C-Suite Talk Live 第33回 味の素株式会社 取締役 常務執行役員 岩本 保さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第33回 味の素株式会社 取締役 常務執行役員 岩本 保さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第33回(2/4)

第33回 味の素株式会社 取締役 常務執行役員 岩本 保さん
Calendar2010/10/12

新興市場開拓と日本の人材

古森 ところで、現地人材の活用を進めると言っても、それがイコール「日本人のグローバル人材不要論」にはなりませんよね。日本人の人材にもいっそう活躍して欲しいものです。こちらのほうは、いかがお考えですか。

岩本 その通りです。日本も含め、世界各国の人材が活躍していくことが重要です。そういう意味では、もう少し日本の人材にも元気を出して欲しいと思う面もありますね。新興国に飛び込んでいって、ゼロから信頼関係を築いていけるような日本人をもっと増やしていかねばなりません。

古森 世相としても、日本からの海外留学生は減っていると言われていますね。海外勤務希望者も減ってきているとか。最近の新入職員の方々を見ておられて、何か感じられることはありますか。

岩本 弊社の場合、新入職員の海外志向自体は強いのです。一方、現実的な難しさはその先にありまして、「海外」の中身なのですね。多くの場合、新入職員の皆さんが考えている「海外」は欧米で、アジアでもタイあたりまでです。ところが、弊社の戦略はもっと先の方へと向いているわけですね。そこでやっていける人をいかに確保していくか。今後の育成、そして採用においても方向付けが必要です。

古森思い描く「海外」の前提から作っていく必要があるのですね。

岩本 新興国では言葉の問題に加えて、普通に日本人が現地に出向くだけでは「かげない匂い」のようなものがあります。売買のシステムや生活文化への理解も商売には重要な要素です。となると、日本人が全部やるということは考えにくいので、どうしても土地勘のある現地の人々や企業とのコラボレーションが必要になります。そういう関係を作っていくことが、今後の新興国における日本人材の重要なミッションの一つです。これからは、若い人を早めに現地に出して、皮膚感覚を養ってもらえるようにしていきたいですね。

古森 若いうちに「お勉強」ではなくて「仕事」として海外に滞在することが重要ですね。サムスンの事例も頻繁に語られますが、日本でもグローバル人材を意図的に育てようとしているところは、入社して数年で海外に「本番」で行かせているようです。「当面の間、凌げばいいや」という逃げを考える余地のない、本番の中でこそ人の成長が加速されるのでしょう。

岩本 やっぱり、そういうことが必要だと思いますね。弊社も1960年代の初めにタイに工場を作ったとき、日本でタイ要員を採用しました。大学を卒業した人で、タイに行くことを前提に採用しました。その人たちをタイに送って、ゼロから市場開拓したのです。50年前のタイなので、もう本当に何もないところからですよ。彼らが黙々とマーケットを開拓して、今につながる礎ができたのです。もう1回、新興国でそういうことをやらないといけないと思います。

古森 最近もう一つ思いますのは、「日本人じゃないとだめなの?」というシンプルな問いの答えは何かということです。日本人の人材も海外現地の人材も活躍する会社を作っていく上で、日本人にしか担えない仕事がいったいどれくらいあるのかと。本質的に日本人でなくても務まる仕事を日本人が成り行きで独占していたりすると、グローバル組織のエンゲージメントは高まりませんね。

岩本 それはその通りでしょう。「日本人が何でもやらなければならない」という考え方は、今後は日本側から見ても、現地から見ても、通用しないと思います。

古森 例えば、「前人未到のところで仕事を切り開いて、さすがだ!」といったような姿は、日本の人材へのひとつの象徴的なリスペクトになると思います。先ほどのタイのケースも、きっとそうだったことでしょう。過去の日本人が打ち立てた栄光へのリスペクトだけでなく、「今そこにいる日本人」が取り組んでいる現在進行形の仕事へのリスペクトも得る必要があると思います。

岩本 今後、アフリカ・中東方面で活躍する日本人を採用しようとしています。アラビア語が堪能で、アフリカ・中東地域に滞在経験があって、地場の人脈を持った人が必要です。日本でしばらく仕事をしてから、希望する人を順番に派遣する・・・というこれまでのスピード感では、間に合いません。日本のことを知ってから行くということの意義も重々承知のうえで、そういう即戦力になれる日本人人材も獲得しようとしているところです。

古森 グローバルの舞台で見て、「さすが!」と言われるような即戦力の人材を探しておられるのですね。「さすが!」と言われる要素として、もちろん日本での経験というのも意味があるかもしれませんが、この場合は、持っているネットワークや現地での自律自転力のようなものを優先しておられるのでしょう。

岩本 うちの娘は今、ベトナムで働いています。昨年学校を出て、海外の開発系の会社に入りました。2週間研修して、もういきなり赴任です。1年ちょっと経ちますが、それなりに頑張っているようです。人間、ある環境に放り込まれれば、その環境なりに育っていくという面もあるのです。国内の闘いには国内なりの大事なものがあり、海外の闘いにはまた海外なりの要件があります。それを身に付けるのを後回しにしていると、負けてしまいます。海外では、M&Aやネットワークづくりも含めて、これまでと全く違ったことをしなければならないのですから。

古森「これまでとは違う土俵で闘う」というのが、キーワードですね。M&Aという言葉が出ましたが、国内でさえ成功確率は低い中で、クロスボーダーのM&Aはいまだに未知数の大きい領域です。その分野に経験を持った人材自体が日本にはまだ少ないですし、実務的には海外と言っても国ごとに課題が違います。クロスボーダーM&AならクロスボーダーM&Aで、知見を蓄積していく専門集団を作っていくくらいでないと、対応できないと思います。

岩本 M&Aの難しさは、弊社も経験的に理解しています。日本の中でさえ、そう簡単には行かないわけです。それがクロスボーダーともなれば、土地勘はまだまだですね。私自身、日本の中で育ってきて、その後ブラジルやタイなどの拠点経営をやりましたが、歴史のある「海外の味の素の子会社」の経営をするのと、買収した海外の会社の経営をいきなり任せられるのとでは性質が違うと感じています。

古森 おっしゃる通りで、オーガニックに形成してきた組織と買収した組織とでは、経営の勘所は違う部分がありますね。例えば、「買収先の組織を尊重して任せる」というスタイルで行くにしても、単に任せるだけだと、それはそれで壊れる場合があります。「せっかく買収したのに、何か付加価値を付けに来ないの?」という反応もあるのです。買収した以上、「当方が実現したいこと」を速やかに提示していかないと、クロスボーダーM&Aは上手く行かないですね。

岩本そういうことも含めての、日本人グローバル人材の育成ですよね。海外の人々からリスペクトを得て、相手をひきつけて、エンゲージメントを引き出していくことの出来る人材。言うべきことは明確に言える人材。そういう人々を、意図的に育成・獲得していく必要がありますね。