C-Suite Talk Live 第53回 フューチャーアーキテクト株式会社 執行役員 HR担当 川口 公高さん

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第53回 フューチャーアーキテクト株式会社 執行役員 HR担当 川口公高さん
Calendar2012/07/09

「人事とは何ぞや」 ~ ライフワークとして問い続ける

古森 少し話は変わりますが、川口さんは人事の仕事をどのように捉えておられますか。

川口 そうですね・・・。そもそも私のライフワークは、「人事とは何ぞや」という問いに対して、答えを追い求めていくことにあります。今の時代環境を考えたとき、私が課題意識を持っているのは、「今日的な意味でプロフェッショナルな人事をいかにして作るか」ということです。

古森「今日的な意味でプロフェッショナルな人事」。

川口 ソニーを振り出しに日本企業の人事を経験し、他の企業で起きていることもそれなりに認識しているつもりですが、振り返れば80年代~90年代前半頃までの日本の人事は「強い」存在でした。経営の中枢で人事にまつわる権限を有し、実際に経営を切り盛りしていたのがその頃の人事です。

古森確かに、そういう時代がありましたね。大企業では今よりも終身雇用の度合いがさらに強く、転職という行為も一般的ではなかった時代ですから、人事異動を決める人事部というのは「神」のような存在だったと思います。

川口 その後、多くの会社が事業部制などの分権的な組織運営を取り入れていく中で、人事の中央集権的な力は弱くなっていきました。それ自体は、各事業が向き合っている市場や顧客の高度化・複雑化に対応する形で、起こるべくして起きた流れだと思います。しかし、本来コーポレートで中央集権的に行うべき機能まで弱めてしまった面もありました。

古森例えば、どんな部分ですか。

川口 人事分野で言えば、例えば、事業部門をまたがる人事異動を通じた人材育成ですね。複数の事業部門を抱える会社というのは、本来、幅広い多様な経験を人材に提供しうるフィールドを持っているわけです。もちろん、誰でも無作為にローテーションすべきと言っているのではありませんよ。多様な経験を積むことで伸びていけるハイポテンシャル人材を、柔軟に育てる必要性のことを言っているのです。

古森わかります。

川口 しかし、分権の流れ一色となり人事の中央集権的な力を一定の割合で保持する配慮ができなかったため、結果的に一旦入った事業部門に人材が囲い込まれることとなりました。多くの人材が成長のために必要な多様な経験をするチャンスを逸しましたが、その流れの延長に、昨今の伝統的日本企業におけるイノベーション不足の問題があるように思えてなりません。

古森中央集権と部門分権のバランスというのは、いつも難しい課題です。が、そのバランスが崩れた形で進んできたことにより、本来発揮しうる組織・人材の力が発揮されていない・・・ということですね?

川口 そうです。かといって、時計の針を20年戻しましょうという話ではありません。すでに時は不可逆的に過ぎていますし、日本企業の組織の前提も随分と変化しています。昔のような意味での「強い」人事部が再登場するとは思えませんし、そうすべきとも思いません。あくまでも、現在と未来のことを考えた上でのあるべき人事を求めていくべきだと思います。

古森これからの時代に人事が持つべき「強さ」とは、何なのでしょうか。

川口 たいへん難しい質問ですが、やはり、まずはオペレーショナルな人事からの脱却を図ることは必須です。転職をすると第3者的になれるので気づきやすいのですが、得てして人事部の中で話されていることと、経営会議で話されていることには大きなギャップが生じているものです。知らず知らずのうちに人事は正しくオペレーションを行うことや規定や制度などに適合しているかなどの話題に終始し、実は事業や経営の話はほとんどなされていないのです。人事の目的は、事業、そして経営を成功に導くことですし、その観点で「人」や「組織」、そして「ビジネス」への見識、洞察力、哲学などをもち、トップマネジメントや事業責任者とコミュニケーションを重ねていけば必然的に人事の強さは取り戻されていくのではないでしょうか。

