、ぐっと質があがることがあります。ブレンダーとして普通は使いにくい、扱いに困るような原酒を一滴落とした瞬間に、間違いなく全体の味が立体化するような現象が起きるのです。そういう原酒は大量には使えませんが、ごく少量使ったときにのみ引き出される価値というのがあるわけです。

古森少量の異質・異端が総体の価値を上げるというのは、人間の組織にも見られる現象ですね。周囲から煙たがられている人、嫌がられている人というのは、企業の組織にもよく見られます。組織のメンバーとしては、出来ればそういう「嫌な人」を排除したいと感じます。無駄なことで心労したくないですし。

輿水 それは、そうでしょうね。

古森 ところが、これが恐ろしいところなのですが、「嫌な人」がいなくなったからといって、組織のパフォーマンスが良くなるとは限らないのです。むしろ、本当にうまくいっている企業というのは、ところどころに「嫌な人」がいて、喧嘩、対立、怨嗟などが日常的に起きています。多すぎると組織が壊れてしまいますが、多少はそういう不愉快なものがある方が、実は組織が元気だったりするわけです。

輿水 なるほど、ウイスキーのブレンドと共通点がありそうですね。ちなみに、少量で凄い役割を演じる曲者というのは、意図して生まれてくるものではないのですよ。

古森 偶然生まれてきた曲者を、「見出す」必要があるわけですね。

輿水 曲者に出会ったときに、どう見るかです。酒の評価というのは、実務的には欠点探しの部分がかなり大きいわけです。この雑味は、あの工程のあそこがこうなって・・・とか。でも、そういう志向性で突き詰めていくと、たいした欠点でなくても気になるようになっていきます。欠点を感知できることは重要ですが、良いところが見えなくなってはいけません。100%欠点だらけの酒なんて存在しませんから。良いところは、確実にある。今の私の反省は、過去の先輩が作った原酒に無駄なものなどなかったのに、それを生かし切れなかったということです。

古森 すべての要素を生かすというのは、どんな世界でも難しいのだと思います。ただ、何かに見切りをつけていくにしても、やはりベースにある考え方が大事なのではないでしょうか。企業で人に見切りをつける場合にも、「異端をできるだけ速やかに外に出したい」という場合と、「異端をなんとか生かそうとした上での諦め」とでは、それを繰り返し行った場合の長期的組織力に差が出るでしょうね。