C-Suite Talk Live第56回 グラクソ・スミスクライン株式会社 取締役人財本部長 四方 ゆかりさん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live第56回 グラクソ・スミスクライン株式会社 取締役人財本部長 四方 ゆかりさん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第56回(3/4)

第56回 グラクソ・スミスクライン株式会社 取締役人財本部長 四方ゆかりさん
Calendar2012/07/23

決断力のあるリーダーは組織のトラストが育む

古森 組織内のダイバーシティが高まったとして、次に気になるのは「決断力」だと私は思っています。クリティカルな場面で、色々な意見が存在して、その中でリーダーシップをとって「私はこうする」と決めてボタンを押す力。この点は、どう思われますか。

四方 そのとおりで、「決断力」というのはリーダーシップの基本素養の一つだと思います。それなくしては、多様性の高いグローバル組織の上位層で活躍することはできません。もっとも、私のまわりには自分で決断するのが好きな人がたくさんいますが(笑)。

古森 それは心強いですね(笑)。しかし、日本の人材の一般論としては、この「決断力」というのはかなりのバリアになっていると思います。私は、「判断力」と「決断力」の違いという説明の仕方をしています。

四方 なるほど。

古森 情報を得て分析して考えて決める行為が「判断」。これは、時間的余裕があれば、日本の人材にも得意な人が多いですね。一方、時間的余裕がない中で、情報も不十分、リスクの高い状況で何かを今決めなければならない局面。ここでベストの推察をして勘も働かせながらボタンを押す行為を、「決断」と呼んで峻別しています。

四方それは、実力本位の企業で上位層にいる人間であれば、共通して持っているプロファイルです。逆に、その「決断力」というものがなければ、上のほうには上がってこないはずです。

古森 鶏と卵の関係になってしまいますが・・・。企業組織を含む日本の社会一般で言うと、ここで言うところの「決断」というのは、あまり得意技ではないように感じています。少なくとも、日本企業のリーダー人材育成の場面などでは、この点がよく課題として登場してくるのです。自然に「決断力」のある人材が登場してくる企業というのは、何が違うのでしょうか。

四方 うーん・・・。それは・・・。「トラスト」、でしょうかね。

古森 「トラスト」。信頼ですか。

四方 はい。組織のカルチャーとして「トラスト」があるところでは、人々が「決断」をするようになるのではないかと思います。

古森 「トラスト」が「決断」の素地。

四方 「なぜ決断できるか」ではなく、「なぜ人が決断しなくなるか」と考えてみたらどうでしょうか。なぜ決めなくなるのか。どんな優秀な人材でも、常に百発百中で決断の結果が良い方向に行くなどということはありえません。皆、必ず「決断」の試行錯誤をしながら、失敗も重ねながら、そこから学んで決断力を磨いていくものです。ところが、試行錯誤の際に逐一犯人探しが行われるカルチャーだったら、どうなるでしょうか。

古森 わざわざリスクをとった「決断」をすることが、損になっていきますね。

四方 そうです。「決断」することで損をするような環境では、人は保守的になるのが当然です。「決断力」のあるリーダーがたくさん生まれてくる組織では、まず「あなたを信じて任せる」というトラストがあります。そして、結果が悪かった場合には、「誰が失敗したのか」「何でそんな決定をしたのか」という議論にはほとんど時間を使いません。何か事が起きたときには、「今この問題を皆でどう解決するか」ということにフォーカスしていきます。

古森 組織はその人を信じて(= トラスト)任せる。結果が失敗に終わったら、犯人探し的なことではなく、淡々と問題解決のほうに力点を置いて組織が動いていく。だから、「決断」の試行錯誤をする個々人の側から見ても、組織に対する信頼(= トラスト)があるわけですね。

四方 子育ても同じですね。何か失敗するたびに厳しくしかりつけていたら、子供は動く前に大人の指示を待つようになります。そういうメカニズムというのは、子供も大人も大きく変わりません。失敗を「学びのコスト」として割り切って、前向きに生かしながら進んでいけるか。それとも、失敗を徹底的に掘り返して警察的に運営するか。それによって、組織内の「トラスト」には大きな差が出ます。それが結果的には「決断力」の差を生みます。

古森私は個人的には、「リーダーは、失敗と責任追及の恐怖に耐えながら、孤独なボタンを押して生き延びていくべき」という、ある種マッチョな思想を持っています。個人としては、ですよ(笑)。しかし、組織としての再現性を考える場合には、当然それだけでは足りませんね。「決断」の試行錯誤が起きやすい組織環境づくりは、「トラスト」が鍵。なるほど・・・。そのカルチャーを、どうやって生み出していくかですね。

四方 それこそ、リーダーの仕事だと思いますよ。組織の中枢にいる人々が、ミステイクに接したときにどう反応するか。失敗は失敗としてきちんと認知してフィードバックを与え、その人材にとっての学びにつなげていくことができるか。それとも、責任追及に動くか。そうしたリーダーの行動の積み重ねで、組織のカルチャーは決まります。

古森「トラスト」のある組織カルチャーを作るには、リーダーとしては我慢も必要ですね。何度もそういう行動を見せていかなければ、組織のカルチャーにはなっていかないでしょう。場合によっては、リーダー数世代にわたる取り組みが必要かと思います。

四方 一方で、「トラスト」を壊すのは簡単です。過剰な責任追及が行われたり、試行錯誤の結果を個人的に罰せられたりすることが起きると、その当事者以外も含めて一斉にカルチャーが保守的になります。実際、そういう組織も過去に見たことがあります。そうなってしまうと、人々はどんどん自己防衛のための方策にエネルギーを使うようになります。誰がどう決めたかという証拠を残すことに腐心するとか・・・。

古森 結果的には、組織の生産性も落ちてしまいますね。リーダー層が日々「トラスト」を体現し続けることが、「決断力」のある人材をたくさん生み出す組織の根底にあるわけですね。これは、深く本質的な話ですね。