C-Suite Talk Live 第32回 株式会社ミツカングループ本社 専務取締役 野々山 幸夫さん

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第32回 株式会社ミツカングループ本社 専務取締役 野々山 幸夫さん
Calendar2010/09/29

鍵は課題分析力ではなく課題形成力

古森 人材育成の話になりましたが、委員会を通じた横串の異動施策に加えて、スキル面からは何か考えておられることがありますか。

野々山 そうですね、これは国内での話になりますが、スキル系の研修は色々とやってきました。そうした中で一番難しいなと感じているのは、ミドル層の戦略構築力ですね。

古森 戦略構築力。

野々山 優秀な人は、課題が目の前にあれば、解決の筋道を上手に見つけますし、生産性高く実行することもできます。しかし、究極のテーマは、「そもそも何が課題か」を見つけることができるか否かですね。何年も教育に携わってきて、その点に強い問題意識を持っています。これだけ変化が激しい時代、より現場に近いところでスピーディーに課題を形成していかないと勝ち残れないと思います。

古森つまり、戦略構築力というよりも、その根本にある課題形成力のことですね。「この課題をどう解くか」ではなく、「何が取り組むべき課題なのか」をゼロから感知して定義する力。

野々山 そういうことです。ところが、このテーマに関して言えば、なかなか実効性のある研修というのは難しいのです。問題解決の枠組み、フレームワークの知識などでは、表面的にしか対応できません。変化を捉える、環境を認識する、得意先を理解する、そういった情報感性のような部分から鍛える必要があります。

古森おっしゃることの意味、良く分かります。これだけ変化の速い、不確実性の高い時代になって、「未来の筋を当てる」ことが今まで以上に重要になっていますね。一方、それをやろうと思ったら、私は過去に対する洞察を深めることが非常に大事だと思います。逆説的ですが。

野々山 なるほど。

古森 情報感性というのは、何か情報に触れた際に「あっ、これは潮目だな」とか、「これは、もしかしたらこうなっていくのでは」などと、瞬時に仮説のアンテナが立つことを言うのだと私は理解しています。さらには、「だから、こんなことを始めないといけないのではないか」という、解の仮説も含めてです。

野々山その通りです。ミドル層が、日頃の仕事の中でそういう仮説を立てて動いていかないと、これからの世界では勝てないと思っています。

古森 そうなると、これは「歴史学の実用性」の話に似てくると思うのですね。歴史というのは、単に過去を詳細に叙述するだけでは、未来に生かすことはできません。しかし、最先端のシナリオ・アナリシスなどでは、歴史から変化の本質を見出してきて、それをもとに将来に関するいくつかの仮説を描いていくわけです。「過去を知るために過去を知る」のではなく、「未来志向で過去を紐解く」ことが出来るかどうか。これが鍵だと思います。

野々山 過去を分析するにしても、その目的志向性の置き方によって、得られるアウトプットは全く違うということですね。

古森 古い言葉では、「勘」というのもこれに近い世界だと思います。勘も脳の作用ですから、一部の先天的な場合を除けば、基本的には過去の蓄積から生まれるはずです。ただ、単に過去を知っているだけではだめで、過去に関する思考の蓄積が重要です。そういうことを何百回もやっていけば、勘が冴えてきます。卑近な話では、良い経営コンサルタントと見せかけの経営コンサルタントの差も、ここに起因する場合がかなりあります。

野々山 私はよくドラッカーを引き合いに出して、「既に始まっている未来に着目してみよう」と言います。ひとつずつ、そういう兆しのようなものをピックアップしていって、それを組み合わせて考えていく中で、「こういう変化が起きるかもしれない」という発想が出てくるのだと思います。その際のアンテナのようなものは、過去に対する思考訓練で高められるということですね。興味深いと思います。

古森 中途半端に過去を知っている人は、過去を再現することに頼る傾向があります。未来志向で過去を解釈している人は、例えば、「これは過去にない流れだ」ということさえも目利きできるわけです。よく、「これまでの経験がまったく通用しない世界が来た」なんていいますが、それは前者の話ですね。本当に生き延びている優秀な経営者は、えてして過去を深く勉強しているものです。

野々山 なるほどね。それから、「課題は誰かが与えてくれる」と思っている人も、昔に比べると増えているように思いますね。日本の世相かもしれませんが。どんな課題を形成するのか、そのためにどんな環境の変化に着目して何を発想しないといけないのか・・・。このあたりの、一連のあるべき考え方や行動を整理していくのが、今後のスキル開発面での大きな取り組みテーマだと思っています。

非上場ゆえに・・・

古森世の中の動きが速いという話が出ましたが、これは資本市場から企業への要求水準にも如実に反映されていますね。それで思うのですが、御社は非上場企業でいらっしゃいますね。そういう意味では、資本市場の動きにあまり左右されないで経営の舵取りが出来るという強みもあるかと思います。「非上場ゆえに」というテーマを置いたときに、どのようなことが想起されますか。

野々山 そうですね、当社は同族・非公開という会社ですので、たしかに世間一般の公開企業とはだいぶ違う面があると思います。例えば、経営のスタイルですね。私が感じるのは、オーナー自身が「一番大切なことは会社を継続すること」という意識を非常に明確に持っていることです。

古森 まさに、オーナーとしての一人称の感覚もそこにあるわけですね。

野々山 私どもだと、「今期の業績がどうなるか」などがまず関心事になりますし、経営トップも日々の売上や利益には当然関心がありますよ。しかし、物事の判断や発想は長期視点ですね。だから、投資もやるべき時には思い切ったことをやりますし、公開企業だと躊躇するような長い回収期間のものでも、「将来に向けて必要だ」と思えば果敢に前に進みます。決断自体も早いと思いますね。このあたりは、同族・非公開の強みであり特徴だと思っています。

古森 なるほど。その文脈で、「人・組織」という点では何かありますか。

野々山 そこは逆説的な一面があります。同族・非公開だと一般的にはトップに権限が集中するのですが、弊社の場合、人事関連は客観性をものすごく重視しています。トップ自身が、自分ひとりで人事を決めないようにしているのです。必ず人事審査会を開いて、役員とカンパニーの責任者が集まって、重要な人事や処遇、賞罰を決める仕組みにこだわっています。

古森 非公開であるがゆえに、内部で客観性を維持しようということですね。

野々山 もちろん、意思決定の責任は、最終的には経営トップ本人が負うわけです。しかし、意思決定のプロセスはあえて合議制にして、広く組織内の意見を聞いて結論を出すというやり方です。これは、弊社の特色の一つだと思います。

古森 素晴らしいバランス感覚ですね

野々山 同族企業の強みと弱みは表裏一体ですので、トップが暴走すれば危険な会社になりえます。そうならない仕組みを持ってこそ、強みが生きるわけです。

古森 刺激的な話です。上場している企業の多くが、委員会設置会社、あるいはそういう形態でなくても社外取締役を活用するなどして、客観性や透明性の担保に腐心しています。ところが、仕組み上の客観性や透明性は確立されても、それに実質性が伴わない場合もあるのです。御社では、まったく逆のことが起きているなと思います。非上場で資本市場からガバナンス圧力がなくても、経営に必要な客観性や透明性はトップ自らが求めていくという話・・・。

野々山 結局、経営としてブレないことが大事だと思います。意思決定者も人間ですから、その都度変化する場合があります。それでも、複数の意見を踏まえて判断するようにしていれば、ブレを最小限にすることができます。外部者がいれば客観的かというと、それだけでは実質的な意味が出てこない場合もあります。要するに、形式よりも「どういう意識で経営するか」だと思います。