C-Suite Talk Live第17回 コマツ (株式会社小松製作所) 常務執行役員日置政克さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第17回 コマツ (株式会社小松製作所) 常務執行役員日置政克さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第17回(4/4)

第17回 コマツ (株式会社小松製作所) 常務執行役員 コンプライアンス、法務、人事・教育、安全・健康管理管掌 日置政克さん
Calendar2010/03/25

技術に対する国境を越えたリスペクトの醸成

古森ところで、「技術へのリスペクト」とおっしゃいましたね。フィリピンで技術者を育てる仕組みを作ったり、グローバルのコマツとして技術を競い合う場を提供したりと、先進的な試みがたくさんありますね。このあたりについて、少しお話し頂けますか。

日置 フィリピンの取り組みは、「フィリピン人材開発センタ」と言います。現地で機械工学系の大卒者を採用して、4年かけて育て上げようという試みです。4年後に正社員。もともと、フィリピンの方々は異文化適応力や英語力が高いので、コマツでも世界中の鉱山現場などで活躍しています。それを、より踏み込んで体系的にやろうということです。

古森4年後の正社員登用を最初から示すことで、会社としてもコミットメントを持って海外の技術者を育てていく。素晴らしいですね。経過はどんな感じですか。

日置 非常に質の高い人材が集まっていますよ。現地の代理店さんなどコマツのビジネスパートナーも、この取り組みを応援してくれています。経営トップも現地を訪問していますし、研修生の来日時に講演するなどして、直接見ています。モチベーションが高いし潜在性も感じるということで、坂根、野路ともに強く感銘を受けたようです。

古森まさに、「グローバル技術人材戦略」ですね。日系の製造業で、今大きな課題になっているものの一つです。もちろん、これがコマツさんの全ての技術分野をカバーするものではないでしょうが、踏み込んで手を打って、物事が着々と前に進んでいるところが素晴らしいですね。何事につけ、やはり会社として体が動いているのを感じます。ところで、「技術を競い合う場」のほうはどんな感じですか。

日置「オールコマツ技能競技大会」のことですね。これは読んで字のごとく、実際に複数の技能分野で個人の持っている技術を競い合うイベントです。以前から日本の中ではやっていたのですが、2001年から一時期中断していました。私が人事部長になった時に、それを復活させようじゃないかということで、2004年から再開にこぎつけました。また、「やるからにはグローバルでやろう」ということに。

古森日置さんご自身にも、このイベントへの思い入れがあったわけですね。

日置 ありましたね。30年以上前、工場にいた頃に総務部門として運営に協力することになりまして、私はバスの配車係を担当しました。その頃から、素晴らしい活動だと思っていましたので、是非復活させたいと。

古森人事部が主体になって、運営しているのですか。

日置 現場のほうが主役ですね。それぞれ技術の神様みたいな方々がいますので、ほとんどお任せしています。人事としては、このイベントに関わる制度や仕組みの設計、あるいは海外からの参加者サポートなどに徹しています。技術を持っている現場が主体になるべきです。現場からは、1.「絶対やめるな」、2.「社長の参加」、そして3.「ちゃんとした場所で表彰」という要請がありました。会社として、それを受け止めて実現しています。

古森海外からも参加するとなると、相当な大掛かりな取り組みになりますね。

日置 全部で140~150名が参加して、それに付き添いもありますから、倍以上の人数になりますね。3日間ほどかけて筆記試験や実技試験を行い、しっかり採点をして、表彰はまた別に日をとって実施します。採点ひとつとっても、競技終了直後には評価できないものもあります。放射線をあてたり、時間をおいて反りの具合を見たりなどして、採点にも時間がかかります。

古森しかし、その手間を上回る大きな意義があると。

日置 最近は、若い人もこれを観に来るようになりました。昨年は茨城でやりましたが、忙しい中を夜中に出てきてその日の夜に帰った人もいました。そこまでして、来てくれるわけです。この競技会は、技術者たち本人のチャレンジ精神のよりどころであり、腕が認知されて報われる場であり、技術者以外の人々が技術に触れてリスペクトを抱く場でもあるわけです。

古森コマツウェイの結晶のようなイベントですね。

日置大会会場では、最初にいずれかの技術分野の「マイスター」の称号を持つ人が模範演技を披露します。一昨年は塗装、去年は溶接でした。これはもう、本当に「すごい!」と皆が感じるわけですよ。塗装のマイスターの動きなんて、踊りですねあれは。踊り。芸術の域に達しているのが皆に分かります。今は機械化されている部分もありますが、マイスターともなれば、やはり自分でやれる腕があります。

古森 飲食店などでも、今は店舗で包丁を使う機会は減っています。でも、良い経営をしているところでは、やっぱり包丁の使い方を鍛えるんですね。機械にやってもらうことにも、ちゃんと身体感覚を持たせようとしています。やはり、どんな世界でも、技術における身体感覚が大事なのだと思います。ところで、海外からの参加者も表彰台にのぼることがあるのですか。

日置 まだ数が多いとは言えませんが、確実に出てきていますよ。先日は、ブラジルからの参加者が3位に入賞しました。一昨年はインドネシアからの参加者が溶接部門でトップになりました。その前は、中国からの参加者がトップです。日本人は日本人で、それが良い危機感にもなっています。多少なりとも賞金が出ますので、晴れ舞台での認知に加えて、現実的なうれしさもあると思います。

