C-Suite Talk Live第15回 ベネッセホールディングス取締役副社長内永 ゆか子さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第15回(3/4)

第15回 ベネッセホールディングス取締役副社長 ベルリッツ インターナショナル インク 代表取締役会長兼 社長兼 CEO 内永 ゆか子さん
Calendar2010/02/23
内永 いわゆる「英語」のトレーニングばかりをやっても、ダメなんです。「英語を使って、こうやって議論してみよう」というトレーニングが必要。だからベルリッツは、英語をプログラムの軸にしてはいるけれど、「英語そのもの」に加えて、「どうやってコミュニケートするか」を教えようとしているわけです。例えば、電話会議とかプレゼンテーションといった場面を設定してトレーニングをする。

古森 電話会議!色んな国の人がコール・インしている電話会議で、英語で議論するのは本当に大変です・・・。私も慣れるまでかなり苦労しました。

内永電話会議は、飛び込む間合いが本当に難しいですね。声の大きい人が話し始めると、他の人が入り難くなります。英語の発音や文法が優れた人かどうかではなくて、「電話会議で話す機会を獲得する」という技が必要になります。

古森 日本の人は、どうしてもそういう切り込みには苦手意識がありますよね。一方で、かなりめちゃくちゃな発音の人がガンガン電話会議をリードしていたりして。

内永母国語でないから当たり前、というスタンスですね。複数と単数が違うとか、時制が違うとか、theとaが違うとか。そういうのはたくさんあります。英語を母国語にしている人だって、そういうところがありますよ。アメリカ人だって、皆がTOEICで940点はとれないでしょう。

古森 なのに、結局日本からは発言ができない・・・。電話会議の最後に思い出したように、「ヘイ、今日は日本は静かじゃないか。」なんて言われて一緒に笑って、なんとなく安心して終わったり。そのくせ会議の後になって日本人同士で、「あいつら、わかってねえんだよな」とか言ったりして。

内永 古森さんも、ご苦労されたのね。

古森 そりゃもう。でも、そのうち気づいてきましたが、切り込むテクニック、そして人に切り込ませないテクニックというのがあるんですよね。切り込む方は、文章の息継ぎのタイミングを狙う。逆に、それをさせないためには、文章の切れ目の前に少し息を吸っておいて、文末から次の文頭まで一気に続けて言うとか。

内永そうそう、そういう感じで、すごく現実的に「コミュニケートする」という場面の中で、意識すべきことがあるわけです。ベルリッツは、今そこに力を入れているわけですよ。だって、使えないと意味がないじゃないですか。英語だけではなくて、英語を通した「Situation Management」ですね。

古森 極めて現実的なところに落とし込んでいるんですね。

内永電話会議だけでなく、プレゼンテーションだって同じようなアプローチが有効ですよ。ベルリッツのプレゼンテーション講座は、そもそも英国の日本大使館付のある人物のアイディアをベースにして始めたものです。日本人が苦労する場面をたくさん見ていて、「何故なんだろう」と思ったのが発端だったんです。

古森 相手が見えない電話会議とは、また違った常識がありそうですね。

内永こちらでは、ケーススタディを使います。ハーバード大学のMBAで使用しているケーススタディーを用いて、これを中心に議論しましょう、プレゼンしましょうということをやるわけです。ケースの議論の前に、プレゼンそのものに脚光を当てているところがポイントです。

古森 いわゆるMBAのケース・ディスカッションとは、狙っている部分が違うということですね。

内永「このケースの内容を、どう英語でプレゼンテーションするか」から始めましょうということです。もちろん、プレゼンだけで終わりではなくて、ケースをもとに賛成派、反対派に分けて、議論したりもします。「ここでWhyと聞くのよ」といった実践的な議論の運び方を教えるこのプログラムは、すごく評判が良いです。

古森 それは実践的ですね。確かにありますよね、そういう議論の場面での勘所みたいなものが。反対するときに、感情的にならないようにして、しかしながら目を見て首をちょっと振りながらこう言うとか・・・。

内永英語を使ったグローバル流のコミュニケーションというのは、日本の常識でいえば「KY-空気が読めない」状態になるわけです。だから、その常識のままだと、「業務はできるが話はできない」ということになってしまうのです。

古森 海外のMBAプログラムに行く一歩前に、日本人がやっておくべき現実的なこと。そういう感じですね。

内永海外でのMBAプログラムというのは、英語の語学力も会話力もあることを前提にプログラムが進むわけです。だから、そこが足りない状態、特に会話として使う力が足りない状態で行ってしまうと、学ぶべきものが十分生かされないリスクがありますね。

古森そういう無駄だらけの苦労をして、修羅場をくぐるという意味はあるのでしょうけど・・・。しかしそれだったら、特にMBAじゃなくてもいいわけですね。いずれにしても、英語のコミュニティで実際に会話をする際の勘所に焦点を当てるというのは、非常に意味のあることだと思います。それを積み重ねていけば、疑似体験の中でも「肌感覚」が芽生えていくでしょうね。

