C-Suite Talk Live第50回 カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO 松本 晃さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第50回(2/4)

第50回 カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO 松本 晃さん
Calendar2012/04/05

なぜ多くの日本企業の経営が傾いているのか

古森 今のお話を伺っていますと、グローバル経営云々の前に、要するに「今のままでは日本企業の多くが内部から崩壊するぞ」という警告にも聞こえます。松本さんが大変な危機感をお持ちなのだということを、ひしひしと感じました。

松本 日本の企業は「人・組織」面で危機を迎えているところが多いと思っています。

古森ご指摘いただいた「学ばない」ことに加えて、なにか感じておられることはありますか。

松本 「学ばない」ことの延長線上で起きていることですが、過去20~30年にわたる日本市場の変化に対して、経営判断を間違えたと思われる企業が多いですね。

古森どのあたりが、間違いだったのでしょうか。

松本 1980~90年代に、世の中が大きく変わりました。冷戦構造の終焉と、日本のバブル崩壊があった時期です。長くなりますのでここで細かい話をするのは控えますが、その頃から日本では中産階級がどんどん減っていきました。一方で富裕層が増えたという声もありますが、全体としてみれば、圧倒的に経済的には下方向に動いた人のほうが多かったのです。全人口で見た場合には、経済力の下方シフトが起こりました。

古森 マクロで見た場合のその視点について、異論はないと思います。

松本 そこで日本の企業が何をしたかが問題です。先にアメリカでも似たような下方シフトが起きていますが、アメリカでは違った流れになっていきました。アメリカでも、レーガンの時代には、良い大学を出ても就職に苦しむ人が数多くいました。高学歴でも2万ドルから4万ドルくらいの給与しかもらえない人がたくさんいたのです。

古森 ちょうどその頃、松本さんは米国によく行っておられたようですね。

松本 そうです。ですから、当時アメリカで起きていたことへの直接的な感覚があります。そうした苦しい状況を経て、アメリカでは新しい分野で5000万人の雇用が生まれました。そして、この下方シフトした層を対象に発達したのが、いわゆるEveryday Low Price、つまりEDLPですね。品質をそれほど落とさずに、安定した低価格志向のボリュームゾーンにしっかりと提供していくモデルです。

古森言わずと知れた、ウォルマートの旗印ですね。

松本 あの時代を境にウォルマートが急成長していくのですが、それは振り返ってみれば当たり前のことで、大きな経済構造の流れに合致していたからです。現在起きている流れを理解して、実際に新しい経営の舵を切った経営者がいた。そういうことです。EDLPを実現するためには、当然、そのモデルで利益が出るようにするための、新たな工夫や創造がなされました。

古森 日本では、そういう流れにならなかった?

松本 日本では、まず下方シフトが起きたまま、新たな雇用が大きなロットでは生み出されませんでしたね。ただし、日本では貧困というレベルにはそう簡単にはなりませんから、雇用の問題はあるにせよ、低価格志向のボリュームゾーンが、以前とは違う形で市場形成されたという点は、アメリカに類似した流れであったと言えます。

古森そこで日本の企業がどのような対応をしたか。

松本 企業によってもちろん違いはありますが、大きな流れとして起きたことは、「やり方を変えずに価格だけ下げた」ということです。ここが、アメリカで起きたこととの決定的な違いです。だから、当然儲からなくなりました。

古森 なるほど・・・。

松本 確かにあの時代を境にして、日本企業はEDLPの対象になるセグメントにモノを作って提供してきているのですが、やり方が根本的には変わっていないので、身を削り続けているわけです。端的にいえば、コスト削減が不十分なままEDLPモデルに突入してしまったのです。

古森 日本の企業と個別にお付き合いしている立場としましては、それぞれにコスト削減のために大変な苦労をしている姿も見ていますが・・・。苦労の度合いとは別に、実際に実現できているコスト削減のレベルが甘いということなのでしょうか。

松本 そうです。市場構造全体が変わったのですから、企業としてもやり方を抜本的に変えなければ駄目です。ですので、今の延長線上には日本の大企業の多くは、成功を見出せないと思います。厳しい言い方ですが、「がんばれニッポン」の思いを持つからこそ、このように言わざるをえないと思っています。

ダイバーシティの本質とは、相手を理解すること

古森 そうした国内市場での構造変化をさらに進めていく必要性を抱えながら・・・のグローバル経営ですね。海外は海外で、同時進行でどんどん進めていかなければなりませんね。海外で活躍できる日本人は、現時点では少ないというお話をいただきましたが、活躍できるようになるためには、「学ぶ」ことに加えて、ほかに何か鍵となることがありますか。

松本 それは、ダイバーシティの感覚を正しく身につけることです。

古森やはりそこですか。私は、ちょうど昨年からマーサー社内で、アジア太平洋地域のダイバーシティ推進組織のチェアマンになっていまして、自分の仕事としても思うところ大です。ダイバーシティは色々な角度から語られますが、つまるところ、自分と背景や立場が違う人の気持ちがイメージできるかどうか、というのが重要だと思います。それが出来ないと、グローバル化した場で仕事が成り立たないですね・・・。

松本 おっしゃる通りです。ダイバーシティというのは、本来の意味は女性登用とか外国人登用に限定した話ではないですね。グローバル化した仕事の場面では、国籍、人種、性別、年齢、宗教など、まさに多様な属性を持った人々が集まってきます。考え方も違いますし、行動にもその違いが表れてきます。その中で、どのように動いていくか。私がいつも強調しているのは、「まず、相手の立場に立て」ということです。これがすべての出発点です。

古森 自分から見て合理的でないことでも、相手からすると合理的だったりしますよね。それぞれに持っている「理」があって、それらが違っていて、したがって「合理」となるものも違うということが往々にしてあります。宗教的対立なども、こういう側面がありますね。

松本 違うものを持った人を「受け入れる」という考え方よりも、まず「相手の立場に立て」という考え方が重要です。受け入れようとするのではなく、理解する。

古森 そのためには、相手の抱えた立場、境遇、あるいはその人が属する社会の歴史的な背景などまで含めて理解しなければなりませんね。

松本 例えば、キリスト教とイスラム教の関係にしても、どうしてそれぞれの宗教があのようにして生まれてきたのかを、勉強して知る必要があると思います。そうすると必ず、土地の気候とか、経済的な問題とか、色々な環境要件についても理解することができます。

古森 歴史を紐解くと、色々な立場の人の考え方の歴史が見えてきて、その考え方が出てこざるを得なかった理由も理解できてくる・・・。向き合わねばならなかった様々な我慢の歴史とか。

松本 なるほど!というものが必ず見えてきます。そこまで行くと、相手の立場を理解しやすくなります。

古森その理解なくしては、ダイバーシティの議論はむなしいですね。しかし、やはりここでも広い意味で「学ぶ」ということにたどり着いてしまいますね。相手の背景や経緯を学ぶ。そして、今、目の前に繰り広げられている「違い」の理由を理解する。そうすれば、違いが怒りや苛立ちにつながるのではなく、冷静に考えることが出来ますね。

松本 結局は、学ばなければ駄目なのです。