C-Suite Talk Live 第63回 エステー株式会社 ホームケア事業本部 本部長 鹿毛 康司さん | マーサージャパン

C-Suite Talk Live 第63回 エステー株式会社 ホームケア事業本部 本部長 鹿毛 康司さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第63回(1/4)

第63回 エステー株式会社 ホームケア事業本部 本部長 兼 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター 執行役 鹿毛 康司さん
Calendar2015/06/22
C-Suite Talk Live 第63回 ~対談エッセンス~
  • 既成概念にとらわれないこと
  • 制度や規制を作りすぎると人間は考えなくなる
  • 相手の目線に合わせることの難しさ
  • 理念・価値観の継承

既成概念にとらわれないこと

鴨居鹿毛さん、本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。 本日の対談は、マーサーのウェブサイト上にありますC-Suite Talk Liveというセクションに掲載をいたします。C-Suite Talk Liveは、私どもが企業あるいは様々な団体のリーダーの方、役員の方にインタビューを行い、事業経営や人材、組織などの面での取り組みなどについて対談いただいている企画です。実は今回、我々としてはちょっと・・・

鹿毛変り種ということですね?

鴨居はい、そうですね。少し思い切った取り組みで。

鹿毛 ほんとですよね、大丈夫でしょうか。私みたいので?(笑)

鴨居 はい。ヒットCMを生み出し続ける鹿毛さんから、色々なお話をいただだければと期待しております。鹿毛さんの「愛されるアイデアのつくり方」という本の中で、常識を破っていく、あるいは既成概念を変えていったエピソードを興味深く読ませていただきました。また、非常にベーシックなところとして、相手のことを知る、自分のことを知るということを原点に置いているという鹿毛さんの姿勢は、広告を制作・統括する以外にも色んなところに通ずる部分があると思いました。そんなエピソードを交えながらお話をお聞きしたいと思っております。よろしくお願いします。

鹿毛 エステーは広告費が30億円の企業なんです。30億円というのは、相当な額だと思われるかもしれませんが、広告費ランキングでいうと日本で230位でしかありません。実際に商売上戦う企業は絞られていても広告ということでは業種は関係ありません。トヨタさんだったり味の素さんだったり、コミュニケーションを受け取るお客様は決して業種では選んでいません。だから広告のライバルは全日本の企業になるわけです。ところが、おかげさまで日経企業イメージ調査では「良い広告活動」をしている会社として5位にランクしました。10倍以上の広告費を使われていてしかも実力ある会社さんと互角にランクされました。これは放送枠や新聞のスペースを効率良く買うというだけでは生まれません。そこに既成概念にとらわれない手法が必要でしたし、そのひとつがクリエイティブの力とそのチーム作りが必要でした。

鴨居 クリエイティブ・ディレクションの真価が問われるわけですね。

鹿毛 はい。広告業界の決められたやり方に沿っても突出したクリエイティブは生まれないんですよね。広告費がよそ様より格段に少ないからこそチャレンジしたわけです。かといってクリエイティブ力を産み出すには、ただ単に面白いアイデアを考えれば良いといった短絡的なものではありません。チームの作り方がとても重要でした。

鴨居逆に、たくさんの広告費が使える企業は、広告会社にある部分の機能のアウトソースをしてしまっていますね。一方で、鹿毛さんのところは予算が限られている中で、むしろ広告主側が主体となって色々なことを考えて、行動して、結果それが成功しているということでしょうか。

鹿毛エステーは自分達が主体ですが、多くはそうではありません。広告主側が主体となってやるべきだと思うんですが、現在は広告会社さんの提案に沿って広告会社さんが主体となってやっていると感じています。でも、昔は違ったんですね。1970年代から80年の頭くらいのサントリーさんやコカコーラさんは、それは輝いていました。もちろん今も素晴らしいですよ。サントリーさんはその当時は開高健さんをはじめとして、そうそうたる方々が自分達で考えられていたり。広告主が主体となって制作陣をひきつれ世界をまわってCMを作ったりと。

