C-Suite Talk Live第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん (3/4) | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん (3/4)

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第13回 サントリー酒類株式会社 ブレンダー室 チーフブレンダー 輿水 精一さん
Calendar2010/01/26

酒づくり、人づくり

古森 こうしてお話を伺っていくと、ウイスキーづくりの世界と人づくりの世界に、多くの共通するテーマのようなものを感じずにはいられません。人間の場合、樽と違って自分でしゃべりますし、勝手に居場所を変えてしまったりするわけですが(笑)、やはり有機的なものの世界に共通する要諦があるように思います。

輿水 ええ、そうかもしれませんね。

古森 ウイスキーづくりに携わるブレンダーさん達の「人づくり」について、少しお話を伺えればと思います。そもそも輿水さんご自身は、どのようにして今に至られたのでしょうか。ブレンダーになられたのは確か40歳以降のことで、それまでは違う仕事をしておられたのですよね。そこからのスタートで、今や世界的に評価されるブレンダーになっておられるというのは、すごいキャリア展開だと思いますが。

輿水 サントリーでブレンダーになろうとは、想像したことはなかったですね。「モノを作っている現場にいたい」という思いだけは、新卒当初からありましたけど。その後も、結局その思いは変わっていません。担当する仕事は色々とありましたけど、その場その場で真剣にやってきました。

古森 ブレンダー室に配属になったとき、どう思われましたか。

輿水 山崎で貯蔵の現場にいた頃は、ブレンダーから指示をもらってモノをつくるという仕事でした。それが、指示される方から指示する方に変わったわけで、正直ちょっと戸惑いました。

古森 でも、そこから地道に試行錯誤を重ねて、やって来られたわけですよね。今や世界の輿水さんです。やりたいと思う種類の仕事はあるが、個々の異動は会社の縁・・・といったイメージでしょうか。俗に言う「最近の若い人たち」には、経験する仕事に非常に敏感な人も多くなっています。自分の思った仕事が出来ないと、すぐに転職する人も増えました。もちろん、そういう機敏な動きも人生の一つのあり方だと思いますが、方向性を持って、あとは縁の展開の中でベストを尽くしていくというスタイルも、もっと肯定されて良いのではないかと思っています。

輿水 私はどちらかといえば、そういう口かもしれないですね。実際、色々とやりましたが、チーフブレンダーになるまでに経験してきたことは、無駄ではなかったと感じています。過去のキャリアに感謝できることが多々あります。ボトリング工程などもやりましたが、市場に商品を出す工程に肌感覚が持てるかどうかは、実はチーフブレンダーとして非常に重要なことです。貯蔵・熟成の研究開発の経験も、様々なところで生かせています。何か拠って立つ分野があるというのは、この仕事をしていく上で大きな力になります。

古森 単に調合する技術ということではなく、作っているものの総体を肌で感じることが出来るか否か・・・ということですね。勘のようなものでしょうか。私は、プロフェッショナルの勘というのは、降って湧いてくるものではなくて、若干のセンスと圧倒的な経験の蓄積から生まれてくるものだと思っていますが。

輿水 そういう面がありますね。

古森さて、そのようにして育って来られた輿水さんですが、今のお立場ですと、「後進ブレンダーの育成をどうするか」というテーマにも腐心しておられることと思います。これに関しては、どのようなことを心がけておられますか。

輿水ブレンダーの仕事というのは、言葉で教えられるものは限られています。5年から10年、一緒に仕事をしていれば、ほとんど皆変わらないくらい酒の評価は出来るようになります。それは、ブレンダーとしてのベースの部分ですね。しかし、新しいものをつくろうとする時のコンセプト、これを形にしていく工程、イメージしたものを実際につくる過程などは、これはもう、やらせてみる以外にないのです。

古森輿水さんがそうであったように、真剣な試行錯誤と学びの連続が必要であると・・・。

輿水 やらせてみるしかない。できる人は、できる。そういう人は、どんどん学習して育っていきます。結局、そのようにして継承されていくものなのでしょう。以前、佐治敬三前会長が、鳥井信治郎からマスターブレンダーとして引き継いだものは何かという話になった時に、結局は「自分でやってみなはれ」という一言に尽きた、ということでした。

古森 ああ、ここにも、かの有名な「やってみなはれ」が登場するのですね。

輿水 それから、ブレンダー室に来る前にものづくりの現場を知るということに加えて、ブレンダー室に来てからも、色々な経験をしてもらうことを重視しています。

古森ある種のローテーションのようなものでしょうか。

輿水 個人によって、仕事との相性のようなものもありますから。ブレンダーといっても、実際は色々な仕事があります。ブレンダー室に来て、一つのことだけで固まってしまうといけません。個人の個性とタイミングを見ながら、いくつかの仕事を経験できるようにしていく必要があります。

古森 原酒の個性を見極めつつウイスキーを仕上げていく感覚に、どこか通じるものがありそうですね。それと、経験する仕事の中でたくさん試行錯誤をしてもらおうと思ったら、組織の責任者としては度量といいますか、許容度のようなものが必要になりますね。

輿水 その通りです。人を育てる立場として、自らが試行錯誤の価値を知り、それを組織内でも意図的に生まなければならないと思います。またその一方で、試行錯誤をする当の本人が、試行錯誤される原酒に込められた時間の重みを肌で感じつつ、高い目標を持って自ら求めつづけることも重要です。