C-Suite Talk Live 第37回 国際基督教大学 教養学部 教授 八代 尚宏さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第37回(3/4)

第37回 国際基督教大学 教養学部 教授 八代 尚宏さん
Calendar2010/12/14

多様性を前提にした社会システムを

古森 今の話を伺っていて、多様性を前提にした社会システムへと転換していくことの重要性に改めて気づかされました。家族のあり方、個人のあり方。これらが数十年前の日本に比べて圧倒的に、かつ好むと好まざるとに関わらず多様化している中で、その現実に目を向けた社会システムが必要ですね。

八代 そういうことです。少し前にホワイトカラー・エグゼンプションの議論がありましたが、これも「多様化した現実への対応」という文脈にありました。現行の労働関係法規が想定していた世界とは、随分違う労働の実態が今現実にあるわけです。環境はめまぐるしく変わっており、色々な働き方、考え方が必要になります。古い枠組みを放置したままでは、今の世の中の労働実態は違法だらけになってしまいます。

古森 ホワイトカラーという区分け自体、その中身は多様化していると思います。また、「残業」という考え方自体に違和感がある仕事もありますね。ビジネスの現場はどんどん変化を求められています。

八代 あるいは、定年制の問題だって、多様性の文脈に入る話ですよ。ある年齢を超えたからといって、皆が一律に退職するという仕組みに正当な論拠は見出しにくいですね。仕事を遂行する能力という観点から見るのであれば、個人差はまさに多様です。ちなみに、アメリカだったら年齢を理由に就業機会を論じること自体が年齢差別として違法です。欧州も、そういう考え方へと向かっています。

古森 当初は年齢で就業機会を制限するというネガティブな考えよりも、その当時なりの社会の価値観や仕組みの反映だったのでしょうね・・・。

八代 そうです。つまるところ定年制というのは、終身雇用とセットになって存在してきた考え方なのです。雇用を厳格に保障するかわりに、ある時点で強制的に組織から出て行くという社会的循環が成り立っていたのですね。経済が高成長モードにあれば、それは可能です。しかし、平均寿命が伸び、低成長経済の視点で考えた場合、終身雇用のロジックは成り立ちにくく、対になってきた定年制のほうにも疑問符がつきます。

古森 定年制の話をすると、最近議論が活発になっている新卒の問題も性質が似ているように思いますね。企業への入り口、出口、その間にある期間。それぞれに、多様化してしまった現実への今日的対応が必要になっていますね。

八代 端的にいえば、雇用に関わるシステムの設計視点を、「人」にまつわる属性ではなく「仕事」にシフトすべきです。その意味では、同一労働同一賃金の原則に近づけて行くべきと考えます。単に個々の企業内の人事制度という視点ではなく、社会システムの全体視点でよく考える必要があります。

古森 そうつながっているわけですね。

八代 これだけ人々の事情やニーズが多様化している時代に、人の属性を機軸にしてシステムを動かすのは非現実的です。正社員、非正社員などというのも属性の一種ですね。そういうもので今の環境に対応すると大きな無理が出ます。「どのような仕事をするのか」という客観的な機軸で労働関連の仕組みを設計するほうが、生産性が高いと思います。また、結果的には多くの人々の納得感も得られるでしょう。

古森 企業人事の現場の設計視点では、「同一」というものの中身がまた一様ではないので、最終的には企業ごとにスタンスを取った人事戦略が必要になると思いますが・・・。

八代 それはその通りです。企業ごとの人事戦略の色があるというのは、それは必要な多様性の一種でしょう。私の立場で言っているのは、社会全体で見た場合の中立的なシステム設計のプリンシプルです。ただ、その際に企業の世界で起きることには重大な意味があります。

古森 組織が内包する多様性が高まっていく際には、その中を走るシステムに客観要素を高めたほうが良いというのは、M&Aやグローバル人事の現場でもよく遭遇する事象です。

八代 ああ、そうでしょうね。

古森 異質なものが一緒になって動いていくことを迫られたとき、属人的なものや感情的なものを機軸にするとうまくいきません。M&Aを重ねた企業やグローバル展開が進んだ企業では、好むと好まざるとに関わらず、客観性の高いものを組織・人事運営の機軸として形成している場合が多いですね。

八代 それが合理的反応なのだと思います。社会の仕組みも企業の仕組みも、今現在ここにある多様性をふまえた形に変えていく必要がありますね。

社会変革は「小宇宙アプローチ」で

古森 「何が問題か」という話をしていると、つい変化の糸口の見えない閉塞感に襲われることがあります。今の日本、多くの人々がそのように感じているはずです。

八代 私は、政府レベルでの改革活動にも色々と携わってきました。その私が言うのもなんですが、変化はなかなか思うようには起こせないですね。もちろん、私は経済学者として世の中に働きかけることをやめないつもりですが・・・。

古森 私の場合は企業の経営コンサルタントですので、困ったときは企業の視点から物事にヒントを得ようとするのですね。今のこの閉塞感、多くの人が良くないと知りつつ全体が変わりにくいという状態は、企業でもよく発生する課題です。そんなときに突破口となるのは、「小宇宙」を先につくることです。

八代 最初から全部を変えようとせずに、変化の糸口を探して、そこからチェンジマネジメントをしていくということですね。それは、私もそう思いますね。国の場合も、例えば法体系などは現実的には大企業の現場で起きていることを、後からタイムラグを伴って反映させていくような面があります。やはり、企業という単位で変化を見せていくのが良いのかもしれませんね。

古森 企業にも日本の縮図のような変わりにくさの課題があると言いましたが、それでも企業の経営は、国の経営に比べたら圧倒的に身軽です。オーナー経営者は特に動きが敏捷ですし、大企業のサラリーマン社長であっても、きちんと組織の性質を知りながら仕掛けていけば、変化は起こせるわけです。

八代 今日話したことの多くは、大企業の世界で起きている話ですね。中小企業の世界は、そもそも終身雇用なんて出来ない厳しさがあって、今も昔も実力主義なわけです。ただ、大企業の世界で起きていることが中小企業の世界にも影響してきます。例えば新卒採用なども、大企業の動きが中小企業の採用活動に否応なしに影響を与えますし、教育界の動きも親の子育ても、「大企業に新卒で入社」することを仮想目的にして動いている面があります。ですから、大企業の世界で象徴的な変化が起きてくれば、日本社会全体への変化のインパクトは相当なものになると思いますよ。

古森 企業としては、「現行労働関連法規の中で違法となるような取り組みはできない」という現実的な難しさもありますが、今の枠組みの中で可能な変化もたくさんあると思います。やはり、今の日本の社会で変化を起こしていくには、個々の企業における新しい動きを成功させるのが発火点ですね。私もそう思って、この仕事をしています。