C-Suite Talk Live第23回ヤマト運輸株式会社 経営戦略部長 岡村 正さん

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第23回 ヤマト運輸株式会社 経営戦略部長 岡村 正さん
Calendar2010/07/01

「満足バンク」という試み

古森 こうしたイメージに訴える研修のほかに、何か満足創造運動の中で進めておられることはありますか。

岡村 例えば、「満足バンク」というのがあります。

古森 満足バンク?

岡村 ええ。先ほどの映像の多くの部分がお客様との接点に起因するものだとすれば、こちらは社内に光を当てた活動です。「満足創造3ヵ年計画」では、一人ひとりが当事者意識を持って満足創造活動に携わることで、小さな輪から大きく広げていくような好循環を生むことを目指しています。そういう取り組みの一環として、社員がお互いを褒めあう場を作ったわけです。

古森 どのような仕組みになっているのでしょうか。

岡村かいつまんで申しますと、イントラネット上に互いを褒める場を作り、そこに個々人が自由にアクセスして、自分の日々の仕事の中で関わりのあった人々を褒めることが出来るようにしたのです。なぜ「バンク」なのかというと、褒められた場合にも褒めた場合にも、ポイントがつく仕組みになっていまして、そのポイント数も個人ごとに誰でも見ることが出来るわけです。

古森褒めた、褒められた数が口座にたまっていくようなイメージですね。だからバンクだと。しかし、こういう仕掛けは使われ方によっては誤作動する場合もありそうです。大丈夫でしょうか。

岡村 そのとおりで、例えばこういうものが人事評価に直結したりすると、一気に形骸化します。その点は、仕組みを立ち上げる段階で組合とも議論をしまして、評価には使わないことを明言して始めました。

古森 一方で、単にポイントがたまるだけでも、何かこう、一味足りなくなりますよね。

岡村 そこは、人事評価だとか報酬だとか、そういった直接的なものではなくて、「認知」につなげるという運営をしています。例えば、ポイントがたまると、ある段階で銅バッジがもらえて、もっとたまると銀バッジになったり。会社として表彰の場も設けています。

古森 皆さんの反応は、いかがでしょうか。

岡村まだ初めて1年半くらいですが、順調だと思いますよ。最初は半信半疑だった人もいましたが、いざ初めてみると、この仕組みの良さに気づいてくれます。人間というのは、やはり他人を褒める、あるいは他人に褒められる、ということ自体がモチベーションに影響するのですね。

古森 その点は、お客様からの「思いがけぬ有難う」が呼ぶ感動と、同じことだと思います。お客様も社員も、皆人間です。人間、やっぱり他者とのかかわりの中でしか生きていけないわけで、そのかかわりが感謝や認知で満たされていることが非常に大事だと思います。

岡村 本当にそうだと思いますよ。2009年3月末の段階で、ある支店の支店長がポイント数でトップになりました。この人は、自分の管轄で働いている人々をとにかく地道に褒め続けて、気がついたらポイント数で日本一になっていたのです。それで実際、支店の雰囲気や業績面でも、前向きな傾向が出始めました。

古森 実際に、組織に好影響が出ているのですね。

岡村 結局、人を褒めようと思ったら、個人個人を日頃から見ていなければ出来ないわけです。自分が誰と仕事をしているか。誰と誰に助けられながら日々を過ごしているか。そういう生きた人間同士の職場というものを、改めて気づかされる良い機会になっていると思います。

古森 大変興味深いです。私、仕事柄、管理職層のスキル研修などもお手伝いすることがありますが、往々にして本質的な課題の一つは「管理職が部下個々人をどれだけ深く把握できるか」という点にあったりします。満足バンクは、その溝を埋める契機にもなっていくでしょうね。また、管理職だけではなく、全ての社員の間でこういう個々人へのアテンションが高まっていくことは、何よりの財産でしょう。

岡村 ちなみに「財産」という言葉に反応してもうひとつお話ししますと、「人財資産台帳」というものも、構想中です。

古森 人財資産台帳、ですか?

岡村これはまだこれからの企画なのですが、ある種の個人プロファイルの蓄積を作っていって、退職時に卒業アルバム的に手渡してはどうか・・・というものです。先ほどの満足ポイントの履歴なども含めて、その人がこの会社でどのように過ごしたか、どのように認知されてきたか。そういうものが何か作れたら、退職時に「ここに居てよかった」と感じてもらえるのではないかなと。

古森「ここに居てよかった」というフレーズは、この対談シリーズ(第17回)でコマツの日置さんが語っておられた「居甲斐」という話にも共鳴します。しかしそれは、面白い企画ですね。相当手の込んだことになりそうですが、やれそうですか。

岡村もちろん簡単だと言いませんが、ITのインフラを使えば物理的には意外に簡便に立ち上げることは可能です。満足バンクもそうですが、これからの時代、人間の感情の世界を扱う場合にもITの活用は欠かせません。逆に、ITを柔軟に活用していけば、これまで出来なかったレベルのきめ細かな対応が、社内でもお客様向けにも、どんどん実現していけるようになります。

