C-Suite Talk Live第29回 新社会人養成塾BOOSTER 代表理事 田尻 邦夫さん (4/4) | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第29回 新社会人養成塾BOOSTER 代表理事 田尻 邦夫さん (4/4)

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第29回 新社会人養成塾BOOSTER 代表理事 田尻 邦夫さん
Calendar2010/08/23

日本はもっと良くなる

古森 世の中全体の話が出てきたところで、最後に「日本」について何かお考えがあればお聞かせ下さい。おりしも参院選挙で政治への関心も高まっていますし、多くの人々が会社の将来とともに国の将来を憂えています。私個人は、企業に入る前の20年間に、人をどう育てるかという点が常に問題意識のあるところです。英語力の問題なども、その最初の20年間の過ごし方が鍵だと思います。
※2010年7月12日対談


田尻 教育の問題は色々と言われていますけど、学校だけでなく塾に通うなどして、それなりに初等~中等の教育は頑張っているのではないかと思います。世界と差が出るのは、大学ではないでしょうか。

古森 なるほど。どのあたりに差の源泉があると思われますか。

田尻 例えば、先ほどもお話しましたように歴史観の不足ですね。日本史は、大学でも必修にすべきものです。それも、大昔のことだけではなくて、現代史も含むことが大前提ですね。自国の歴史をきちんと教えない国がどこにあるのかと思いますよ。

古森 世界に出て行けば出て行くほど、逆に「自分はどこから来たのか」というアイデンティティは重要ですね。それに、日本の現代史をよく理解すると、最近起きている政治や外交の問題、あるいは企業のグローバル人材マネジメントの取り組みが進んでいない原因などに、通底する傾向が見えたりもします。将来は過去の再現ではないが、過去に学ぶことで将来の行動を良い方向に変えることはできますね。

田尻 それから、国全体の話でいうと、雇用の流動性というのも重要課題です。具体的には、幹部層の流動性をうんと増やさないと日本はだめだと思いますね。退職金制度とか年金ももっとポータブルにして、流動性を現実的にバックアップすべきです。解雇条件も、もう少し柔軟にできないものか。社会全体で人が動いていく素地を作らないと、優秀な人材が多様な経験を積む機会や、若い人々の成長機会が過剰に制限されます。もちろん、解雇を乱用するなどといった話とは別次元のことですよ。

古森 流動性が過度に低いことの弊害は、先日この対談にご登場頂いた日本総研の山田さんも指摘しておられました。何事もバランス問題だと思いますが、国全体で見た場合に、いわゆるセーフティーネットの議論のほうが、国家的視点での人材育成の話よりも前面に出ているように感じます。経済の成長戦略をアジェンダに掲げるのであれば、それを担う人材育成のあり方自体が、本来はマニフェストの重要項目にあげられているべきです。

新社会人養成塾BOOSTER 代表理事 田尻様
田尻 競争力のある人が「結果終身」で長く働くのは良いことです。一方、「定年までいよう」というのが働く人の目的になってしまったら、その会社の競争力は確実に低下していきます。デサントでは、「ずっとここにいようなんて、思わないでくれ」と常々言っていました。「入社して5年経って、どこからも声がかからないようでは困る」という話も。だって、社員の時価総額の合計が企業の価値になるわけですよ。社長も社員も、自分の時価を上げていく必要があります。

古森 そういう意味も込めての、流動化促進なのですね。あと、政府の掲げている戦略の中で言うと、観光分野についてはどう見ておられますか。田尻さんは、日本各地の老舗旅館や温泉宿などにも造詣が深いと伺っておりますが。

田尻 海外に誇れるはずの素晴らしいものが、まだまだ日本中にあります。温泉宿しかり、地方の景勝地しかり。でも悲しいことに、温泉宿などの宿泊施設の場合、インターネット予約の普及ともあいまって、「宿」全体のクオリティを見て選ぶ人よりも、単に部屋代の安さで選ぶ人が増えているようです。そうなると、良いものが維持できなくなっていきます。

古森 それも、先ほどの日本史の話とも通じる面があって、「足元にある良さをもっと知ろう」ということですね。日本にある良いものは、何を隠そう日本の人々がまず経験して、感動して、適切なお金を払って、歴史を超えて育てていくべきものですね。

田尻 私は経験上英国が好きですが、日本を旅行していると、「こんな良い国はないな」と再認識します。地方には地方の良いものがあり、それをもっと生かしていくべきです。また、東京は東京で、もっと人口が集まっても快適にリーズナブルな暮らしが出来るように、都市デザインそのものから見直していくべきでしょう。不可能ではないと思いますよ。

古森 たしかに、まだやりようはいくらでもあるのでしょうね。私の郷里の大分には、湯布院の成功ストーリーがあります。あれだって、決して簡単だったわけではないけれど、全体視点を持ったプロデュースと地道な働きかけの賜物で、生まれ変わったわけです。まだまだ、色々なことが出来そうですね、この日本では。

田尻 そう思います。

古森 田尻さん、今日は本当に有難うございました。BOOSTERの活動、そこから生まれた問題意識、今後の展望、さらに日本に対するプラス志向の問題意識までお聞かせ頂き、私も色々と思うところがありました。読者の皆さんにも何か、いい意味で引っかかる部分があるのではないかと思います。それぞれが、自分のフロンティアを持って取り組んでいくべきですね。

~ 対談後記 ~
この対談にご登場頂く方々には、しばしば共通したものが見受けられます。その一つが、経営の第一線を退かれた後に、「社会のために何かを尽くす」という姿勢です。田尻さんのBOOSTERの活動も、まさにそうなのだと思います。日本という国の将来には大変困難な課題が山積していますが、点滴岩をも穿つという諺もあります。一人でも多くの大人が、一つでも多くの良い働きかけをしていけば、世の中は変わっていくでしょう。
また、どのような側面からであっても日本という国の素晴らしさを知れば、社会全体への貢献意識も自然に芽生えていくのだと思います。歴史でも景勝地でも何でも、今私たちが立っている足元にあるものを、今一度見つめてみることが大事ですね。

田尻さん、有難うございました。