C-Suite Talk Live第45回 フリービット株式会社 酒井 穣さん

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第45回 フリービット株式会社 酒井 穣さん
Calendar2011/12/26

人類は新たな言語を手に入れた

古森 ところで、酒井さんはfacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)については、どのように見ておられますか。私は、SNSは企業のみならず人類の社会的営みを変えていくだろうと実感しています。これもまさにインターネットの潜在性の一つですね。

酒井その通りですね。これまでは、先のゴアテックスの例でもそうでしたが、人間は150人くらいまでしか人間関係を維持できないという説(ダンバー数仮説)もありましたが、SNSの力で明らかにその範囲が広がりましたね。関係維持コストが劇的に安くなってきました。SNSの中で、例えば昔の同級生と一瞬にしてつながるじゃないですか。一回つながると、その後の関係維持はすごくやりやすくなっていますね。

古森 年に一回年賀状を出していた人や、それさえも途絶えていた人とも一瞬にしてつながって、その後は毎日でもコンタクトできますからね。コンタクトの仕方も、例えばfacebookであれば「いいね!」を押すだけの簡便な形もあれば、コメントを書き込むこともあるし、個別にメッセージを送ることも出来る。これは本当に、とんでもない変化だと思います。そもそも、酒井さんと、こうして今お話できているのも、一度お会いしてから、facebook で関係を深めることができたからでしたね。

酒井 個人と企業、企業と国家の関係も変わっていきますね。企業のグローバル化の進展は、国家と企業の間での統治⇔被統治の関係を変えていきます。現に、昨今の日本企業のグローバル化は、そういう側面がありますね。それと平行して起きているもう一つの大きな変化が、SNSの浸透による個人⇔組織の関係性の変化です。

古森 いつになるのかは分かりませんが、次に来る大きな時代変化の先には、国家というものの位置づけさえ今とは違うのではないかと想像しています。これは、これまでの国家の考え方を前提にすると荒唐無稽な話になるのですが、世界中の人々がもし国家というものへの考え方自体を変えてしまったら、何か今は想像できないような変化が起きるだろうなと・・・。

酒井 国家の理念は憲法に込められていると思いますが、誰かが新たな理念を打ち出した時に、賛同する人がインターネットを介してネットワークを作れば、それがある種の国家的集合体になっていくという可能性は、以前よりも高まっていますね。

古森 どういう名称で呼ぶかは別にして、今までにないような形での人間の集合体が勃興するかもしれませんね。

酒井 Richard Floridaという人が書いた、「The Great Reset」という本があります。そのタイトルがすべてを表していると思いますが、要するに今私たちが見ているのは、単なる「不況」などではなくて、時代の「Reset」なんだと。

古森 パラダイムがガラッと変わるということですか。

酒井 全然これまでと違う社会に移行するという見解ですね。恐慌レベルの不況をベースにして、そこから20~30年で社会構成が大きく変わるということです。私も、今はまさにそういう局面だと思っています。

古森 日本も色々と深刻な問題を抱えていますが、世界を見渡すと、苦しい状況は各所に見られますね。

酒井 シナリオによっては、かなりひどい状況が生じるでしょうね。局面変化の過程においては、日本でも失業率がかなり上昇するでしょうし、私自身も職を失うのかもしれません。ただ、かなりの混乱を想定しつつも、なぜか心の中にある種の「わくわく」感があることも事実なのです。これは、何なのだろうかと。

古森 あ、私もその奇妙な「わくわく」感というのをひそかに感じていました・・・。乱暴な仮説を言いますと、SNSなどを通じてインターネットの真の潜在性に気づいている人たちは、本能的に次の時代への期待を抱いているのではないでしょうか。何か統計を見て言っているわけではありませんが、このところずっとそんな気がしているのです。

酒井 それ、同感ですね。というか、だからこそ僕はフリービットにいるわけなんですけど。

古森 人間って、「知り合いが多ければなんとか生きていけるだろう」という、本能的感覚があるのではないでしょうか。まさに、SNSが作用しているのはそこだと思うのですね。今は、500名や1,000名とつながって、頻度高く関係を維持することが可能な時代ですからね・・・・。

酒井 これだけ変化の多い時代というのは、いかなるスキルであっても、いかなるものであっても、どれが「あたる」かは、分からないですね。でも、たった一つだけ自分のモビリティを担保できるものがあって、それは「信頼のネットワーク」なのです。特に、過去に一緒に仕事をした事があって、「コイツが出してくるQCD(編者注:仕事の基本としてのQuality, Cost, Deliveryのこと)は大丈夫だ」と思ってもらえている人は、次の時代でもきっと他者と強いネットワークでつながっていることでしょう。

古森そうだと思います。だから、色々と変化があってもそういう人には仕事がまわってくる。結果としては、お金もまわってくる。

酒井 そもそも、よく考えてみると、「お金」の根底にあるのは「信頼」なわけですね。バリューがあるのは「信頼」の方であって、「お金」のほうじゃないわけです、本来は。

古森 言いえて妙ですね。個々人の持つ「信頼」が、SNSの浸透によって広範囲に高頻度で認知され、かつメンテナンスされていく時代ですね。世界中で、個人と個人が認知しあうネットワークが「つながりっぱなし」になりうるわけです。そうなれば、混迷の時代でも生きていく手段は何かしら生まれてくるでしょうね。少なくとも私はそんな風に感じています。

酒井 企業における雇用の意味も変わるでしょうね。その時その時で最適なリソース活用をオープンな形で選択するようになっていくはずです。SNSでつながった者同士で「誰に何を任せれば良いか」は今後一層明らかになっていくわけですから。次の時代では、信頼や認知を得た個人がフリーエージェント化して、企業もそれを生かしていくことになるでしょう。