鴨居ある意味、革新的でしたね。

鹿毛 それがいつの間にか、広告主側が広告会社にアイデアやソリューションを期待し悪い言葉で言えば丸投げして、そこから案を選び、作ってもらって納品してもらうというビジネスモデルに変わっていきました。それが当たり前の世界になっていて、私が12年前に宣伝部長になった時、私が案を出しても広告会社さんに否定されたり(笑)、 制作現場にもなかなか近寄れなかったんです。広告の主は我々なのに、否定されて現場にも本質的に入れてもらえないんです。今も横のつながりで他社の宣伝部員さんと交わりがあるのですが、皆さん悩まれることは「どうやったら自分達のやりたいことが広告会社に伝わるのか」「どうやってクリエイターと話ししたらいいのだろう」とか、一般の人が聞いたらびっくりするような内容ですよね。そして広告という仕事のプロセスや制度が出来すぎたためにそのエネルギーが止まってしまったのではないか、あるいは思考がストップしてしまったのではないかと思うんです。本来考えるべきことを皆考えなくなって、根拠ない論説が出回っているんです。

鴨居たとえば、どんな根拠なき論説ですか。

鹿毛 たとえば当時、月9のドラマ枠を使って、毎回違うCMを打ちたいと僕が言うと、根拠なく「鹿毛さん、CMというのは消費者への刷り込みが大切なんだ。だから同じものをずっと繰り返し放送するのが大事」ということを広告会社さんに言われました。平均値はそうでしょうが、私の案を誰も検証したことはないわけです。それが根拠なき論説だったりします。その論に従うと予算の少ない私に勝ちのチャンスがなくなる。だって、その刷り込み論は投下する金額に比例したパフォーマンスが得られるというビジネスモデルなんですね。金の力という話になってしまいます。

鴨居 効果は投下資本の大きさに比例する、と。

鹿毛その時の仮説は、毎回ドラマを見ていらっしゃる方にとっては、そこに毎回違うCMが来てもいいんじゃないかと。何度も見せるCMのつくりかたではなく、低予算で1回しか見せない為のクリエイティブ方法があるのではないかと。業界の反対論者の中で、賛同してくれるチームをやっと見つけ作り上げていきました。結果としては大成功でした。1ヶ月に数百ものCMが流れている中で、1回しか流していないエステーのCMがベスト10に3本も入りました。100回以上流してもベスト10に消費者に選ばれるのは至難の技です。皆さん、びっくりしたと同時に、根拠なき論説の人たちは認めたくなかったでしょうね。そして該当商品の売上は、直後は倍になりました。

鴨居 なるほど。既成概念にとらわれずに普通の視点で考えてみた、ということですね。

鹿毛 業界の定説ではなく、お客様の視点で考えただけです。これが難しいのです。企業側の論理に染まっているわけですから。しかし、今や、僕らのやり方は普通のことになっています。大手さんは皆シリーズものをやるようになってきたんです。最近はシリーズCMが当たり前のように放送されていますよね。日本であれだけ大々的にシリーズものをやったのはエステーがほとんど初めてだったはずです。そして、今度はそのシリーズものでさえも、お金のかけ方の勝負に発展してきている。我々とすれば困るわけです。

鴨居別のステージになり、資本力との相関関係が改めて出てくるということですね。

鹿毛 そういうことですね。そうすると我々のような低予算のところがビッグと競う為に、次の手法をひねり出す必要がでてくる。根拠なき論説をまた見つけ否定する。その繰り返しでやってきました。辛いけど思考を続ける。でも、そこが勝負どころだと思っています。

鹿毛 康司 (かげ こうじ)さん プロフィール
代表作は震災直後に制作した消臭力CM。1755年の震災から復興をとげたポルトガル・リスボンを背景にミゲル少年が歌声を披露するCM。日本で最も権威あるACC賞ゴールドを獲得。2011年でもっとも効果のあったCMとして日経新聞から選ばれる。
早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学院MBA、グロービスマネジメントスクール講師
その他 マーケターオブザイヤーなどを受賞、著書 「愛されるアイデアのつくりかた」 (Wave出版)