古森人間の感情というアナログの世界と、ITのデジタルなインフラとを融合して、まさに新しい経営のあり方を追求しておられるわけですね。

クロネコ、海を渡る

古森さて、最後になりましたが、御社の海外展開のことも気になっております。ビジネスとしての拡大もさることながら、今日伺ったようなきめ細かな人間の世界、理念の世界をどのように海外で再現するのか。あるいは、しないのか。そのあたり、差し支えない範囲で結構ですので、お聞かせ願えないでしょうか。

岡村 まず、事業としての広がりの話からしますと、まずはアジア地域と日本の間での物流を、大きく改革しようとしています。これも結局はお客様視点から始まった話です。例えば今は、日本にいる個人のお客様のもとに品物が届くまでに、実に多くのプロセスがありまして、見方によっては時間やコストの無駄も多いのです。それを、もっと簡便にかつ早く動かせるように出来ないか・・・という発想です。

古森 アジアのどこかの国の工場から、御社のインフラを通ってダイレクトに荷物が届くような道を作っていくわけですね。

岡村 ええ。既に、いくつかの分野ではそういう流れが出来ています。今後、さらにアジア方面とのネットワークを拡充していく予定です。ITもフルに活用して、これまで出来なかったことを実現していきたいと思います。

古森 心強いですね。そうした中で、人間的な部分、価値観の部分はどうされますか。

岡村 簡単ではないと分かっていますが、希望の芽は出ていますよ。こういうものを伝えていく上での鍵は、結局日本でもどこでも通じるものがあって、実務の中でイメージさせていくことでしょう。先ほどのDVDだって、実務の世界での出来事だから皮膚感覚がぱっと湧くわけです。

古森 そうだと思いますが、いかにしてそれを海外で・・・。多くの日系企業が、理念的なものの海外コミュニケーションで苦労をしています。

岡村 実際に、実務と理念をコーチングできる人間を、現地に送るのですよ。今は、30人くらいのセールスドライバー(SD)が海外に飛んでいます。

古森 SDが30人も海外へ・・・。しかし、言葉の問題などはどうするのですか。

岡村 そこが弊社の面白いところでして、SDの中には実に多様な経験を持った人財がいるのですよ。英語や中国語が出来る人もたくさんいますし、人に何かを教える仕事をしていたような人もいます。個々人のバックグラウンドが非常に多様であるために、このような展開になってきた際にも柔軟に対応できています。

古森 なるほど。これはえもいわれぬ組織の力ですね・・・。個人の多様性が組織の力になっているという姿。素晴らしいです。

岡村 そういうコーチ達も派遣しながら、着実に現地ごとのオペレーション構築と、理念的なものの浸透を進めています。実際、荷物の配送の際に日本のようなきめ細かな接点は存在しませんので、弊社のサービスに感動して頂ける場面も増えているようです。

古森 感動は、国境を超えた普遍的な力がありますね。今後の展開が、本当に楽しみです。海を渡ったクロネコに、是非頑張って頂きたいものです。それが海外で感情的にも認められていくとするならば、そこに新しい日本企業の付加価値のあり方さえ見えてくるような気がします。

貴重なお話を聴かせて頂き、有難うございました。

~ 対談後記 ~
感動体験を綴ったDVDに触発されて、支店単位でも独自の感動映像を作る動きが出てきたそうです。感動が波及して、プロアクティブな行動に変わり始めているのですね。そのうちの一つを、ちょっとだけ拝見する機会を頂きました。あるお客様からの投稿にまつわる話です。

ある日、そのお客様はコンビニエンスストアで買い物をしていたのですが、気がつくと子供の姿がありません。びっくりして探していると、なんと付近に停車中の大型トラックの下から、まさに助け出されるところでした。気づかれなかったら、そのトラックはまさに走り出すところだったのです。気づいた人が大声で静止し、そのお子さんの命は救われました。助け出していた人は、ヤマトのSDでした。

そのSDへ感謝するお客様。「どこかで以前、お会いしましたか」とたずねるお客様に、そのSDは「当然のことをしただけです」「お会いするのは初めてですが、仕事の担当とは関係なく、やるべきことをしただけです」と応えます。感動したお客様が、後日投稿して来られたといういきさつです。

この逸話を見て、私はそのSDの受け応え以上に、実は衝撃を感じるものがありました。それは、何故そのSDが、自分の営業車でもない通りがかりのトラックの下にいる子供に気づいたのか、ということです。忙しい仕事中に、何故、他の通行人が誰も気づかないのに、そのSDは気づいたのかと。

それは、「人間なるものへの感度」のなせる業ではないかと思います。人間への感性の強い人は、周囲にいる人間の何かを意識下で感じ取って、敏感に反応することが出来ます。このSDさんの脳裏にも、そのとき何かが起きていたのではないでしょうか。

我が家にいつも配達に来て下さるヤマトのSDさんも、本当にきめ細やかな心遣いと確かな記憶力で、素晴らしいサービスを提供して下さっています。人間への感性。それが現場で自然に動いているということは、この会社の理念が本当に生きたものであることを物語っています。

胸が熱くなった、90分でした。岡村さん、有難うございました。