リーダーの育成とダイバーシティ

古森さて、英語を通した「グローバル」の肌感覚の話が出ましたが、そういう基本的なレベルを大きく超えて、「グローバル」時代の組織を牽引していく人材も増えていって欲しいですよね。「グローバル」というお題と、「リーダー育成」を掛け合わせたときに、内永さんは何を思われますか。

内永そうですね、ベルリッツのプログラムの中では、コミュニケーションの発展形として「グローバル・リーダーシップ・トレーニング」というのをやっています。そのプログラムの一番の鍵が何かというと、「ダイバーシティ」なんですね。

古森ここにダイバーシティの視点が盛り込まれていましたか・・・。

内永モノカルチャーの中でのリーダーシップと、色々な前提や考え方が違う人が集まった状況でのリーダーシップでは、かなり違いがあります。

古森 ええ、それはまったく違いますよね。

内永「だよな?」「はい」というのが日本。こういう形で物事がまとまるのは、ある意味日本人の強みでもあります。でも、外国人がたくさん集まったらどうなるか・・・。例えば、各国から優秀な人材を集めてわが社の方向性を決めようなどという時には、阿吽の呼吸では無理ですね。百家争鳴の中で、ひとつの方向性にどうやってもっていくのか。これが「グローバル」を前提にした場合のリーダーの必須能力です。

古森 そういう場面でのリーダーシップというのは、日本の人は苦手意識を持つ向きが多いでしょうね。色んな意見を総合して、「折衷案をまとめる」方向に動いてしまったりして。でも、それだとダメなんですよね。

内永ダメですね。組織内の多様性が高い場合には、そこでなされる意思決定の巧拙による振幅も非常に大きいわけです。そこそこの成功に収斂するイメージではなくて、大きな成功、ひどい失敗、いずれにも組織の成果が大きく分布しうる世界。だから、そういう組織でのリーダーというのは、折衷案を導くような人ではダメなんです。

古森 色々な意見に耳を傾け、でも最後は「こうしようじゃないか」と強くボタンを押す。そこにはいつも「賭け」の要素があると思います。海外の組織マネジメントで活躍している日本人も、そういう自分のスタンスをきちんと示せている人々だと思いますね。言語はそのツールとして重要なのですが、本質的には「自分のスタンスを決める」というスタンスそのものが、一番重要だと思います。

内永 向き合わねばならない多様性という意味では、人事評価の場面などでも同じですよね。私はIBMにいた時に何度も経験しましたけど、部下に外国人がいる場合、評価面談が一人2時間くらいかかったりするんです。もう喧嘩状態で、評価に関して自説を支持するためのエビデンスをそれぞれが用意してくる。私も、日常のメールをとっておいたり、色々とデータを用意したり。部下達がそれぞれ独自のロジックで話してくるわけで、いうなれば多様な突き上げの真っ只中に置かれるわけです。

古森 私はよく中国にも行くのですが、中国に赴任している日系企業の管理職の方々の多くが、そのような場面で苦労しておられますね。「個々人が色々なことを言う」という組織でのマネジメントは、難度が高いと思います。

内永 手のかかる仕事ですが、それで折れていたら人がついてこなくなります。日本人の組織は、それに比べると議論を収束させていく際の難度は低いですね。「いろいろあるから今回はごめんね」で、済む場合があるわけです。もちろん、コミュニケーション以外の面で色々と苦労があることは承知していますけど。

古森 日本の組織における阿吽のコミュニケーションというのは、いわゆる「コミュニケーション・コスト」が低いという点で合理性もあったわけです。ただしそれは、日本の社会に閉じた組織で成り立っていたことであって、「グローバル」の時代には成り立たない場面が増えていきますね。

内永 日本的組織の形は、少し昔は世界的に見てもベストの一つだったと思います。ビジネスモデルの変化スピードもそれほど速くない時代、日本人中心の組織で経営していた時代には、強みが発揮できた。でも、今のように環境変化のスピードが速くなって、組織に入ってくる人々の多様性が否応なしに高まっていく時代には、弱みに転じる場面が増えてきていますね。

古森経営における組織メンバーの多様性、すなわちダイバーシティへの対応力というのが、今の時代のリーダーに強く求められているわけですね。日本人だからということではなくて、「グローバル」の環境で商売を行う以上、世界中誰にでも通じる話なのだと思います。

内永ちなみに最近、TMCという会社を買収しました。これはクロスカルチャー教育の専門ファームなんですね。カルチャープロファイルをチャートで診断して、カウンセリングしながらコンサルテーションする独自の手法を持っています。そういうアセットも生かして、多様性の中での活躍をサポートできるようなプログラムを提供していきたいと思っています。