C-Suite Talk Live 第31回 ブリストル・マイヤーズ株式会社 執行役員 人事総務部門長 田島 房好さん

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第31回 ブリストル・マイヤーズ株式会社 執行役員 人事総務部門長 田島 房好さん
Calendar2010/09/21

採用市場での手ごたえ

田島 採用活動を通して新卒学生とも接するのですが、彼ら、彼女らも良く企業のことを見てくれているなと感じます。いわゆる大手に比べると、弊社は知名度や規模で劣る面がありますので、やや心配していた面もありました。しかし、今年も結果的には大手にまったく引けをとらない人材が集まりました。がんやスペシャリティ分野で頑張っていきたいという人材が、強い興味を持ってくれたのです。

古森 何か特別なコミュニケーションをしているのですか。

田島 特別なことをやっているわけではありません。もともと、がん分野に強みを持った専門メーカーとしての知名度は、ある程度あったのは確かです。

古森 なるほど。

田島 家族ががんを患った経験から、弊社の取り組みに特別な思いを持って受けに来られた学生さんもいらっしゃいました。医療関係者が知人や家族にいて、弊社のことを聞いて興味を持った方々も多かったですね。

古森いわゆる広告的な意味での情報ではなくて、有機的、個人的な接点で御社のことを認識する人々がたくさんいらっしゃるわけですね。

田島 そうですね。何か特別なコミュニケーション施策を打ったわけではないですが、色々な形で学生さんたちに弊社のスタンスは伝わっていたようです。

古森それは嬉しいことですね。

田島 あえて「規模の大きいところには行きません」「難しい分野にフォーカスしている医薬品企業を志望している」といった志望動機も、よく目にしました。

古森 戦略に独自性があって、それを実行しようとしている姿勢が、見るべき人が見た際にちゃんと伝わるということでしょう。逆に言うと、そういうものはコミュニケーションの技巧ではごまかせない時代なのかもしれません。会社の個性というものが、良くも悪しくも世間に伝わってしまう時代。そして、それぞれの会社の個性に共鳴する人材が集まっていく時代なのだと思います。

「キャリア☆なび」~横方向の展開とジョブの透明性

古森さて、人材マネジメントの視点で課題といったら何でしょうか。

田島 一言でいいますと、人材プールをいかに充実させていくかですね。弊社の向かっている方向に対して、人々のエンゲージメント・レベルは非常に高いと思います。離職率も低いですし、優秀人材もそれほど辞めていません。一方で、今後会社として実現していくべきことを考えた場合には、さらに人材の質的な厚みを形成していかねばならないと思います。そこにはまだギャップがあります。

古森 組織の単純な量的充実はしないという方向性の中で、いかにして質的な意味で、濃さのある人材層をつくっていくか。何か取り組みは進んでいるのですか。

田島 鍵の一つは、「ラテラル・ムーヴ」(注:直訳としては水平移動の意)ですね。上に昇格していく形のキャリアだけではなくて、横方向に幅を持たせたキャリア開発です。

古森 開発から営業へ、とか。そういうことですね。

田島 はい。ラテラルなので、位置づけられているグレードは変わらない状態で、いくつかの仕事を経験するという形です。平均的には2~3ヶ所で違った分野の仕事をして、上にあがるようなイメージです。幅を広げようということです。

古森 定期異動的に大規模なローテーションをしていくという話ではなくて、あくまでも個々のキャリア形成の視点から見た個別性のある取り組みですね。

田島そうです。個人ごとにラテラル・ムーヴも含めたキャリア形成の希望を出して頂いています。全員のキャリア面談を、中間期の面談と併せて実施していますし、出てきた希望を登録するデータベースを作って、全社員の希望を把握しようとしています。また、象徴的な異動を出来るだけ実現して、皆にイメージを伝えたいと思っています。

古森これも、戦略と実行の話と同じで、奇想天外なことではないですよね。多くの企業で人々の異動希望などは書いて提出させていますが、結局はそれを本当にキャリア形成に生かすかどうかだと思います。

田島 まさにその通りです。実効性や具体性を持たせるための取り組みの一環として、社内にある仕事の情報を出来るだけ共有化するようにしました。日本法人にはおよそ180種類のポジションがあるのですが、そのすべてについて洗い出して、「ポジション紹介」ということで、1ポジションあたり2枚の紹介資料を作成しました。今そこに誰が就いていて、その人のグレードは何で・・・ということまで、公開しています。

古森 かなり透明性が高いですね。在籍数が1,000名前後でポジションが180というのは、MRさんなどでは在籍数が多くてもポジションとしては3種類程度になるからでしょうね。現職者のグレードまで含めて、およそ180ポジションの情報を全部イントラネットで公開しているのですか。

田島 はい、すべてイントラネットで公開しています。そもそも、私が招聘されたのも、こうしたことを一生懸命やってくれそうだという期待があったのだと思います。私自身も、非常にやりがいを感じてこの仕組みづくりを進めています。このイントラネットの仕組みを、「キャリア☆なび」と名づけました。

古森 「キャリア☆なび」ですか。自分でまさに自分のキャリアの可能性をナビゲートしていくようなイメージを込めた命名ですね。

田島 (実際に画面を見せていただきながら)このイントラネット内のキャリア開発ツールの中に、「ポジション紹介」というのがあります。例えば、私のところがどうなっているかというと・・・。これです。ビジネスパートナー人事、採用など色々あって、ポジション名は人事総務部門長です、と。グレード、レポート先、職務内容と責任、必要なスキル、コンピテンシー、次のステップへの可能性などまで書いてあります。

古森 これは相当詳しいですね。この手のシステムをいくつも見ていますが、枠組みは似ていても、書いてある濃さに感銘を受けました。この、「次のステップの可能性」というのは、どういう具体度で書くのですか。方向性のようなもの?

田島 いえ、具体的なポジション名を書くようにしています。このポジションを経験した後に、具体的にはどういう可能性がありうるのか。それを、できるだけ多く書くようにしています。

古森 こういう書き方も、今時のニーズにフィットしていますよね。「それが将来何の役に立つのか」を知りたいという人は、若い世代にはかなり多いでしょう。ちなみにこの「次のステップ」は、論理的な想定で書くものですか。それとも、過去の実際の例を見ながら書くのですか。

田島やはり、ある程度実例があるものを書くことが基本です。もちろん、過去の事例を踏まえて、今後ありうる論理的可能性なども出てきますが、原則としてリアリティのあるものを書いています。しかし、これをおよそ180個作る過程は本当に大変でした。現職者の方々に多大なるご協力を頂きましたし、私自身も本気でエネルギーをかけて取り組みました。

古森 これは感銘を受けました。通常、「次のステップ」の部分は過剰コミットのリスクもあるので、保守的な扱いになりがちです。人事運用上のリスク軽減よりも、人々のキャリアプランニングの利便性に優先度を置いた形ですね。ところで、社員の皆さんからの「キャリア☆なび」へのアクセス状況はどうですか。

田島 おかげさまで、かなり見ていただいているようです。

古森 情報にこのくらいの濃さがあれば、キャリア面談もやりやすいでしょうね。