古森 「3.11」の震災直後のボランティアの動きなども、目を見張るものがありましたね。SNSでつながった人々の輪が、「被災地のために役に立とう」という強い価値観・目的軸の中で一気につながりを増殖させて、ものすごいスピードで現実の支援活動へと流れて行きました。デジタル空間で発生した動きが、即時にアナログ世界での実際の行動につながりました。

酒井 そうでしたね。

古森一度そうやって現実の動きが起きると、今度はまたその動きの中で協働した人間同士に信頼や認知の相互関係が生まれて、それがまたSNS上で「つながりっぱなし」になるという連鎖です。今まで見たことのなかったような変化が、今年は色々な場面で目撃されましたね。

酒井 他国における民衆運動なども、SNSが背景にありました。何か1つ、人類の歴史の歯車が大きく回っている最中なのですよね。私たちは、すごい時代を生きているのです。歴史を目撃している、と言ってもいいですね。

古森 インターネットの持つ潜在性が、姿を現してきていますね。ものすごい勢いと広がりで、今までつながっていなかったもの同士がつながっていく。

酒井 あきらかに、破壊的イノベーションが起こっています。私はそれを推進する側にいますので前向きに見ていることが出来ますが、これにもし受身で接するとしたら厳しいでしょうね。

古森 何かに圧倒されるような感覚になると思います。

酒井 私のイメージは、大きな城壁があって、内側で旧態依然としたグループが一生懸命扉を押さえているのですけど、向こう側でインドの人や中国の人たちのワァ~っという声が聞こえて、あれっ、一部で日本語も聞こえるぞ・・・みたいな(笑)

古森 なるほど(笑)

酒井 きっと局面変化の過程では大変なことになるだろうし、社会不安も起こるし、自分自身も失業したりするでしょうけど、でもまあ、時代の向こう側にあるものは見てみたいですね。そこはほんとうに「わくわく」します。

古森 子供世代への教育も、次の時代を想定したものに変えていかねばなりませんね。

酒井 その通りです。ちなみに今度、沖縄県のキャリア教育に関わることになったんですよ(正式名称:沖縄県キャリア形成支援プログラム協議会員)。

古森 いわゆるキャリア教育アドバイザーですね。沖縄の。

酒井 沖縄って、他の都道府県と比較してもすごく失業率が高いんです。特に若年層の場合は全国平均9.4%に対して15.9%もの完全失業率になっています(2010年のデータ)。そんな中で、新しくカリキュラムを作って、主に高校生を対象として4年間きちんとモニタリングしていくという腰をすえたコミットメントになります。

古森 そこに、インターネットがどう絡んでくるのでしょうか。

酒井僕一人だけでどうにかなる話ではありませんが、一つ是非ともやりたいと思っているのは、プログラムの期間内に学生の全員が例えばApple Storeに自分のアプリを出して、「誰が売れたか」で勝負してもらいたいな、と。

古森 面白いですね。ここ数年は、普通の人がYou tubeに動画を投稿して世界中からの反応を楽しみ始めた時代でしたよね。その先にあるのは、自作アプリの販売ですか。

酒井 自作アプリが売れてお金が入ってきたら、それは学校で集めて寄付するなどして・・・。要は、お金を稼ぐ感覚を知ることもさることながら、実際に世界から反応が来るかどうかを、自分の腕で世に問う経験をしていただくということです。

古森 次の時代を見越したプログラムですね。

酒井 高校生にとって、すごいエンパワーメントになりますよ。アプリだって、facebook上のアプリでも構わないわけです。その場合は、世界中から「いいね!」がいくつ集まるかを競ってもいいわけです。要は、自分で考えて自分で作って、世界中からの反応を得るという経験を、インフォメーションテクノロジーを前提にしながら積んで頂くということです。

古森 世界の人々からの認知が広がっていきますから、本当にそれを起点にして何かが動き始める可能性だってありますね。素晴らしいですね。

酒井 普通の高校生には、難しいだろうと思われるとしたら、それは間違いです。実は、自分の子育てにおいてもこのことは意識しています。例えばなんですが・・・これです(注:酒井さんのiPhone画面を拝見)。我が家の9歳の娘が、先週の日曜日に初めてiPhoneアプリを作ったんです。これは時計なのですけど、ドルフィンクロック、略してドルクロックって言うんですよ。

古森 9歳で、すごいですね。しかもネーミングまで。

酒井 うちの娘はイルカが好きなので、時計の文字の部分を全部イルカの絵を使って構成するアプリを作りました。これくらいのことは、もちろん先生は必要ですけど、小学生でもやれる時代なのです。彼女は、プログラミングは出来ませんが、今はレゴのブロックを組み合わせるような感じで色んなアプリを作れてしまうのです。オブジェクト志向といいますけど。

古森オブジェクト志向、その言葉は聞いたことがあります。実際は、こういうことなのですね・・・。

酒井ITリテラシーという意味では、これくらいの事は今後の子ども世代に普通に求められるはずです。間違いなくそういう時代になります。インフォメーションテクノロジーを使って何かを行うということは、人類が身に付けるべき新しい言語みたいなものなのだと思います。もう、本当にそういう社会になってきていますね。

古森 なるほど、新しい言語ですか。

ああ、もう時間になってしまいました・・・。まだお話ししたいことが色々とありますが、対談はひとまずここで終了と致しましょう。酒井さん、今日は本当に興味深いお話を聞かせていただき、有難うございました。これからも、刺激的な話をどんどん世の中に発信して頂ければと思います。また飲みながら議論させてください!