C-Suite Talk Live 第63回 エステー株式会社 ホームケア事業本部 本部長 鹿毛 康司さん

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第63回 エステー株式会社 ホームケア事業本部 本部長 兼 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター 執行役 鹿毛 康司さん
Calendar2015/06/22

相手の目線に合わせることの難しさ

鴨居 少し論点を変えますが、鹿毛さんの本の中で「目線」というキーワードがあります。お客様、いわゆるCMを見てくださる方々、結果的にものを買っていただける方々に、目線を合わせていくことの必要性を書かれていますよね。自分は目線を合わせているつもりなんだけれども、徐々にぶれていくという点を実例を交えて書かれています。これは、別にCMを作るってことだけじゃなくて、広く企業の活動の中でも同じ状況があるのではないかと思います。相手の目線と自分の目線をどういう風に合わせていくのか、相手の目線に立ってどう考えてみるかということは、CMを作られていく中でどのように重要なのでしょうか。

鹿毛 CM作りっていうとフィルム作りに間違えられるかもしれないけど、実は何を伝えるか、どういう風に伝えるかってことをしっかり考えるのがとても大切で、時間とお金をかけます。この時に重要なものがお客様の視点です。その為に調査もやるのですが、その調査をやる人が、どこまでお客様視点で考えて調査するかに成功がかかっています。調査したら何か出てくる式の人には発見も成功もないんですよね。元来、調査は関係者や身内を対象にしてはいけません。そして 本当の関係者は自分自身です。だからこそ重要なのがお客様として考えるということで、これが難しいわけです。

鴨居なるほど。そうですね。

鹿毛自分という関係者がこれをやりたいという強い想いは必要なんですが。自分が関係者であり続ければあり続けるほど目線は合わないものなのです。だからね、僕は最初から目線は合わせられない、そういうスタンスでいます。相当な努力をしないと自分がその取り組みの主体的関係者だというハンディキャップから離れられない。

鴨居目線を合わせることは難しいのですね。

鹿毛 この課題には二つ解決策があって、ひとつは自分は関係者なんだから目線を合わせられないと絶対に思い込むこと。二つ目は、それを手法と努力で埋め合わせること。この二つをやれば、確率を上げることはできる。でもどこまでいってもお客さんの視点にはいかないから、ずーっとやり続ける。それが企業のあり方じゃないかなと思っています。

鴨居 鹿毛さんの本の中でも、グループインタビューをやって、この商品がいいとかあの商品がいいとかコメントをしていただいて、インタビュー終了後に「好きなもの持って帰っていいですよ」と言ったら、インタビューで良いと言っていた商品じゃないものを持って帰られて、はっとされたっていうエピソードがありましたね。
私も新商品企画のプロジェクトなどでは、非常に近い経験をしています。グループインタビューって言うのは、皆が見ている、皆が聞いているって中でこう発言する。だけどそれが本当かどうかは最後まで分からない。やはり先ほど鹿毛さんが仰られた「手法と努力の繰り返し」が不可欠ということですね。

鹿毛 洞察も必要です。例えば「健康に気をつけていますか」って言ったら「健康に気をつけてない」という人はいるわけないですよね。「健康に気をつけています」って言っているけれども、この人は実は節約で毎日食事を作ってるのではないかとか。このように調査の設計の仕方も、自分が関係者であるための質問を作ってしまっていることに気がつけない。先ほど、手法を使えばいいって言いましたが、これでは手法を使って目線を合わせることにはならないわけです。
実は、僕がインタビューで一番重要視しているのは表情です。調査結果には、表情なんて書いていない。でも女性にプロポーズした時の表情を見るでしょう?本気で答えを知りたい時は。僕はそうやって人の感情だとか、こうなんだってことまでを全部拾う時間をちゃんと作った上で、CMを作るように汗をかきます。目線を合わせられないから汗をかきます。エステーのCMが平均より当たるのは、このお客様視点にこだわり続けているからです。失敗もありますが。

鴨居 消費者の考え方や価値観も変わっていく中で、当たり続けることは本当に大変ですよね。鹿毛さんがやられていることは、常に変化している価値観を持つ消費者の先を行って、またさらにその先を行ってという連鎖をしながら考えていらっしゃるから、少しこう枠を飛び出るようなことをやられているのかなって気がするんですよね。

鹿毛 すこし補足すると、手法は枠を飛び出しているけど、僕はお客さんよりもやっぱりね、5cm後ろだと思っているんですよ。よくCMは時代をリードするって言いますが、実はお客様に寄り添うことが必要だから、時代の先ではないような気がしています。2011年の震災のあとに作ったミゲルを起用したCMなどは、確かに時代の空気を変えたと言っていただけました。ただ、僕があの時にtwitterで見たのは、「日常に戻りたい」「笑いたい」っていう声だったんです。世間の人達が、我々があれこれ考える前に進み始めていると分かったんです。その思いに、僕は遅れて追いつきながらミゲルのCMを打っているわけなんです。皆がそれについて拍手をしてくれたのは、皆の心に向き合ったから拍手をしたわけで、僕が時代をリードしたから拍手をしてくれたわけではない。でも手法は、震災後初めての商品CMを作ったわけだから、確実に一番ですよね。でもね、お客さんよりも僕は後ろに立っている気持ちを持っています。

鴨居それはすごく印象に残る言葉ですね。