C-Suite Talk Live第21回 東日本旅客鉄道株式会社 取締役 人事部長 森本 雄司さん (3/4) | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第21回 東日本旅客鉄道株式会社 取締役 人事部長 森本 雄司さん (3/4)

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第21回(3/4)

第21回 東日本旅客鉄道株式会社 取締役 人事部長 森本 雄司さん
Calendar2010/06/10

人材育成は、責任と愛情

古森 組織のピラミッドの大きな歪みの中で、「人材育成待ったなし」という切迫した状況・・・。一方で、人材の成長に必要な絶対時間を確保していくというのは、本当に我慢の必要なことだと思います。現場の管理職層が協力的であることも鍵かと思いますが、そのあたりは何か工夫がありますか。

森本 まさに、現場の管理者が意識して取り組んで行くことが重要です。人の成長とともに企業が発展することが理想ですから、何か「よくなったね」といわれる時に、管理職本人の頑張りだけではなくて、「ああ、あの人が育ったからだな」と自然に言えるような組織でありたいと思います。

古森 管理職が、人材育成を本当にミッションとしてとらえているかどうか・・・。余裕があればまだしも、多忙を極める現場の中で、自分でやれば早いものをあえて部下にやらせてみることが出来るかどうか。大切だとは分かっていても、日々の現実の壁に負けてしまう管理職も多いのが実情です。

森本 奇策はないと思いますが、弊社では企画部門の管理職の目標管理に一味加えています。基本的に4つの目標を立てることになっているのですが、その一つは必ず人材育成に関するものにします。いわゆる数値業績などの目標だけでなく、必ず人材育成を目標として明示するわけです。また、そうした目標管理シートを評定する立場にあたる人に対しては、1泊2日の研修を実施して、趣旨を徹底しています。

古森 一般的に、管理職が目標管理シートに人材育成系のことを書くことはありますが、管理職の目標の 1/4が人材育成というのは特徴がありますね。「人材育成は管理職の責任だ」という宣言なのですね。曖昧な目標にならないように、留意が必要な面もあるとは思いますが・・・。

森本 完璧なものは難しいですが、出来るだけ具体性を持たせるようにしています。「誰を、いつまでに、どの程度」といった感じで、曖昧さを残さないように。たとえ定性的なものでも、「○○に関して他人に教えられる程度になる」など、明確になるような形で表すようにしています。

古森なるほど、その反応はどうですか。

森本 まだ道半ばですが、「会社はそういうことを求めているのか!」という気付きは広がっているようです。

古森 そうした、育成というか、本人からすれば成長の目標を設定したとして、実際は日頃の職場体験の質をどう担保するかが大事ですよね。先ほどの話のように技術の伝承活動もあるでしょうけど、会社全体で見ればもっと色々なものがあるはずです。すべてをエルダー社員の伝承で対応するわけにはいかないでしょうから、やはり日頃の管理者層の育成行動の質をどう上げるかがポイントでしょうね。

森本 その通りです。ですから、管理職向けの研修も力を入れています。弊社の場合、まじめで、業務をきちっとこなしていくことを優先するタイプの人が多いですね。もちろん、安全第一の事業ですから、それは大事なことです。一方、部下になる人々はそれぞれ個性が違いますから、同じ業務を覚えるといっても、成長するスタイルは一人ひとり違うわけです。

古森 個々人の育ち方にもダイバーシティがありますからね・・・。

森本 その「個人ごとに違う」ということを、管理職側が認めながら育てないといけないと思っています。社長などは、「部下に愛情を注げ」「我慢しろ」と言っています。現場長試験合格者の中から50~100人程度を選抜した研修も始めましたが、詰まるところ「部下を愛し、育てて欲しい」と思っています。

古森 愛があればこそ、厳しくもするし、我慢や許容があるわけですね。しかし、精神論だけでもまた行動につながらないこともあります。

森本 ええ。ですから、スキルはスキルでしっかりと身に付けてもらうようにしています。例えば、「コーチング」ですね。ご存知のとおり、近年のコーチングの手法は、自分の性格と部下のタイプに応じて、コミュニケーションの取り方を考えるものです。これを、管理者研修の中で学んでもらっています。

古森 ダイバーシティを生かそうと思ったら、個人別に課題を可視化して一緒にモニタリングしていくような、コーチングの手法は確かに有効ですね。

森本 要は、個性の違いをしっかりと認めうる管理職になって欲しいのです。コミュニケーション一つをとっても、相手によってどう使い分けていくのか。「おいこら」で育つ人もいれば、褒めた方が良い人もいるわけです。

