C-Suite Talk Live第51回 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長 出口 治明さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第51回 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長 出口 治明さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第51回(3/4)

第51回 ライフネット生命保険 株式会社 代表取締役社長 出口治明さん
Calendar2012/04/16

思いを仕組み化することの意義

古森 ライフネット生命には、創業時のマニフェストがありますね。さすがに私も生保出身ですので、大変興味深く読ませていただきました。「生命保険はむずかしい」そう言われる時代は、もう、終わりにさせたい ~ で始まるこの文章、まさに「思い」の詰まったものだと感じます。

(以下、ライフネット生命のホームページより抜粋します。少々長くなりますが、ぜひ読んでみてください。)

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第1章 私たちの行動指針

  • (1) 私たちは、生命保険を原点に戻す。生命保険は生活者の「ころばぬ先の杖が欲しい」という希望から生れてきたもので、生命保険会社という、制度が先にあったのではないという、原点に。
  • (2) 一人一人のお客さまの、利益と利便性を最優先させる。私たちもお客さまも、同じ生活者であることを忘れない。
  • (3) 私たちは、自分たちの友人や家族に自信をもってすすめられる商品しか作らない、売らない。
  • (4) 顔の見える会社にする。経営情報も、商品情報も、職場も、すべてウェブサイトで公開する。
  • (5) 私たちの会社は、学歴フリー、年齢フリー、国籍フリーで人材を採用する。そして子育てを重視する会社にしていく。働くひとがすべての束縛からフリーであることが、ヒューマンな生命保険サービスにつながると確信する。
  • (6) 私たちは、個人情報の保護をはじめとしてコンプライアンスを遵守し、よき地球市民であることを誓う。あくまでも誠実に行動し、倫理を大切にする。


第2章 生命保険を、もっと、わかりやすく

  • (1) 初めてのひとが、私たちのウェブサイトを見れば理解できるような、簡単な商品構成とする。例えば、最初は、複雑な仕組みの「特約」を捨て、「単品」のみにした。
  • (2) お客さまが、自分に合った商品を自分の判断で、納得して買えるようにしたい。そのための情報はすべて開示する。
    例えば、私たちの最初の商品は、生命保険が生れた時代の商品のように、内容がシンプルで、コストも安く作られている。そのかわり、配当や解約返戻金や特約はない。保険料の支払いも月払いのみである。このような保険の内容も、つつみ隠さず知ってもらう。
  • (3) すべて、「納得いくまで」、「腑に落ちるまで」説明できる体制をととのえていく。
    わからないことは、いつでも、コンタクトセンターへ。またウェブサイト上に、音声や動画などを使用して、わかりやすく、退屈させないで説明できる工夫も、十分にしていく。
  • (4) 私たちのウェブサイトは、生命保険購入のためのみに機能するものではなく、「生命保険がわかる」ウェブサイトとする。
  • (5) 生命保険は形のない商品である。だから「約款」(保険契約書)の内容が商品内容である。普通のひとが読んで「むずかしい、わからない」では商品として重大な欠陥となる。誰でも読んで理解でき、納得できる「約款」にする。私たちは、約款作成にこだわりを持ち、全社員が意見をだしあって誠意をもって約款を作成した。
  • (6) 生命保険は、リスク管理のための金融商品である。その内容について、お客さまが冷静に合理的に判断できる情報の提供が不可欠である。


第3章 生命保険料を、安くする

  • (1) 私たちは生命保険料は、必要最小限以上、払うべきではないと考える。このため、さまざまな工夫を行う。
  • (2) 私たちの生命保険商品は、私たち自身で作り私たちの手から、お客さまに販売する。だからその分、保険料を安くできる。
  • (3) 保障金額を、過剰に高く設定しない。適正な金額とする。したがって、毎月の保険料そのものが割安となる。私たちのシミュレーションモデルは、残された家族が働く前提で作られている。「すべてのひとは、働くことが自然である」と考えるから。そのために、いざという場合の保険金額も、従来の水準よりも低く設定されている。
  • (4) 確かな備えを、適正な価格で。私たちの最初の商品は、シンプルな内容の「単品」のみである。良い保険の商品とは、わかりやすく、適正な価格で、いつでもフレンドリーなサービスがあり、支払うときも、あやまりなく、スピーディーであるかが、問われると考える。それゆえに、あれこれ約束ごとを含む、複雑な特約とのセット販売は行わない。
  • (5) 事務コストを抑える。そのために、紙の使用量を極力制限する。インターネット経由で、契約内容を確かめられるようにする。
  • (6) 生命保険は、住宅の次に高い買物であると言われている。毎月の少しずつの節約が、長い人生を通してみると大きな差になることを、実証したい。
  • (7) 生命保険料の支払いを少なくして、その分をお客さまの人生の楽しみに使える時代にしたいと考える。


