C-Suite Talk Live 第37回 国際基督教大学 教養学部 教授 八代 尚宏さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第37回 国際基督教大学 教養学部 教授 八代 尚宏さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第37回(4/4)

第37回 国際基督教大学 教養学部 教授 八代 尚宏さん
Calendar2010/12/14

企業人事、今後の変わりどころは?

古森 企業ごとに小宇宙的な変化を広めていくうえで、人事という観点では何が現実的な変わりどころになると思われますか。

八代 いくつかあると思いますが、まずは仕事の中身や責任・権限をきちんと可視化することでしょうね。既にそういう取り組みをしてきた企業も数としてはたくさんありますから、目新しいことには聞こえないかもしれませんが・・・。でも、やはりこれが基本だと思います。

古森コンサルティングの立場から見ていると、かなりそこは広がってきたと思っています。ただ、日本に400万社の企業がある中で、果たしてどうなのかといえば、実態は未知数です。また、いわゆる大企業の中でも、可視化はしたものの事実上形骸化して、運用の実態が必ずしも追いついていない場合もあります。

八代 運営の実質性まで見れば、まだ本当に仕事や責任・権限の可視化が根付いた企業は少数派になるはずです。実態は、そんなにすっきりした形にはなっていません。私の立場からすると、成果主義に結びつく同一労働同一賃金の議論が進みにくいのも、そこに一因があると感じているわけです。まだまだ、だと思います。

古森環境変化が激しいですから、一度文章に書いたらそのままで良い・・・というわけにいかないのも、現実的な難しさの一つですね。いわゆるジョブ・ディスクリプションのようなものを作成する企業は珍しくなくなりましたが、本当に世の中の動きについて行こうと思ったら、現実の仕事の変化をかなり機敏に反映させていく必要があります。少なくとも、定期的に人事として見直しのサイクルを持つことが必須です。

八代あまり仕事を厳密に定義すると日本の組織の良さが失われる、という議論もよく出てきます。その意味するところは、私もよく理解しています。しかし、現在のビジネス環境や多様性増幅の現実を考えた場合、昔の日本の常識のままに仕事を曖昧にしておくのは、良くないと思います。

古森「仕事の範囲を厳密に線引きせずに皆でカバーしあう」というのは、いわゆる日本的組織の利点だと私も思います。一方、そういうことが仕事や責任・権限の明確化を行った組織では起こせないかというと、それは誤解ですね。欧米のグローバル企業の多くはそういう明確化した仕事の定義を整備していますが、良い会社ではやはり職責をこえた助け合いが起きますし、積極的な協働もあります。

八代その通りですね。ある程度職務が明確にされた上で、それをこえた貢献をした人をきちんと認知することです。そうすれば、決してポテンヒットを誰も拾わないような組織にはならないと思います。

古森日本人だけで成り立つ組織ならまだしも、今後は日本人以外の異文化も内包するような組織がどんどん増えていくわけです。それを考えたら、一定の可視化されたインフラが大きな意味を持つことと思います。

八代 人事部としてのもう一つの変わりどころは、私は「内部労働市場の市場化」だと思っています。

古森社内の人事異動を、労働市場として認識する・・・。

八代 そうです。そうした上で、人事部は、上から人事命令を出すのではなく、積極的に各組織のポジションごとの需給をマッチングしていく、社内の人材エージェント機能をもっと果たしていくべきでしょう。そういう意識で人事異動を行っている企業も当然あると思いますが、私がイメージしているのは、今の常識を超えたレベルの活発な動きです。

古森 「このポストにはこんなスペックの人材が欲しい」「私はこんな仕事をやってみたい」という需要と供給のマッチングのことですが、人事部が人材エージェント会社として独立採算でもやっていく意識を持つくらいの、大きく踏みこんだ動きをイメージしていらっしゃるのですね。少し前にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でそういう動きがありましたが、まだ多くの企業ではそこまでの踏み込み方はしていないと思います。

八代 これが実際にうまくいくためには、先ほどの仕事内容や責任・権限の可視化も同時に進行しなければなりません。それが疎かになっていると、ポスト名のイメージだけで多くの人が応募してきたり、逆に極端に不人気なポストが出たりします。

古森 たしかに。

八代私が以前勤務したOECDにも、空きポストの公募制度がありました。しかし、ポスト名だけ見れば応募が殺到しそうな課長クラスのポストに、2~3人しか手が上がらないという場面がありました。なぜかなと思っていたら、仕事内容や条件が非常に具体的に書かれていたので、給料も良いが負荷も相当に高いということが誰の目にも明らかだったのですね。ですから、本当にそのチャレンジを自ら受けたいと望む人しか応募して来ないようになっていたわけです。

古森 なるほど、しっかりとした仕事の可視化が公募運営の実効性も高めるという現場を目撃されたのですね。

八代 ともあれ、人事部が、個人の自主性を尊重し、人の異動・配置で付加価値を追求するように動いて欲しいものです。「うちの人事のエージェント機能が優れていたから事業に好影響が出た」「これが外部のサービスだったら、フィーを払うに値するな」などと言われるような状態を目指すべきだと思います。

古森 やり方は企業ごとに色々な工夫があるでしょうが、本当に事業に付加価値を生む異動・配置とは何か。それを追求する中で、見えてくるものや起きてくる変化があるだろうと思います。これからの人事は、事業家目線を持て、という示唆にも聞こえます。また、これに限らず「人事が変わろう」とする試みの中で、これからの経営環境に伍していける人材も結果として育っていくのだと思います。
そろそろ、時間になりました・・・。八代さん、今日は色々な角度から貴重なお話をお聞かせ頂き、本当に有難うございました。日本の社会全体の視点から、最後は個々の人事部の変わりどころまで、たくさんのヒントを頂いたように思います。

~ 対談後記 ~
八代さんといえば、以前「人事部はいらない」(講談社)という本を執筆され、世の人事部員にショックを与えた事件(?)が思い起こされます。
しかし、その趣旨は本当に「いらない」のではなく、「このままではいらなくなる、変わっていこうよ!」というメッセージでした。舌鋒鋭い経済学者として著名な八代さんですが、お話を伺った後に残った印象は、おだやかで、とても暖かい感じの余韻でした。また、私自身、改めて企業の組織・人事分野のコンサルティングという仕事のミッション性を認識する機会ともなりました。

八代さん、ありがとうございました。