C-Suite Talk Live第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん (2/4) | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん (2/4)

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第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん
Calendar2010/01/26

「99%の失敗と1%の妥協」~試行錯誤の価値

古森そうして原酒ごとの個性を感じとりながら一つの製品へと組み合わせて行く過程で、輿水さんはいつもどんなことを考えておられるのでしょうか。

輿水 この仕事は、センスやひらめきだけで出来上がるのではなく、「どれだけ失敗したか」という経験値が生きる世界です。1個の製品を作る際に100個の試作品を作るとすれば、99%は失敗で、残りの1個が妥協です。その妥協のレベルが、少しずつ上がっていくということです。

古森 「99%の失敗と1%の妥協」・・・ですか。なんという重い言葉でしょうか。

輿水 自分が才能に溢れているとは思っていません。だから、繰り返し同じことをやっていく中で、見えてくるものを大事にしています。未だにテイスティングをしていると、新しい気づきがあります。やればやっただけ、新しい発見があって身になっていく。どれだけ手間隙惜しまずにやったかということが、素直に仕事の成果に現れるのではないかと思っています。

古森 試行錯誤の絶対量に、意味があるということですね。

輿水 人間の成長は、失敗からでないと学べないというのが私の持論です。商品開発で、成功体験をもとに新たな展開・・・というのは、ありそうでいて、実際はあまりないように思います。失敗を重ねて、そこから学んでいくことが大事です。

古森その果てに、妥協ですね。輿水さんの言われる妥協というのは、「まあこのくらいでいいや」という妥協ではなくて、「まだできるはずだ、でも今はここで線を引かざるを得ない」という妥協ですよね。いうなれば、攻めの妥協。

輿水 「もっと目標は先にあるが、今はこれ以上やれることがない」ということが分かる時が、私の妥協の瞬間です。

古森 重ね重ね、本当に重い言葉ですね・・・。ウイスキーづくりに限らず、すべてのプロフェッショナルがそういう意識を持って仕事に臨むべきなのでしょうね。プロフェッショナル個人の、内なる規範のようなものですね。

サントリーのウイスキーが世界で勝つ理由

古森ところで、サントリーさんのウイスキーは、ここ数年国際的な品評会でトップクラスの評価を獲得するようになってきましたね。ブラインド・テイスティングで評価して、「これこそがウイスキーだ!」なんていう言葉が審査員から発せられるのですから、本当に素晴らしいことだと思います。このあたりの成果について、どう見ていらっしゃいますか。

輿水 そうですね、スコットランドに負けないレベルだと言われるようになった背景には、先ほどお話しした原酒づくりの蓄積ですとか、ブレンダーのこだわりといった要素は当然あると思います。ただ、日本のサントリーが海外の同業者よりもブレンド力において秀でているものがあるとすれば、それはブレンダー達の組織力ではないかと思うのです。

古森 組織力、ですか。

輿水 海外の場合、一般的にはマスターブレンダーがいて、その後継者がごく少数いて、一子相伝的に仕事をしていくというスタイルが多いですね。ところがサントリーの場合7名のブレンダーがいるのです。

古森 それは、かなり違った組織モデルですね。

輿水 複数のブレンダー達がいて、それぞれが様々な製品をつくり上げていく。また、つくっていく過程で、皆で議論しあう。組織として多面的にものを見ることができるので、それが製品の質を高めているように思います。

古森 ブレンダーさん達の議論のブレンドでウイスキーをブレンドしていく・・・みたいな感じですね。

輿水感覚や感性に付随する表現が多くなる仕事ですので、単に自己主張がたくさん出るだけだと、まとまっていきません。でも我々は、意見を出し合いながら、目標を目指して「つくり上げていく」という感覚でやっているわけです。こういう進め方が出来るのは、日本のものづくりが持つ特性ではないでしょうか。

古森納得です。以前、ある大手外資系企業の経営者が、「日本人は、自然に協調を志向できるところがすごい。その点に関しては天才だ。」というようなことをおっしゃっていました。サントリーさんのブレンダー室でも、その遺伝子がまさに生きているのですね。明らかに、海外のブレンダーとは違った独自の強みを感じます。