第4章 生命保険を、もっと、手軽で便利に

  • (1) 私たちの生命保険の商品は、インターネットで、24時間×週7日、いつでもどこでも、申し込める。
  • (2) 印鑑は使わなくてもよくした。法令上必要な書類はお客さまに郵送し、内容確認の上、サインして返送していただく。したがって、銀行振替申込書以外、押印は不要となる。
  • (3) 満年齢方式を採用した。誕生日を起点に、一年中いつでも同じ保険料で加入できるように。
  • (4) 私たちの商品の支払い事由は、死亡、高度障害、入院、手術のように、明確に定められている。この定められた事由により、正確に誠実に、遅滞なく支払いを実行する。手術の定義も、国の医療点数表に合わせた。この定義の採用は、日本ではまだ少ない。わかりやすくなり、「手術か、そうでないか」の議論の余地が少なくなる。なお、従来の生命保険では、88項目の制限列挙方式が主だった。
  • (5) 私たちは「少ない書類で請求」と「一日でも早い支払い」を実現させたい。そのために、保険金などの代理請求制度を、すべての商品に付加した。また、お客さまからコンタクトセンターにお電話いただければ、ただちに必要書類をお送りできる体制にした。そして、保険請求時の必要書類そのものを最小限に抑えた。このようなことが可能になるのも、生命保険の原点に戻った、シンプルな商品構成だからである。


このマニフェストを宣言で、終らせません。行動の指針とします。
私たちの出発を、見つめていてください。

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出口 まだスタッフもほとんど集まっていない、2~3人しかいなかった頃にこれを作りました。この会社をどういう会社にしたいのか。いわば会社の旗を立てたわけです。真っ正直に経営し、わかりやすく、安く、便利にする・・・という24項目の文章を、初期のメンバーで議論して言葉にしたものです。僕たちがこれから作る会社は、この24の文章に集約されていると。

古森 言葉の端々に通り一遍ではない「思い」が宿っているのを感じます。この「思い」に共鳴する人がライフネット生命の門をたたくわけですね。これを宣言で終わらせないために何をするか、ですね。

出口 それは、ある意味簡単なことです。一言で言えば、仕組化です。人というのは生来怠けもののところがありますから、意思に任せるだけでは長続きしません。仕組み化が必要です。冒頭に僕は精神論が嫌いだと言いましたが、「お前は意識が低い」とか、「あいつは根性がない」とか言うのは大嫌いなのです。僕も含めて人間等しくは怠けものですから、そんな精神論だけで人が動くはずはないのです。

古森 だから、仕組みで担保すると。

出口 そうです。このマニフェストに関しては、人事評価の際に、「マニフェストに対してこの1年、自分は何をやったか」を自分で書く仕組みになっています。そうすると、スタッフは、書くたびにマニフェストを見ることになりますよね。人事評価の際に使わなければならない仕組みになっていれば、嫌でも読まざるを得ない場面が生まれるわけです。

古森 なるほど、見て、内容を再確認して、自分の行動に照らして・・・ということが起きるように、仕組みを組んでいるわけですね。避けて通れない一点に碁石を打つかのように。

出口 実際、人事評価は年に2回タイミングがありますから、その都度マニフェストの内容を確認して振り返りを行えば、自然に理解は深まっていきます。日々の行動の中でも意識しやすくなっていきます。そうすると、例えば議論が紛糾した場面などで、「じゃあ皆で、もう一回マニフェストを読んでみようよ」といった具合に生きた使われ方をされるようになります。

古森 個々の行動を指示するのではなく、原理原則に立ち戻る場面を発生させるような仕組みを埋め込んでいるということですね。

出口 その通りです。仕組化は、企業の経営に限らず、社会全体についても似たようなことが言えるのですよ。例えば、長らく課題として認識されたまま大きな進歩がない若い人の英語力が低いという問題。これなんかも、仕組み化してしまえば一年で大きな変化を起こすことが可能です。

古森 まさに社会全体で課題視されて久しいですが、どのようにして・・・。

出口 僕が例えば経団連の会長だったなら、傘下の全企業一丸となって、「TOEFLのスコアで100を取ってこなかったら採用面談しない」と宣言しますね。100というのはシンガポールの標準レベルです。120点満点なので、100点満点でいえば85点のことです。そのバーを超えなかったら一切採用面談しないと言い切ってしまう。

古森 なるほど、かなりのインパクトがありそうですね。

出口 基本的になぜ若い人が大学に行くかといえば、中には勉学を志す立派な人もいるけれども、ほとんどの人は「良い大学に行って、良い会社に入りたい」というのが動機ですよ。これは日本に限らず世界みな共通。そうであれば、いわゆる大手一流企業の側が採用のプロセスの中にTOEFLという仕組みを埋め込むことで、学生の動きはガラッと変わるはずです。

古森実際、90年代までは日本と英語力に大きな差がなかった韓国では、その後大手企業が英語を明示的に要件にしたことで、若い世代の英語への関心度合いが大きく変わったといいますね。

出口 採用面談だけではなく、会社に入ってからの昇格も仕組み化すればいいのです。例えば、「海外で3場所、15年以上勤務しなければ部長以上には絶対登用しない」とか。そうすれば、「最近の若者は海外に行きたがらない」なんて、言う必要はなくなります。そういう狙いすました仕組みを大人が作ることができなくて、英語力の問題を学生の努力や根性、学校の先生のレベルなどのせいにしているから、日本企業の株価は上がらないのです。

古森 それもリーダーシップの課題として見ることが可能ですね。やはり、英語に関して「どうしたいか」という軸を振り切ったものが足りないのでしょう。日本企業におけるグローバル人材マネジメントの議論などでも、突き詰めていくと、会社としての軸の希薄さが根本の問題だったりします。