C-Suite Talk Live 第15回 ベネッセホールディングス取締役副社長内永 ゆか子さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第15回(4/4)

第15回 ベネッセホールディングス取締役副社長 ベルリッツ インターナショナル インク 代表取締役会長兼 社長兼 CEO 内永 ゆか子さん
Calendar2010/02/23

ダイバーシティの前提は?

内永 私見ですが、グローバル化というのは、つまるところ「多様性に対する許容度」のことなのでしょうね。そしてその根底には、「個」の確立が求められると思っています。

古森 やはり、「個」に行き着きますか・・・。

内永 自分自身の確立、自分自身のスタンスを持つことが重要となると、内なる「個」がしっかりしていないとダメ。例えば米国では、全員とは言いませんけど、多くの人々が「個」を明確に持っています。一方、日本の場合は、「個」が強いと逆に自意識過剰とか言われてしまいます。「他と自分」という構図で考える機会が、文化的な背景もあって希薄だと思います。

古森 本来、そういうカルチャーみたいなものには善も悪もなくて、「そういうもの」なんだと思います。しかし、いくつもの対立する軸から答を出していかねばならないような場面では、「個」が弱いと自分の意思で組織の将来を左右することが怖くなるでしょうね。リーダーの「個」の弱さが、罪になる場合さえあります。

内永 戦後の日本教育は、「個」を育てる方向には進まなかったように思います。時代環境の中では、それに意味があったのかもしれません。しかし、これからの時代のエグゼクティブというのは、それではダメです。孤独の中でジャッジする時に正解などなく、最後はその人の価値観で決めなければならない。自分の価値観で判断することに信念を持てるかどうか。それが、リーダーとしての強さなのです。

古森 「個」というと、わがままな「我」のような印象を持つ人もいるようですが、それとはニュアンスが違いますよね。今まさに内永さんがおっしゃったように、自分個人としての、価値判断のよりどころのようなものでしょうね。それを意識している存在が、「個」。

内永 IBM時代に一緒に仕事をした、海外のある役員のことをよく思い出します。彼女とお酒を飲みながら、色々と話し込んだことがありました。ちょうど私も悩んでいた頃だったので、「あなたは悩むことないの?」と彼女に聞いてみたんです。すると彼女は、「私だって悩むことは沢山あるけど、決断を下した後は、家に帰って聖書を読むので大丈夫だ」と言っていました。

古森 欧米では、「個」の成立における宗教の役割が極めて大きいという説がありますね。キリスト教の場合、日頃の自分の行いを神に告白(懺悔)することで、精神的なバランスをとってきたという側面があります。これが、他人との間で折り合いをつけるのではなく、自分と神の間で解決すればよいという、「個」に立脚した文化的素地をつくったという見方。私はその説を聞いたとき、なるほどと思いました。

「個」に立脚したネットワークを

内永 そういう「個」が希薄であることを、嘆いても始まりません。ベルリッツでは、「グローバル」の時代に伍していけるリーダーを育てる上で、この根本的な課題に対してサポートできるプログラムを提供しなければならないと考えています。その一環として、アスペン研究所と提携して独特なプログラムを取り入れようとしています。

古森 コロラド州の?

内永 そう。アスペン・セミナーというのがあって、アメリカのトップエクゼクティブが、哲学、宗教、芸術、カルチャー、古典を読んで議論するプログラムなんです。私もIBM時代に、日本アスペンが提供するセミナーに、行かせてもらったことがあります。一週間体験して、「あ、そういうことなんだ」と・・・。自分自身の哲学、価値観、フィロソフィー、倫理観をしっかり持って、「ああ、これがモノを決断していく上でのベースになるんだな」と気づいたわけですね。

古森 地理的にコロラド州に行かなくても、気づく人は気づく・・・。

内永 アスペンのプログラムが「個」への気づきだとすると、次に必要なのは「個」のつながり。ネットワークですね。こちらは、ジョージタウン大学と手を組んで、MBAをカスタマイズしてもらって、ベルリッツ独自のプログラムとして提供しています。ジョージタウン大学の世界中のネットワークを使って、1週間ごとに行って帰って、というようなプログラムです。

