C-Suite Talk Live第16回 ガートナー ジャパン株式会社 代表取締役社長 日高信彦さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第16回(3/4)

第16回 ガートナー ジャパン株式会社 代表取締役社長 日高信彦さん
Calendar2010/03/11

これからの時代、日本人が誇るべきもの

古森 そうした、「閾値は高いが、超えれば大きく変わる」という側面は、強みにもなりえますね。日本の持つ良さや強さも、積極的に認識していきたいところです。グローバル経営時代にあって、生かすべき日本人の特性とは何だと思われますか?

日高 「思いやり」というのが、まず思い浮かびます。「弱者の受け入れ」とか、「階級社会を作らない」といった傾向も、相対的には日本に顕著な特性です。実は、縄文時代からそういう傾向があったのですね。歴史を紐解いて見ると、多少の興隆はもちろんありますが、ある特定の家がずっと大金持ちという現象はあまり見られないのです。

古森 「思いやり」というのは、たしかに日本人の多くが自然に持っている感覚のようなものだと思います。時代とともに薄れていくにせよ、世界で見るとやはり際立っているような印象です。

日高それから、エコサイクルに対する感性も優れたものがあると思います。例えば、稲作というのは、熱効率からするとそれほど生産性の高いものではないのです。縄文時代には、中国との交流の中で既に稲作は知っていたにも関わらず、縄文人はあえて栗栽培を重視したのだとか。要は、「エコ感覚があった」という解釈ができるのです。

古森 興味深い視点です。

日高 もっとも、その後揚子江のほうから百万人単位で人が流入してきて、日本も稲作に傾斜していくのですけどね。江戸時代には、家畜文明も入ってきました。しかし、これもエネルギー効率として稲作より良くないということを感知して、家畜の数は江戸時代を通して減っていくのです。家畜育成は自然界から収奪するエネルギーが大きいわけで、そういう感覚を、日本人は長い間をかけて培ってきたわけです。

古森そういう話は、初めて伺いました。

日高『稲作漁撈文明』(安田喜憲 著、雄山閣)という本に、詳しく書かれています。日本人が自分の労働力を提供して稲作を行うことで、いかに自然を学ぶ知恵を身に付けたかということが分かります。

古森面白いですね。日本人の身体感覚に深く根ざしたものが、そこにあるわけですね。ところで、そういう固有の特性を、いかに今日的なグローバル経営の中でプラスに展開できるか、という視点こそが重要ですよね。発揮の仕方を間違うと、「相手を思いやるばかりに、発言を控える」といった反応にもつながるように思いますし。

日高 固有の強さを日本人自身が認識して生かしていこうと考えれば、色々な場面で生かせるはずですよ。例えば、ガートナーはITの世界をつぶさに見ていますが、ここにも日本人特有の感性を生かす機会はあると思っています。

古森 それは福音ですね。

日高 例えば、ある程度標準化したものの上に、「思いやり機能」のようなものを付加していくという考え方。何もかもカスタマイズするとITとしての効率性が出せなくて汎用性が下がりますが、標準形に機能を付加するような形なら、効率性と付加価値のバランスをとることが可能です。日本のIT業界が世界に出て行く際には、ソフトやサービス面に「日本らしさ」を入れていく道があると思っています。

古森 なるほど。それに触発されて思い出したのですが、いわゆる日本的なものと欧米的なものの「積極的なバランス」という状態が、これからの鍵じゃないかと思うことがあります。妥協の産物ではなくて、両方の良さを理解して生かして行けるような状態。それを体現するのは、生きている「人」なんですが。

日高 まさにそうだと思いますよ。経営者でも、グローバル文脈の入った経営場面で本当に優れているなと思わせる人物は、多くの場合、海外経験をお持ちですね。もちろん例外もありますけど。異なる系の中で適応したからこそ、自分がもといた系の良さも積極的に理解できるのでしょう。欧米型の合理性と日本的な思いやりが一人格の中で合体したら、すごくパワフルなわけです。

古森 日本人の培った良いものを、「秘すれば花」ではなくて、英語のプロトコルで発信することが出来たら強いですよね。日本の外の世界では、多くの場合、「あ・うん」ではなくデジタルで明示的なコミュニケーションが重要です。逆に、それに過度に適応して、伝えるべき中身まで全部欧米風になるのも駄目だと思います。