古森 そういう営みを続けていくことで、グローバル・コマツ全体としての技術人材の蓄積が増えていくのでしょう。技術への客観的評価だけでなく、技術者の感情にも訴えながら取り組んでいるところに、コマツさんらしさを感じます。目の前で見て「すごい!」と感じるものを、国境を越えて共有する。グローバルでのカルチャー醸成にもつながっていくことでしょう。

本当に人を惹きつけているものは、「居甲斐」

古森最後に、日置さんが日頃から提唱しておられる「居甲斐」(いがい)という概念にたいへん興味を持っております。少し、ご説明頂けますか。

日置 これはまだ、私も思考途上にあるものなんですが・・・。私が「居甲斐」という言葉で表したいのは、「この会社に居てよかったな」「ここに居て、悪くないね」という感覚ですね。もの凄くポジティブな感情ではないが、一歩ひいて、「悪くないね」という感覚。それが何か、組織にとって重要なのだと感じています。

古森 何か、そう思うようになったきっかけがあるのでしょうか。

日置 ある時、定年退職を迎えた人たちと話していて、ふと思ったのです。40年近くやってきた中で、何人かが「コマツにいてよかった」ということを言いました。はて、「いてよかった」とは、どういうことなんだろう・・・と。

古森そこに何か、組織と人との関係の鍵が潜んでいるのかもしれませんね。

日置 誰一人、昇進したことだとか、報酬の話をする人はいないのですね。職場でめぐり合った人間関係のこと、良いチャンスをもらったこと。出てくるのは、皆そういう話です。20年以上も単身赴任して個人的な犠牲があったような人でも、退職を迎えてそういうことには触れません。表向きの発言もあるでしょうが、それだけではないように思います。

古森 担当する仕事は積極的に選択したものではないけれど、「これもよきかな」と思える何かが色々なところにある組織。そういう感じでしょうか。

日置 さて、何なのだろう・・・ということですよね。人間関係の部分、良い上司、良い同僚、色々なチャンスをもらったという話。突き詰めていくと、それは「フェアな環境」ということになるのかもしれません。あるいは、人間的な面での心地よさ。ちなみに私は、報酬も大事だと思っています。ただ、金銭が人と組織の間の唯一の紐帯でないことは確かです。

古森 そういう、色々なものの組み合わせの総体が重要なのでしょうね。

日置フレミングの法則じゃないですが、こう、指を3方向に開いて、「Comfortableness」「Opportunity」「Remuneration」という絵を描きます。この3つが、それぞれ飛びぬけたものではなくても、ほどよく並存している状態。それが、「居甲斐」のある組織だと思うのです。

古森 単なるバランス論ではなく、一つ一つが派手でなくても、全部合わさって環境として人を取り巻いたときに、「ああ、悪くないな」となる。その微妙な感覚のことを日置さんはおっしゃりたいのですね。認知(recognition)なんかも、その一要素でしょう。

日置 ええ、認知もたしかにその一要素だろうと思います。

古森コマツさんは、インドやシンガポールなど海外の長期勤続者を表彰されたり、縁の下の力持ち的な人に光を当てたりしていますね。そういうことがある組織というのも、何か、人々の感慨に訴えるものがあるように思います。

日置 無理やりとって付けたようにやったら、駄目なんですけどね。あくまでも自然に、そういうことをやっていくわけです。

古森 無理な力がかかっていると、“comfortable”ではないのですね。

日置 それから、「働き甲斐」とか、「ロイヤルティ」といった言葉にも、私、若干抵抗があるのです。そういう視点とは違うところに、何かがあるのではないかと。個々に見た場合の次元がそんなに高くないものが合わさって、生きている人間の心情に訴えるものがあるように思うのです。それを表現したいと思って模索している中で、今は「居甲斐」という表現が一番近いと感じるのです。

古森 「あなたが会社で重視する要素は何ですか」という類の意識調査が、わりとよく実施されています。しかし、そういう分解的なアプローチの延長線上にはない話なのでしょうね、これは。あえて「順位をふれ」と言われればAとBが大事・・・と答える人でも、心の総体は全く別のメカニズムで動いているかもしれません。組織への視点にも、西洋医学だけでなく東洋医学のようなアプローチが必要であることは、確かだと思います。

ああ、もうあっという間に時間が過ぎ去ってしまいました。でも、非常に重要な視点をいくつも頂いたように思います。コマツさんで機能するものが他でも機能するとは限りませんが、具象よりも深いところにある真相を垣間見たように感じる部分もありました。本日は、本当にありがとうございました。

~ 対談後記 ~
日置さんは、積み重ねてきたご経験や担っておられる重責から来る厳格なイメージとは別に、個人としてとてもフランクな面をお持ちで、それを隠さない方です。立場を超え、文化の違いを超え、一緒に人間として分かり合える状態を愛する日置さん。「へべれけ共同体」とは、一緒に飲んで腹を割った人間関係を表す、日置さんの造語です。偉くなられても現場の人、なのですね。

お会いしてまだ間もない頃、日置さんはウィスキー好きの私をバーに連れて行って下さり、山崎のヴィンテージボトルをたくさん飲ませて下さいました。私はまさに「へべれけ」になりました。外の人間ゆえ「共同体」には入れないかもしれませんが、「良いこと」を聞いては語り歩く吟遊詩人のような存在も、悪くはないものです。これも「居甲斐」でしょうか(笑)。

日置さん、本当に有難うございました。