C-Suite Talk Live 第33回 味の素株式会社 取締役 常務執行役員 岩本 保さん 4/4 | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第33回 味の素株式会社 取締役 常務執行役員 岩本 保さん 4/4

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第33回(4/4)

第33回 味の素株式会社 取締役 常務執行役員 岩本 保さん
Calendar2010/10/12

「任せる経営」の最初の歯車を回すには

古森グローバル経営の問題を突き詰めていくと、現地人材の中に「経営を任せられる人がいるか」というのがクリティカルな要素の一つになっていると思います。これは、経営トップが日本人で、組織のその他の部分で「全体の○%を現地化」といった話とは、また違った難しさがありますね。
岩本 今後の海外展開を前提にすれば、駐在員を介して日本の本社に何でも判断をあおぐようなことをしていたら、競争力は維持できません。現地組織、それも出来るだけ現地事情の分かった現地人材に権限を与えていくことが重要です。もちろん、一定の投資額以上は本社が判断するとか、そういったルールづくりは必要ですが。

古森 特に新興市場では、過去の常識にないこともやらないと勝てませんね。例えば、ある重要ポジションを担いうる人材に特別な待遇をしてでも競争力と時間を買うなど、日本国内の常識では躊躇するようなことにも賭けなければなりません。そういう判断をしていく現地経営トップの仕事を、現地人材に任せられるかどうか。

岩本 そういう役回りは、これまで日本からの駐在員が担ってきたケースがほとんどですね。ただ、今後は「日本人がすべてやる」というモデルから変わっていく必要があります。いずれ、現地経営層にも現地人材は生かされていくだろうと思います。

古森 私、今後の海外拠点経営を考える上では、ガバナンスの仕事とビジネス実務の仕事を峻別することが重要だと思います。例えば、現地法人ヘッドと管理系の部門長の2名を信頼のおける現地人材で固めて、日本人は取締役会サイドからガバナンスに徹するというモデルもありえます。

岩本 その現地人材「2名」が、本当に信頼のおける人物かどうか・・・。

古森 あえて挑戦的な考え方をしますと、「たったの2名」ということでもあります。一国の人材市場全体の中で、たったの2名、忠誠心を持ってくれて、少なくともいい加減なことはしない経営人材を作ることが全く不可能か。そんなことはないはずです。現地化というと、組織全体で○%が現地人材・・・といった大きな発想が先に立つ場合も多いですが、「まず2名」に狙いを定めれば、打つ手も変わってきます。

岩本 たしかに、「まず2名」であれば、今後当面の進出先を考えても、全部で10名とか、せいぜい20名とかのロットですね。それくらいの規模であれば、かなり個別性の高いアプローチが可能でしょう。今各国の現地法人にいる現地人材の中でも、何人かそういう人材に育っていけそうな顔ぶれは思い浮かびます。既にロイヤリティのある人材が、それなりにいますから。

古森 その「2名」を現地人材で担保して、ガバナンスは取締役会、もしくはそれに類する監督機能のほうから入れるのです。これは、本社の偉い人が現地の取締役をいくつも兼務して、年に何回か取締役会に形式的に出席するといったレベルとは全く違います。現地にある程度滞在し、あえて実務から距離をおいて、経営としての健全性を厳しく問うていく「経営監督のプロ」を想定した話です。

岩本 なるほど、グローバル経営をしていく上で、育てていかなければならない人材タイプの一つかもしれませんね。

古森 日本企業のグローバル経営を冷静に考えた場合、そういう経営監督的な役回りが出来る日本人人材を増やしていくことには理があると思っています。自分で手を動かすことに美徳を感じるのが日本人の平均的な姿かもしれませんが、ここはあえて、嫌われようと歯がゆかろうと、自分は実務をやらない。言い換えれば、「監督という実務」に徹するわけです。

岩本 弊社で今進めている、「新興国で採用した人を日本に一定期間配置して、また現地に戻す」という施策は、大きな流れとしてはグローバル・ガバナンスの一環でもあると思っています。これがもう少し継続されて蓄積が出来ていくと、ご指摘のように現地で信頼できる最初の「2名」を育てていけるだろうと思います。そこに日本人の経営監督スキルの高い人材をガバナーとして配置するというモデルも、可能になっていくでしょう。

古森 そういう、「やり方」そのものが競争力になりますね。アジア、中東、アフリカと前線を拡大して行く中で、現地法人のラインマネジメントは基本的に現地人のトップと管理部門長に任せ、日本人は経営監督や現地ネットワークを生かしきることに注力する。そういうモデルなら、現地法人数がかなり増えたとしても再現性が高いと思います。

岩本 どこの国の人でも、やはり人間です。日本の本社との接点の中で、いかに会社へのロイヤリティを高めてもらえるかですね。今日言って明日何かが大きく変わるような施策ではありませんが、中長期的に取り組み続けていく必要があると思います。

古森 現地人材を日本の本社に精神的にもつないでいくうえで、プロトタイプとなる取り組みが御社には既に存在しますね。今後の展開もしやすいのではないでしょうか。

いずれにしましても、取り組むべきフロンティアがあるというのは素晴らしいことですね。会社としての挑戦を人事の言葉に置き換えて世の中に伝えていけば、きっと、社内外でそういうことに共鳴する人材が集まっていくだろうと思います。そろそろ時間になりました。今日は、本当に有難うございました。

~ 対談後記 ~
私自身、マーサーというアメリカ籍の企業で、「日本法人の現地人材」として信用してもらっている立場にあり、思うことが多々あります。
人間って、中途半端に任せられると逃げ道を探したりもしますが、大きく信用されてしまうと案外逃げられないものです。ただ、人間ですから間違いもあれば、魔がさすこともあるでしょう。そういう時のために、マーサーの日本法人にもアジア太平洋リージョンから2名の役員が登録されていますし、実際、透明性を高めるために厳しいレポーティングが課せられています。そういう、「任せる・信じる」ということと、「健全に、遠慮なく疑う」ということの同居にこそ、グローバル経営の鍵があるのではないかと思う今日この頃です。

岩本さん、有難うございました。