C-Suite Talk Live 第35回 農林水産省 大臣官房 政策課 企画官 木村 俊昭さん

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第35回 農林水産省 大臣官房 政策課 企画官 木村 俊昭さん
Calendar2010/11/08

動きと広がり~「エコノミック・ガーデニング」

古森こうした5つのポイントが地域活性化の現場で実践されるように、あの手この手で応援しておられるのが木村さんなのですね。木村さんが全部やるのではなくて、色々な人に働きかけて「種火をつけて歩く」活動だと思いますが・・・。

木村 そうですね。「エコノミック・ガーデニング」という考え方が、私のやっていることの本質に近い考え方と思っています。

古森その考え方、先日ある知人から教えてもらいました。まだ聞きかじりで不勉強なのですが、木村さんの活動との関係では、どういうことになるのでしょうか。

木村 「エコノミック・ガーデニング」と言いますのは、アメリカでは定着しつつある概念です。端的には、地域の経営資源を上手に生かして、中小企業や新規企業などの層を有機的に育てていく活動です。育っていく企業群を植生に見立てて、庭(ガーデン)となるのが地域社会ですね。そこでガーデナーの役割を果たすのが行政や各種経済団体です。こうした動きが起きていくことに協力するのが私たちの仕事の本質だといえるでしょう。

古森なるほど、まさに「エコノミック・ガーデニング」。言いえて妙ですね。生態系を作っていくようなイメージもあります。企業の成長を、動物的なイメージではなく植物の感覚でとらえているところにも、個人的に共感が持てます。それを現場で実際に進めていく上で、木村さんが日ごろ意識しておられることは何でしょうか。

木村 それは、ガーデンの中に「動きを作る」ということと、「広がりを持たせる」「継続・進化」ということです。

古森「動き」と「広がり」「継続・進化」ですか。

木村 「動き」というのは、「実際に地域活性化の取り組みが動いているぞ」ということを、世の中に伝えていくことです。例えば、そこにはメディアの皆さんの協力が重要といえます。単に取材を受けるというレベルではなくて、行動主体から積極的に世の中に情報発信していく必要があります。

古森「今こんなことが起きているよ」と。

木村 例えば、「今こういう取り組みをこういう人がリードしていて、そこに子供たちがこう関わっていて・・・」といった感じで、良い話をどんどんメディアの皆さんに協力いただき発信していくのです。そういう情報が世に伝わると、出身地から離れて暮らしている人々にも熱が伝わります。「動きが出てきたな」「面白そうだな」ということで、「戻って何かやりたいな」と思う人も出てくるでしょう。

古森先ほど出てきた、「認知」のひとつにもなりますね。例えば、地元の新聞やテレビに登場すれば、活動をリードする人々にも弾みがつくことでしょう。もう一つの、「広がり」というのはどのような意味でしょうか。

木村 「広がり」というのは、地域内の出来るだけ多くの人や企業を輪に入れて進めていくということです。一部の地域の一部の方々のためで広がらないのでは、関わる方も少なく残念なことになります。そこで「継続・進化」が重要となります。

古森 「ガーデン」の中に生えている植物、あるいはこれから芽吹く種なども含めて、全体を視野に入れた活動・・・ということですね。

木村例えば、小田原市の「小田原どん」の事例ですね。いわゆる「どんぶりもの」の木地というのは、通常は海外から輸入したものを使用しています。ところが小田原の場合は、もともと小田原漆器という匠の技が息づいている地域であり、木地も塗りも小田原で行っています。そのどんぶりに海産物などとれたての地元食材を使用した「小田原どん」が考え出されました。

古森地元のアセットが詰まった料理ですね・・・。

木村 その「小田原どん」を提供する店を10店舗から20店舗に増やしていくなど、徐々に拡大する動きがありました。重要な動きですが、それだけではいまひとつ広がりが高まらないのです。そこで、商工会議所や青年会議所などの皆さんで「小田原手形」を考え出したわけです。

古森手形?

