C-Suite Talk Live 第35回 農林水産省 大臣官房 政策課 企画官 木村 俊昭さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第35回 農林水産省 大臣官房 政策課 企画官 木村 俊昭さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第35回(4/4)

第35回 農林水産省 大臣官房 政策課 企画官 木村 俊昭さん
Calendar2010/11/08

地域としての戦略的人財育成を

古森 さて、色々と課題がある中で、今現在は木村さんが全国を文字通り「飛び回る」ことで成り立っているものがたくさんあるのだと思います。しかし、冒頭のお言葉にもありました通り、今後は各地域で活性化を担う人財の育成が本当に重要ですね。最後に、地域活性化の人財育成について考えをお聞かせ下さい。

木村人財育成に関しても、やはり地域全体での戦略性が鍵になると考えます。例えば、Iターン、Jターン、Uターンなどの仕組みを導入したとしましょう。域外に流出している人財を呼び戻したり、域外の人財に入ってきてもらったりするのは、たいへん意義のあることです。また、それを後押しする制度を持つというのも良いでしょう。でも、もしその地域に人を惹きつける就労先がなかったならば、いかに制度を作っても有名無実ではありませんか。

古森 おっしゃる通りです。

木村企業という単位で見ても、その地域に事業所を構えるからには、地元で質の高い人財が確保できることが大前提ですね。多くの学生が域外に出て行ってしまい、空洞化しているような地域では、企業を惹きつける力が弱くなります。良い地元人財が少ない、だから企業が増えない、だから域外から入ってこない、出た人が戻ってこない・・・という悪循環が起きている場合があります。

古森 どこかで悪循環を断ち切るような手を打つ必要がありますね。

木村地域でありましても、目標を定め実現しようと考えると色々なことができます。例えば、高校卒業で地元の企業やNPOなどに就職した場合、そこで実務を8年積めば、地域の大学の修士課程に入れるという仕組みはどうでしょうか。そういう仕組みは、行政、大学、企業などで協定を結べば実現可能なのです。既に山形大学などでは、実際に行なっています。

古森なるほど、こういう部分でもクリエイティブな取り組みが可能なのですね。

木村山形県の鶴岡では、小学校1年から2年は、校門を入ると図書館を通って教室に行くことにしています。小学校1年生、2年生の間は、校門から付き添いが付いて図書館経由で教室に行くようにガイドするのです。

古森 教室に入るまでの間に、導線があるのですね。

木村これを続けていると、3年生になって付き添いがなくなっても、門を入った後に図書館を通らないと落ち着かないのですね。だから、3年生になっても必ず図書館に寄ってから教室に行くのだそうです。それでどうなるかというと、国語力が強くなって、全体の学力がアップしているそうです。

古森 すごい仕掛けですね。

木村 小学校に入学する前に図書館で読み聞かせをしている町があります。そんなところから、小学校でも違いが出てくるわけです。そこを私たちは考えないといけないですね。人財育成が大事だと言うけれど、実際にどこから始めるのか。この図書館の話は、それほどお金もかからないわけです。予算もないということであれば、「子供たちのために図書室を充実させたいので、市民の皆さん、町民の皆さんの本を提供してくれませんか」と言えば、きっとすぐに集まってくるでしょう。

古森 やはり、まずは事業構想力と行動力ですね・・・。

木村 他にも、保護者の皆さんなどで古本市を開催して売るということも、考えられるでしょう。その収益金で新しい書籍を購入すれば良いのです。「予算がないから」ではなくて、「どうしたらできるか」を考えるべきなのです。「できない」を「できる!」に変えるですね。

古森「出来ない理由を探さない」ということですね。

木村 沖縄の北方にある伊江島ってご存知ですか。小学校と中学校しかない島です。図書館はないですし、書店も島内にありません。中学校の修学旅行の際には、「書店を1時間見学する時間がある」のだそうです。最近その伊江島に「動き」がありました。

古森 わくわくしますね・・・。どんな「動き」ですか。

木村 先日、漁業協同組合とおきなわ生協と加工場が「イカ墨じゅーしぃ」という商品を開発したのです。イカ漁が盛んな地元の食材を使った、言うなれば沖縄風炊きこみご飯の素ですね。お米と一緒に炊くことで、手軽に海の香りや旨味を楽しむことができます。おにぎりにも使えます。