古森 同感です。育つための筋目のようなものは、人それぞれ違いますからね。そういうことに、「めんどうだ」と言わずに向き合えるかどうか。忙しい中でやれるかどうか。まさに、部下に対する愛が必要ですね。

やるなら徹底的にやる

古森 管理職への働きかけとともに、肝心の若手~中堅層本人たちへのアプローチはどうなっていますか。先ほど技術への皮膚感覚を養う・・・といった話もありましたが、少し踏み込んでお聞かせ願えればと思います。

森本 ひとつには、横串といいますか、チームワークの質をいかにあげていくかが非常に重要だと思っています。鉄道の仕事というのは、例えば、レール、保線、信号、のように色々な専門分野に分かれていまして、ともすれば視野が狭くなりがちです。一方、鉄道はそれぞれの専門分野の総和で動くものなので、専門性を深めつつ、全体の仕事がどうなっているのかも良く認識する必要があります。

古森 総和で動く。まさにそうですね。

森本 鉄道事業はネットワークの仕事だと言っています。最終的に、お客さまにとって良いサービスを提供するには、それぞれの系統が力を合わせないと駄目です。例えば、ホームの床で足がすべりやすい場所があって、苦情になったとします。そこでホームの構造を受け持つ専門家が駆けつけるわけですが、同時にお客さまの流れが分かる専門家も必要です。何事につけ、そうした関係者を色々と意識しながら仕事を進める必要があります。

古森 研修などの場でも、そうした横串だとかネットワーク形成のようなものを訓練するのですか。

森本 ええ。例えば、「実践管理者育成研修」というのがあります。これはまさに、系統を超えて横串を通すことを企図した研修です。約2ヶ月半の間みっちり、土日を除いて行う研修ですが、社内の様々な系統から若手の中堅層が参加します。40kmを3人1組のグループ単位で歩くといったアクティビティもありますし、グループワークで与えられた問題の解決に取り組んだりもします。

古森 頭も体も全部使って、グループ単位で課題を乗り越えていく経験を積んで頂くわけですね。

森本 経営トップも強くコミットしています。研修の最終日には、社長が一人ひとり握手して、「頑張ってくれ」と激励します。研修を通して、例えば、「東京と盛岡では○○の事情が違うね」とか、そういうことが肌で分かりあえるようになります。

古森 色々案じるよりも、実際に、ある一定の時間を投資して人々を混ぜてしまう。新入社員の研修ならまだしも、中堅層に対しこうした濃度でクロスファンクショナル・トレーングを行うというのは、かなり思い切った投資だと思います。。

森本 協働作業ばかりでなく、企業人としての心構えだとか、プレゼンテーションのスキル、コーチングの手法なども交えての総合研修になります。ただし、研修のタイトルどおり、理屈ではなく実践的であるようにプログラム編成を心がけています。ちなみにこの研修、会社が任命してやるのではなく、手を挙げて応募してきた人の中から選抜していく形をとっています。

古森 「まず、意志ありき」で動いているプログラムなのですね。その点も、通常の階層別研修とは趣が違いますね。

森本 本人の意思があるというのは、極めて重要なことです。この研修はもう10数年前から続けていまして、直近では240人が参加しました。

古森 ある種の、社内留学のようなものですね。

森本 技術・技能の分野で社内留学というと、「技術アカデミー」というのがあります。これは、車両、電気、設備、土木、建設・・・といった各種系統の中で、ちょうど現場の仕事がわかってバリバリやっている、支社の中堅層を対象にしたプログラムです。一年間徹底的に教育を受け、個人とグループで研究発表をしてもらいます。これも自らの応募に基づいて運営します。

古森 一年間ですか。まさに、社内留学ですね。

森本 ここの本社ビルの中に、アカデミーの部屋があります。こちらのプログラムは昨年立ち上げたところですが、初年度受講者は24人です。一番の狙いは、各系統で保守する基準やルール等の裏側にある、「それが何故できたのか」という点まで理解を深めることです。「こんな事故があったから、こうなっているのだ」、とか。歴史的なもの、技術的な裏づけも含め、しっかりと理解を深めて頂きます。

古森 基準やルールの「Why?」を突き詰めていくと、形骸化させないという効果もありますが、さらに応用にも繋がっていきますね。「こういう考えでこうしているのか」という理解が積み重なっていけば、明示的に規定されていない事象に出会ったときに、原則に立ち返って判断が出来るようになるはずです。鉄道に限らず、何事でもそうです。