古森 冒頭の話に出たような、肌感覚や常識を身につけるレベルを超えてきたら、本番で使う場面を提供するということですね。

内永 MBAの学科内容というのは、いうなればビジネスパーソンとしてのテクニックですね。テクニックは、知らないといけないものですから重視しますよ。でも、それだけではダメで、MBAという場を通じてネットワークが出来ていくところに大きな意味があるわけです。グローバルで活躍しているリーダー達は、皆さんパーソナル・ネットワークを持っていますよね。

古森ええ、本当に成功している経営者というのは、MBAの場や空間を生かして、卒業後に生かせるネットワークを形成しているように思います。

内永 家族付き合いをしたりもします。ただ、「友達になりたい」という意味だけではなくて、「何かをやるためには、信頼できる人とつながっていなければ」ということで、やはりネットワーキングに戦略性の要素もあるわけです。友情もありますけど。

古森 信頼・・・。日本はもとより、すごくデジタルな側面が際立つ欧米の社会であっても、人間として信頼されるかどうかというのは一番大事なことですよね。「I trust you」というのは、英語の世界では最大の褒め言葉の一つですね。

内永 「Trust」に加えて、「Respect」というのも大事ですね。直訳して「尊重する」といったものでは伝えきれないニュアンスがありますが。例えば、古典の知識。古典をさっと英語で引用できたりすると、相手の見る目が変わります。

古森ありますね、そういう世界。古典知っているからって何?と言われると説明が難しいですが、どこの国でも教養の深い人は一目おかれるということでしょう。あと、ジョークの上手な人も同じですね。あれも、上手に人を笑わせることが出来る人は、知的レベルが高いという印象を与えるからなんでしょうね。

内永 そう。ところで、意外にも思えますが、日本人の方があまり「自分のネットワーク」というのを持っていない場合がありますね。文化的には人のつながりが濃そうに見えて、ビジネスなどの肝心なところではそうでもない場合が・・・。

古森 「個」よりも「集団」が先に立つ社会だからでしょうか。Aさんという人と会ったとき、「◎◎社のAです」と紹介されると、その会社と自分の会社が仲良しの場合には、Aさんとの関係も自然に良くなったりする。逆に、映画「60歳のラブレター」で退職後の主人公が昔の取引先に冷たく言われる場面がありましたが、あれは象徴的でした。「あんたじゃなくて、●●社とお付き合いしていたんですよ、我々は」みたいなセリフだったと思いますが・・・。

内永海外は、「個」がベース。相互にリスペクトしあえる者同士が「個」と「個」として人脈を形成しているので、その時所属している組織に関わらず強いネットワークができる。それがないリーダーというのは、弱いですね。というか、あるレベル以上のリーダーにはなれない。アメリカで、大統領が変わるとチームが変わるというのも、そういう「個」のネットワークの現れと見ることもできます。

古森 ベルリッツで学ぶ人も、そのようなネットワークを形成していくことを期待されているわけですね。

内永 そうです。今後ベルリッツの卒業生をネットワーキングして、ジョージタウンの強力な卒業生ネットワークにつないでいこうとしています。ただし、本物のネットワークは、与えられるものではありません。自らの「個」をしっかりと認識して、ベルリッツの提供する独自のエクスクルーシヴな「ネットワーク機会」を、自ら固有のネットワークに変えていって欲しいと思います。

~ 対談後記 ~
「グローバル」という言葉にまつわる、日本の様々な問題。その背景にあるものを、鋭く見つめておられる内永さん。ベルリッツの経営に転じられた内永さんを突き動かしているものは、「英語ビジネスの経営」とは全く次元の異なる、社会変革への使命感のようなものだと感じました。変わらねばならない状況下で、変わりにくい日本。そこに、単なる苛立ちや批判ではなく、変化のきっかけを提供していこうとする姿勢。内永さんの、「個」を垣間見たような気がしました。

内永さん、本当に有難うございました。