古森 面白い商品ですね。

木村 その商品のパッケージは、伊江島の中学校の生徒と沖縄県立芸術大学の学生が作ったのです。売り上げの2~5%が図書購入費に回る仕組みになっているのですよ。「小学校と中学校しかない」と嘆いていた島ですが、逆にその生徒が地域活性化に参画しているわけです。「地域の子供たちをしっかり育てよう」というテーマにより、島が一体化した取り組みが生まれたのです。

古森 これも立派な産学協働ですね。

木村 「イカ墨じゅーしぃ」は18ヶ月で17万パックも売れました。総額で5,100万円くらいですね。その他の商品も開発していて、今まで漁業組合が中心となって作ったものの合計売り上げは3億円を超えたそうです。島として育成すべき子供たち自身が活動に加わって、それが実際に地域活性化につながっている。これは大変参考になる事例と考えます。

古森 人財育成のために、地域が一体となって取り組む。その活動自体もまた、参画する子供たちにとって大いに成長機会になるのでしょうね。素晴らしいですね。こういう、地元で知恵を絞ればやれることを、誰が最初に構想するかですね。やはり、木村さんのような触媒になる人の存在が重要ですね。企業でも地域でも、そうした変革のリーダーが求められていますね。

木村 人財の育成って、そんなに奇をてらった話ではないと思うのです。誰かが全部教えて導くようなことをしなくても、何かに「気づき」を得ればその先は動いていくような面もあります。先日、宮崎県五ヶ瀬町の『夕陽の里づくり推進会議』の後藤代表に会ってきました。宮崎空港から3時間半で、熊本空港から1時間のところですね。高千穂町の隣です。

古森九州生まれですので、イメージ分かります。

木村 そこは、阿蘇山に沈む夕陽がとても美しいんです。地元の人はいつも皆見ているので、「きれいだな」とは思っているものの、当たり前の日常シーンなわけです。ところが、海外から農家研修で来た子供たちが「凄くきれいだ!」と感動するのですね。来てもらっても食べさせるものがないと言っていたら、混ぜご飯と味噌汁と漬物を食べて、子供たちはその食文化に感動するわけです。

古森 他の地域の人から見れば、素晴らしいものがいくつもあったわけですね。

木村 そうです。それに気付いた途端、わっと動きが出てきました。おばあちゃんたちが化粧し始めたという話も(笑)。それで、おじいちゃんたちが「どうしたんだあ」と驚いたとか。とても心あたたまる話です。

古森そういう外部視点でのワンクリックで、動き出すものもあるのですね。育成の対象は子供たちだけではない、という意味にも解釈しました。どんな世代でも地元のアセットに気づいたときに、何かが変わる。能動的になる。そういうことですね。

木村 そういう気付きを得る機会を作っていくのも大事です。地域活性化における行政や教育、地元メディアなどの役割の一つも、そうした「気づき」のプロデュース機能にあると考えています。それに加えて、先ほどお話した「認知」だと思いますね。地元で頑張っている人が評価されているのを見て育てば、その方向に向いて育っていこうとする子供たちが必ず出てきます。それも、人財育成の大切なことですね。

古森 地域活性化でも企業経営でも、そういう「人間」の根本メカニズムは変わりませんよね。何かの価値に気づいて、動いて、認知されて、さらにモチベーションが高まって動いていく。こういう好循環を、もっともっと各地域の単位で起こせたら素晴らしいですね。
木村さんに触れて、木村さんの熱が伝わり、地域活性化を担っていく人財がたくさん生まれていくことを祈念したいと思います。
本日は、有難うございました。この対談も、世の中に熱を伝える一助になればと思います。

~ 対談後記 ~
激務の合間を縫って奇跡的に頂けた1時間。通常は90分のお時間を頂戴しているこの対談、よりにもよってエネルギーの塊のような木村さんのお話を、1時間で凝縮するのは難業でした・・・。数多くの情熱的な経営者の方々にお会いする幸運に恵まれた小職ですが、木村さんの発するエネルギーはまた独特だと感じました。
公務員、中央省庁という場所が醸し出すステレオタイプの印象を、真逆に裏切るかのような木村さんのエネルギー。無私の状態で日本中の地域活性化の地域のために奔走する木村さんの姿は、もしかしたら、「公務員」という文字が本来持っている意味なのかもしれませんね。

木村さん、有難うございました。