日高 それには、日本人が情報の発信者としての「個」を意識する必要があるでしょうね。「自分は何なのか」ということを、コミュニケーションの場面できちんと意識するようにしていくべきだと思います。例えば私は、「トーストマスタークラブ」というのに所属していましたが、これなんかも役に立つと思いますよ。

古森 トーストマスターというと、あの、パーティーで演説をしたりする・・・。

日高 そうです。それを、米国などでは大真面目に取り組んでいるのですね。米国では100年の歴史があるクラブです。公の場でスピーチをする力を鍛えることが目的で、人前で話す訓練をしているのですが、最初に何を教えるかというと「Self-esteem」ですね。まず、自分を尊敬する気持ちを教えるわけです。その次に、他者に対してもEsteemするということが求められていきます。

古森 自分をしっかり思うことが、他人を思うことの前提にある。示唆に富んだ考え方ですね。グローバル経営時代を生きる日本人には、そういう感覚も必要だと思います。日本を捨て去るためではなく、日本の良いものを本当に海外に伝えていくために。

リーダーだけではなく、皆が「バス」に乗ること

古森 グローバル化や英語の問題、一方で、日本人の特徴を生かしていくことなど、大変興味深いお話を聞かせて頂きました。少し目を転じて、日本国内の組織マネジメントでも、日高さんの基本スタンスはやはり変わりませんか?

日高 変わりません。私が考えているコミュニケーション面の要諦は、国籍を問わないものです。ただ、組織という観点では、もうひとつ重要なことがあると思っています。

古森 どんなものでしょう?

日高 当然のことですが、コミュニケーションを含め、仕事というのはリーダーだけでするものではないということです。例えば、外部の勉強会などで講演すると、参加者から「会社はこうだからXXできない」という発言を聞くことがしばしばあります。しかし、そういう考え方では駄目なのですね。「私はどうするのか」という発想が必要です。この点は、私自身が組織マネジメントをする際にも、意識していることです。

古森 組織のメンバーにも、変わっていく責任があるということですね。

日高 そうです。会社にいる個々人が、新入社員だろうと役員だろうと、全員が自分の立場で何をすべきかを考えて行動すべきです。ジム・コリンズも言っていますが、「良い人をバスにのせて、あとは降ろすしかない」わけでして、組織にいる以上は、個々人にも「バス」の状況に対する責任があります。

古森 そういう文化というか風土というか、下地になるものをいかに生み育てて行くかというのは、世界中の経営者の課題でもあります。

日高これもまた、奇策はないと思います。私は、新しい組織を任された際には、最初に問題点を出させる活動をしてきました。最初はみな警戒もありますので、まずは一対一でその人のもっている問題点を聞きます。それを100人もやれば、組織の問題点は大体見えてきます。まずは、じっくり聴きます。

古森 ここでも、「聴く」が出てきますね。

日高 その後、何名かキーマンを選んで、合宿で徹底的に議論します。そうすると、伸びる組織になっていないとか、部門間連携がないとか、色々と本音が出て来るのですね。この時、ラインの顔をつぶさないように人選するのも大事です。また、合宿では、先のインタビューで聞き出した課題を資料として共有化したうえで、自由闊達な議論をしてもらうようにします。発言へのリスク感やバリアを出来るだけ下げた環境を作って、深い問題意識や知恵を引き出していくわけです。

古森 そうした活動は良く耳にしますが、必ずしも奏功していません。「受容」とその後の議論の環境づくりに、日高さんなりの独特の配慮や深さがあるように感じます。

日高ある時は、こうした合宿を年2回やったので、400くらいの課題が出てきました。それを、優先順位付けしていくのです。アウトプットは、外国人マネジメントにも英語化して提出します。そうすることで、さらにグローバル組織全体としての理解・支援も得やすくなります。これも、コミュニケーション面での要諦です。

古森 色々なやり方があるにせよ、「リーダーが確信をもってやりきる」ことに、私は非常に大きな意味を感じています。日高さんのスタイルが、すべての経営者にとって最適かどうかは分かりません。が、ウルトラCではなく普遍性の高いものを理解し、それをしっかりと実行していくというスタイルは、強いと思います。

日高そうですね。常に不確実な世の中ですから、最終的には、「自分なりの自信を持てるやり方」を持っている人が強いでしょうね。

古森 経営にも、それぞれの経営者の型があるのだと思います。日高さんの場合は、「聴く」ことをベースにして、プラス志向の中で建設的に人々を巻き込んで進めていく、という点が一貫していらっしゃるように思います。