古森それはつまり、かつてのような本社機構としての人事権のことではなく、むしろ経営や事業現場と「パートナーシップ」に近いイメージで向き合っていくということですね?権限ではなく、問題意識やビジョン、そしてコミュニケーションを通じて影響力を発揮していく形・・・。

川口 そうなります。昔に比べると、より一層「事業や経営」の課題に関する深い理解が必要な時代です。人事の担当者は、経営会議で話される課題に対して、常に人事として見解を持てるようになっていかなくては価値が出せないのだと思います。

古森人事は「権限の強さ」ではなく、本当の「中味の強さ」で勝負する時代だと。

川口 そうでなければ、結局は事業が市場で勝つための貢献などできなくなくなります。

古森なるほど・・・。

川口 それから、人事として気を付けなければならないのは、事業現場の人たちとの関係性、距離感です。もちろん事業の支援をすることは大切なのですが、一方で全体最適や中長期の目線で考えることも人事の大切な仕事であり、その結果、現場との間に利害が対立してしまうことが往々にしてあります。

古森本来、対立は避けたいですよね?

川口 はい、実は以前の私もどちらかといえば対立が起こらないように行動していました。やはりいい人でいたいし、まさにいい人を演じようとしていたのだと思います。ただある経営者の方に「人事責任者として大切なことはコンフリクトをいかにマネジメントするかだ」と言われ、ハッとしました。

古森コンフリクトのマネジメント?

川口 ある意味、これまでの私はコンフリクトが起こらないように対処していたことに気付いたのです。しかしコンフリクトは起こって当然であり、それをいかにマネジメントするかが人事の腕の見せどころなのです。経営の側に立てば、当然、全体最適や中長期の視点で考える必要があり、そうすると事業個別の視点とはアンマッチが生じます。そのときに会社全体のことを考え、信念を持って押し通すことができるかが人事としての存在意義と気づいたのです。

古森しかしコンフリクトが生じるとわかって行動するのは、勇気のいることですね。事業のことは事業サイドの人のほうが当然詳しいわけで、「人事は事業が分かっていない!」などと言われ、押し切られる羽目になるでしょう。

川口 だから、ある意味とてもつらいときもありますよ。ただ人事の究極はやはり経営であり、今日的に本当に必要な人事の「付加価値」を発揮しようと思ったら、その過程には痛みを伴うのです。たとえ最初は誤解が生じたとしても、それを避けていたら、結局はいつになっても事業の現場から何ら信頼を得られないし、そもそも会社がおかしくなってしまうでしょう。。人事にとってはまず、ここにチャレンジがあります。

古森人事の強さが、まさに再定義されようとしているところですね。

川口 一方、時代や局面によって変わらない、人事の普遍的な価値というのもあると思っています。

古森普遍的な価値。

川口 結局人事というのは、「人がどんな刺激にどう反応するかをちゃんと分かっているかどうか」なのですよ。これは、中央集権とか部門分権とか、そういう軸とは別にあるものです。たとえ事業のことを深く理解したとしても、最終的には人間というものに対する絶対的洞察がなかったら、人事として良い仕事は出来ません。

古森おっしゃるとおりですね。そこは普遍的だと思います。

川口 社員個々への洞察とともに、人が大勢集まって組織になったときに生まれる作用についても、しっかりと皮膚感覚を持っておく必要があります。時として、社員一人ひとりのことを理解していたとしても、その人々がつくる集団の反応はまた違ったものだったりするからです。

古森個人への理解、集団への洞察。この双方の絶対的な皮膚感覚というものが、人事の普遍的な土台だということですね。

川口 それらを人一倍分かっていなければ、事業に対しても経営に対しても、意見することはできないでしょう。言い換えれば、人事の究極の専門性というのは、法や規範といった形式知にとどまるものではなく、こうした人間や組織に対する洞察なのだと思います。

古森深いですね・・・。改めて、人事とは何か、私も考えさせられます。

ああ、そろそろ時間になりました。90分はあっという間ですね。川口さん、今日は体験に基づく貴重なお話をお聞かせいただき、本当に有難うございました。色々とヒントになる部分、考えを深めていく上で参考になる部分がありました。