木村 この「小田原手形」を持っていると、今年の12月31日まで小鉢1杯サービスとか、ビール1杯サービスといった特典が何回も得られる仕組みです。参加店舗は最初数店舗から始まったのですが、本日届いたメールによれば120店舗まで伸びたという話です。伝統工芸品であるどんぶりなどをベースにして、地元の飲食店が自慢の料理やおもてなしを提供するというところからスタートし、手形の発行で他店が入れる仕組みができ、大きな動きになったのです。

古森クリエイティブな取り組みですね。

木村 本年10月1日から日本青年会議所の大会が小田原で開催予定であり、約1万2千人の若手経営者等がこの地にやって来るという「機会」があるわけです。その訪問者に小田原を知ってもらい、地域として「広がり」のある形で何か展開できないか・・・という発想です。メディアの皆さんにこの動きを報じていただくことで、当初考えていた「10店舗から20店舗へ」といったレベルを大きく超える運動へとつながったといえます。
編注:本対談は当イベント以前に行われました

古森 「広がり」というのは、そういうことなのですね。

木村 地域の物産展などでも、同じことが言えます。実際は、その地域にある企業のほんの一部しか出展していないような物産展が、見かけられます。人口20万人の地域でも、出展は10社とか15社とかの場合が多いです。しかも、顔ぶれも毎年ほとんど同じだったりします。そういうイベントをやって来場者数を稼いだとしても、果たしてそれが地元全体の視点でどれだけ意味があるのか・・・。地元の企業が広く参加する方向でデザイン設計しなければ、地域活性化にはつながらないといえます。

古森 まさに「ガーデニング」の視点で、地域全体を見ていなければなりませんね。単に「こういうことをやりました」ではなくて、地域としての広がりを意識した産業戦略が必要だということですね。

木村 そうですね。いうなれば「事業構想力」が重要です。地域活性化をどのように進めるか、地元の既存アセットをきちんと見つめて、事業構想していく力が求められています。

「地域経営」という感覚

古森 今日のお話を伺っていて、「地域経営」という言葉を想起しております。地域活性化の取り組みの中で、地元の人々が地域全体としての経営感覚を持つ必要がありますね。単に「一緒にやろう」ではなくて、「一緒に経営しよう」という感覚。

木村 青森県の「あおもり正直村」などは、まさに地元の企業が集まって経営感覚を発揮した好例だと思いますよ。

古森 「あおもり正直村」ですか。

木村 県産品を使って作るこんにゃく、豆腐、納豆、ジャムなどの加工食品業者が集まって、昨年5月に協同組合を設立しました。その共同ブランドが「あおもり正直村」で、売り上げを伸ばしています。県知事に青森県地域営農企業化推進大会に基調講演で呼ばれた際、皆さんと会い、今後の展開についてなど意見交換しました。

古森経営目線で、厳しく吟味したのですね。

木村 この場合、マーケティング上の鍵は、全国ブランドの普及品よりも①地元素材を使用した加工品を、②統一ブランドで安全安心ならば値段が高くても買う、青森県内の2割の消費者をターゲットする点にあります。県内消費者の分析を行なったわけです。

古森 そこまでされたのですね。

木村 はい。県民の大多数とはいきませんが、2割程度はターゲットになりうるということが見え、そのデータも後押しして、小売店が専用の棚を確保してくれるようになりました。県内で現在11店舗、年内に20店舗程度が確保される予定となってます。最終的には県内50店舗での売り場確保を目指し、参加企業の皆さんが努力しています。新聞等にも多く取り上げられるようになりました。

古森 考えて、動いて、広がりが出てきていますね。

木村 商売に大切な売場が確保されると、「良いものを作れば、売り場はあるんだ」「さらに頑張って商品に磨きをかける」という好循環が生まれていきます。

古森 その協同組合が、地元企業の寄せ集めではなく、「一体の企業だったら何をするか」という目線で動いてきたからこそ生まれ始めた好循環ですよね。

木村 地元の中小企業が組んで情報等を共有すれば、色々なことが出来ます。例えば、新聞を読んでいて気づくのですが、本来は出稿しても収支が合いそうにないような大きな広告を出している中小企業があります。事情を聞いてみると、要は150社程が手を組んで広告枠を確保していたりするわけです。

古森何かが本気でつながった時の力というのは、本当に大きいですね。

木村「うちはうちで設備投資します、広告を出します」というのが、これまでの考え方だとします。同業種の組合は沢山ありますが、年1~2回総会をやって、その後に飲み会をやって、終わるのが通例だとします。地域が元気になるために、ここで考えましょう。先ほどの青森の話は異業種の協同組合です。地域が一体となった経営をしっかりと意識して動いていけば、業種を超えたコラボレーションが成果を出していけるという一つの証左になったと考えます。