C-Suite Talk Live 第34回 大阪製鐵株式会社 代表取締役社長 永広 和夫さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第34回 大阪製鐵株式会社 代表取締役社長 永広 和夫さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第34回(3/4)

第34回 大阪製鐵株式会社 代表取締役社長 永広 和夫さん
Calendar2010/10/25

根本をつきつめて考える力

古森 永広さんの、その分析力といいますか、数字だけではなく世の中のトレンドの行方を読み解くような力は、どこから来ているのでしょうか。

永広私は技術畑ですが新日鐵時代に経営に携わる機会があって、財務を含めた全体の経営を知る必要があったのが良かったのだと思います。製鉄所長時代は、ある意味「コストを下げて品質の良いものを安全・環境・防災を徹底しながら製造していればよかった」のですが、経営の中枢で色々なことを勉強してきたことが、今、大阪製鐵で役立っているのかもしれません。

古森その経験が、今ここで生きているのですね。

永広経営ですから、「自分たちがどのようにしたいか」だけでなく、「受け入れざるを得ない現実」もあります。そういうものを直視して、原点に返ってきちんと考えることが重要ですね。こう言ってしまうと簡単に聞こえるかもしれませんが。

古森「現実」から思考を深めていき、たとえ抵抗が予想されるようなことであっても、やるべきことを決める。奇策やウルトラCはないということでしょう。

永広我々の置かれた環境を正確に認識して対応策を「考える」という点では、毎年の年初に私のレポートを社内に公表することにしています。

古森 レポートですか。どのようなことをなさるのでしょうか。

永広だいたい年末年始の1週間は禁酒して、読みたくても読めなかった本とか雑誌とか記事を一挙に読破して、じっくりと思考を巡らせるようにしています。そして、思うところを私的レポートにまとめるのです。それを年頭所感のかわりに社内で解説するようにしています。

古森 恐れ入りました。私はここぞとばかりに飲んでいる時期です・・・。

永広 例えば2009年の年始はリーマンショックの後でしたから、一体何が起きたのかと。レバレッジの話から始まって、サブプライム問題とは、ドル還流システムとは、Big3はなぜ衰退したのか、オバマ大統領はアメリカンドリームを食い止められるかとか。結局我々は市場経済主義に飲み込まれないよう自立しなければいけない、顧客とともに共生していかなければならない・・・などという話をしました。

古森 物事の背景にある大きな流れなども解きほぐしたうえで、メッセージを出していかれるのですね。

永広 今年の年頭所感では、「我々は一体どこに向かっていくのか」という話をしました。基地移転の問題は移転の問題ではなく国家安全保障の問題であるとか、地球温暖化防止策は必須だが、電炉で言えば25%CO2削減は今のこの40%操業に止めよということだとか、排出権取引はいずれ国民に負担を強いることになるとか、国政は挙国政治をお願いしたいとか、国の方向性に関する見解なども含めて私の見解を述べさせて頂きました。結論はやはり自立と共生を貫くことが我社の取るべき姿勢に変わりはないと。

古森 大阪製鐵という会社のことを大きく超えて、世界のこと、日本のことなど、ビジネスの背景にあるものをしっかり捉えようという呼びかけですね。

永広 実際、残念ながら予測した通り必ずしも良い方向に動いているとは言えないと思います。来年はもっと心配ですね。

古森 後から解説するばかりではなくて、「過去を踏まえたら今後こうなる」という部分に大きなパワーがありますよね。社長がご自身の見解、展望を見せて行くことで、「考えて先を読む」ということがカルチャーになっていくのではないでしょうか。

永広 そうありたいと思います。例えば、最近は原料調達のメンバーが欧州や米国の経済について自然に語るようになってきました。投機筋やスクラップ業界の意図も読みながら、そうしたプレイヤー以上に我々のほうが世の中を読んでいないとだめですから。販売部門の者も、技術担当の者も皆同じです。世界のどこで何が起きても、日本の一電炉会社に直接影響が現れますので。

古森 難しい取り組みかもしれませんが、知的な面白さもありそうですね。

永広 その通りです。このように需要が縮小していく業界でも、社員には「Joy of Workとはこのことだ」と言っています。「仕事は楽しくやる」ということが大事です。もっとも、考えてもらうために色々と変化球を投げるので、「楽しんでいるのは社長だけだ」という声もありますが(笑)。

古森先ほど、新日鐵での経営参画経験が数字を見る力につながったとおっしゃいましたが、もっと根底にある「考え抜く」という志向性はいつ頃からだと思われますか。

永広う~ん、それはですね・・・。遡れば、小学校、中学校時代にまで行きますかね。私は岡山大学の教育学部付属小学校・中学校に通っていたのですが、本当に優秀な先生方がたくさんおられました。学業の詰め込みではなくて、物事の本質、本物とは何か、そういう教育を徹底して受けたような気がします。当時の同校からは各界に人材が輩出されていますよ。いわゆる「勉強が出来る」というよりも、皆、「思考回路が鍛えられた」という感じでした。

古森 「考えることは良いことだ」という、ある種の価値観のようなものですかね。それが、小学校から中学校時代の「永広少年」にインプットされたわけですね。昨今では、学生層の考える力が弱ったなどと言われています。深く考えることの意義や楽しみなどを、やはり子供たちに教えていかなければなりませんね。

永広 私は新日鐵から派遣されて米国のノースウエスタン大学のマテリアルサイエンスで修士をとったのですが、その時に体験したものも、今にして思えば大きかったかもしれません。70年代半ばのことです。周囲がとにかく基礎の基礎をよく考える環境でした。自律的に考えるカルチャーがありましたね。米国の大学院はどこもそうだと思いますが。

古森そのご経験も今に生きているのでしょうね。しかし、日本よりも資源にリッチな米国のような国が、結局「考える」という面でも先を行ってしまったら、日本はどうなるのでしょう・・・。自分の子育てに置き換えてみても、これは重要な課題だと常々思っております。

永広 そうですね。幼児教育から大学教育まで、日本の場合は画一的になっているように思いますね。しかも平均的には自立性や学力が落ちているということですから、いかがなものかと思います。高等学校への進学補助も必要でしょうが、もっと先を見据えて、教える側も含めて、幼児教育、初等教育から変えていく必要がありますね。

古森 時々思うのですが、あまり教科書的なものを演繹的に教え過ぎると、面白くないかもしれないなと。例えば、動いている機械に興味を持つことが先にあって、その動きを「数字で表せるよ」「数字で考えるとこんなことも分かるよ」といった教え方の回路も必要なんじゃないかと思います。人間、同じ考えるにしても、そのベースとなる興味の持ち方には個性がありますから。

永広 なるほどね。いずれにしても、物事の本質をひとつひとつ遡って探りに行く、「なぜなんだろうか」ということを原点まで突き詰めていくというのは、結局は新しいことに飛躍していくことにつながります。企業の組織でも、そういうことがカルチャーになってくれば、社長が「こうしろ、ああしろ」という指示をしなくても、自律的に動いていけるようになるはずです。