C-Suite Talk Live 第34回 大阪製鐵株式会社 代表取締役社長 永広 和夫さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第34回 大阪製鐵株式会社 代表取締役社長 永広 和夫さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第34回(2/4)

第34回 大阪製鐵株式会社 代表取締役社長 永広 和夫さん
Calendar2010/10/25

STO運動

永広 操業を止めたり動かしたり容易にできるということは、電炉と高炉の本質的な違いの一つです。ならば、そこに徹底的に着目してコストを落とす取り組みをしようということで、着任して3ヶ月目に「STO運動」というものを始めました。

古森 「STO運動」・・・。何の略でしょうか。

永広ーパーマーケットの好み焼き屋」の頭文字ですよ。

古森 ほ、本当にそうなのですか?

永広 そうですよ。最初は、STRで、ーメン屋だったのですが、「大阪ではラーメン屋ではなくてお好み焼きの方が社長の主旨は伝わりますよ」との部下の助言でOにしました。(笑)。主旨は、お好み焼き屋さんに、お客さんが来たら、まず注文をとって、それから隣のスーパーマーケットに行って、そのお客の注文に必要なだけのキャベツを4分の1とか買ってきて、お好み焼きを作ってお出しする。そういう仕事をしようということです。

古森 ジャストインタイムですね。

永広 ええ。新日鐵時代では長年日本の大手自動車メーカーと仕事をさせて頂いたので、ジャストインタイム方式には鍛えられています。電炉である我々はもっとやりやすいはずだから社内外徹底して実行しようと。電源のオンオフだけではなくて、世界の種々の動向からお客様の状況を常に把握して、いつでも即応できて、かつ、お客に迷惑を掛けない範囲であらゆる在庫をミニマムに保つということを徹底してやりました。当初、堺工場で5~6万トン常時もっていた主原料のスクラップを、今は約10分の1しか持っていません。

古森 原料在庫が10分の1になったというのは、大変化ですね。

永広 ええ。そうなると、在庫を保管するヤードもいらなくなりますので、土地代含めて諸々の固定費を削減できたわけです。

古森 しかし、そういう新しい考え方には、これまでのやり方に馴染んできた方々が相当な違和感をお持ちになったことでしょうね。

永広 それはもう当然のことです。主原料とか副原料が不足して工場が止まっては大変と、購買の連中は常に買いたがります。また、営業の連中は他社に売り負けちゃいかんとか、操業度を上げなくちゃいかんと、売りたがるわけですね。それはそうでしょう、職責上、「なぜ他社に売りが負けているのか」「シェアがどうなった・・・」ということになりますから。ところが、今や実需はそんなにないわけです。

古森 ある種、購買も営業もあたり前の職責を果たそうとして反応するわけですね。その中で変化を求めて行くのは、難しい取り組みですね。

永広 私がこの3年間でやってきたのは、いうなれば従来の常識とは逆のことです。営業には「売るな」、購買には「買うな」、と言ってきました。毎日、朝市※で関係者を集めて、スクラップをどう調達するのか決めて、営業には市況を確認して自ら首を絞めないよう声をかけました。これを徹底してやりました。在庫販売をされているお客様にも「とにかく余分な在庫を持たないで下さい。ご迷惑は掛けませんから。」とお願いしてきました。※朝市:鉄鋼業界で朝一番のミーティングの意

古森 会社の枠を超えて、そこまでされましたか。

永広 だからリーマンショックの際に、手持ちのキャッシュフローが改善されたような結果になりました。先ほど申し上げたような電炉業界の下方弾力性の強さに加えて、「STO運動」の効果が出たと思っています。詳細は差し控えますが、スクラップの値動きに対して、先読みもしながら、オペレーション全体を今までよりは機敏に動かすことが出来たと思っています。

古森 ジャストインタイムだからそういうことが可能なのですね。電炉業界の特性もさることながら、それを実際に生かすようなオペレーションへと大きく舵を切っていたというところが、ひと味違うところですね。

永広 そこに差が出たということだと思います。実際、リーマンショックの影響で売上げは半分くらいになったのですが、ROSは二桁のパーセントを維持していました。何かといえば、在庫差損を出さないようにしたことで、黒字になっているだけのことです。公共事業も減り、国内での鉄の需要が落ちていく中では、こうした腹をくくった変革がこれからも非常に重要だと思っています。

古森 厳しい環境の中で生きていける体質への転換が進んでいたというわけですね。

永広 そこまで大袈裟ではありません。よく建築業界では、需要が縮小して建築氷河期などと言われます。「いつ回復するだろうか」と問われたときには、「氷河期なので、数億年かかるかもしれませんね」なんて言っていますが(笑)。

古森 それくらいの覚悟で、変革に腹をくくりなさいというメッセージですね。嵐の通り過ぎるのを待つ姿勢ではだめで、「これは今後長く続く新しい環境だ」と見なければだめだということですね。

永広 そういうことです。M&Aを進めるに当って、個々の会社がBEPを下げる努力をしていないと、仮にやったところで、今のこの為替と中国や韓国の実体経済の成長と基礎体力にはとてもかなわないでしょう。だから、日本の電炉メーカーとしては、どれだけ徹底して固定費を抑えて下方弾力性の強い体質にしておくかが今後のボーダーレス化の中でM&Aを進めて生き残れるかの勝敗の分れ目になるでしょう。

古森 さらっとおっしゃいますが、パラダイムシフトの宣言ですよね。

永広 「売るな」「買うな」というのは、ある意味では撤退命令ですからね。現場のほうとしては、勝手に退却して逃げたような形になることは出来ないわけですから、これはトップが指示しないと動けないタイプの打ち手です。

古森トップが腹をくくって「信じろ、これでいいのだ」と。

永広 「しくじったら俺が責任をとるから」ということです。実際シェアダウンもしましたが、今のところ赤字にはなっていません。

古森 量のほうを見ていると、「ほらみたことか」となりそうですが・・・。

永広 それが、そうはなっていません。結局、電炉の業界の中では売上高営業利益率は低くありませんし、絶対経常利益も悪い方ではありませんでした。今後はもっと厳しくなると思いますが。この国の内需の実態を考えると、いわゆるリストラクチリングの基本である売上げを上げて収益を上げるという増収増益を目指すのは適切な戦略ではない環境となっているのです。

古森 単に覚悟だけではなく、「これで良いはずだ」という確信がないと出来ませんね。

永広 それは、キャッシュフローをきちんと分析してみれば分かることです。原材料のスクラップ代金の支払いと、商品代金の回収には大きな時間差があります。そんな中で原材料の価格変動が来るわけですから、どのような経営にすべきか自明でしょう。STO運動を開始したときに「在庫を減らしても金利負担くらいの効果しかないのでは」との反論があったりと、キャッシュフロー経営を理解しない幹部もおりました。

古森 腹をくくる背景に、冷徹な分析と確信があったわけですね。