C-Suite Talk Live第21回 東日本旅客鉄道株式会社 取締役 人事部長 森本 雄司さん (4/4) | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第21回 東日本旅客鉄道株式会社 取締役 人事部長 森本 雄司さん (4/4)

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第21回(4/4)

第21回 東日本旅客鉄道株式会社 取締役 人事部長 森本 雄司さん
Calendar2010/06/10
森本 一年間という期間を使って、いかに深いものを提供できるか。「どういう人材に育ってもらいたいのか」という観点から、あらゆることをゼロから考えて、初年度は8人のコーチを選びました。そのコーチが、カリキュラム内容から社内外の識者の動員まで含めて、必死に考えてプログラムを作っていきました。

古森 作る側も真剣勝負ですね。

森本 「もともとの原理がどうなのか」ということを突き詰めるために、系統によっては短期的に大学に通わせることもあります。あるいは、車両メーカーに実際に行って勉強させて頂いたり。事故というものがどう起こるか、安全が脅かされるとはどういうことなのかを感じるために、鉄道のみならず航空機事故や労災の事例なども貪欲に学習していきます。

古森 やる以上は、とにかく徹底するというスタンスですね。実践管理者育成研修も技術アカデミーも、実質的には社内留学ですね。一般に留学というと業務に直結しないものも多いですが、御社の場合は実務の文脈で徹底的にやるわけですね。

森本 この他に、社外セミナーの活用なども奨励しています。大学の社会人向けの公開プログラムに応募するときには、公募で費用は会社が持ちます。工夫しているのはその後の対応で、そうした社外セミナー参加経験者を対象に、「フォローアップ研修」というのをやっています。

古森 どんなことをやるのですか。

森本 それぞれが参加した社外セミナーの内容等は千差万別ですので、それをそのまま振り返るようなことは出来ません。例えば、先日は久恒先生(「図で考える人は仕事ができる」久恒啓一)を招いて半日の特別講演を開催しました。要は、「会社はあなたを、引き続き見ていますよ」ということに気づいてほしいのです。

古森 会社の支援を受けて社外セミナーに参加して、「感動して終わり」は駄目ですよと・・・。せっかくの機会を消費させない仕掛けですね。それを管理的な手法ではなくて、新たな刺激を提供することで喚起していくというのは、素晴らしい考え方ですね。

安全は、安定志向では守れない

森本 色々とお話ししましたが、すべてにかかる考え方は、「継続的挑戦」であり、「自ら考え、自ら行動する」人をいかに育てていくかということになります。

古森 それが、根本にある人材育成思想なのですね。

森本 鉄道というのは、多くの仕事が「決められて」います。安全が何よりも重要ですから、「決められていること」の重要性は十分に理解していなければなりません。一方、決めたことはいずれ陳腐化する場合もあるわけで、時代にあわせて標準を変えていく力も同時に重要なわけです。それを、自分で考えて提案することができる人。弊社では、そういう人を増やしていきたいのです。

古森 鉄道事業以外にも、例えば生活サービス事業ですとか、新しいことを考える場面は増えているようですね。

森本 そうですね。生活サービス事業には、若手社員が多いです。色々チャレンジさせるといっても、鉄道事業では安全が最優先ですので、安全上の失敗は許されないわけです。勢い、チャレンジにも限度があります。その点、生活サービス事業は6勝4敗でもスピード感をもってチャレンジして、結果として勝てばよいので、時代の変化にあわせてチャレンジングなことが出来ます。

古森なるほど、若手がチャレンジ経験を積みやすい環境にあるのですね。

森本 エキュートなども、そうした例ですね。駅という場所を使って、顧客属性に合わせて、例えば、即売系のもので品質のよいもの、というようにマーケティングして、駅と柔軟に組み合わせて試行しています。IT・Suica事業でも、今は本社主導でやっていますが、今後は電子マネーに絡めて色々なチャレンジが若手から出てくるだろうと思います。

古森昨今は、世相からしてやむをえない面もありますが、学生の安定志向が強くなっています。御社も人気企業として上位にランキングされますよね。でも、今日のお話をふまえて言えば、いわゆる「安定志向」では成り立たない仕事ですね。安全を提供し続けるためには、提供者側では「継続的挑戦」が必要であり、「自ら考え、自ら行動する」人の集団でなければならないわけですね。

遅れないのが当たり前、事故がないのが当たり前という厳しい要求水準の中で、日常を支え続ける社会インフラ企業としての内なる取り組みを、垣間見た思いが致します。本日は、有難うございました。

~ 対談後記 ~
JR東日本という会社がここまで人材育成にコミットしているということを、多くの人々は想像していないでしょう。あるいは、「余裕があるから出来るんだよ」とおっしゃる向きもあるかもしれません。では、余裕があればどんな企業でも同じことが出来るのでしょうか。私はやはり、この会社に息づく人材育成への真剣な思いを感じずにはいられません。

私の家の裏を走る中央線では今、高架化の工事が進んでいます。数年がかりの大規模な工事で、深夜の作業も発生します。そうした工事の都度、周辺の家々を個別に訪問し、あるいは手紙を投函するなど、きめ細かな対応が見られます。踏み切りに立っている警備員さん達はどの人も、通行人に朗らかな挨拶を忘れません。あんな気持ちの良い警備員さん達を、私は見たことがありません。おそらくJR東日本の社員の方ではないだろうと思いますが、現場全体で住民のストレスを軽減すべく、まさに「総和で動く」が実践されているのでしょう。鉄道の現場にもまた、学ぶべきものがたくさんあることに気づかされます。

森本さん、本当に有難うございました。