C-Suite Talk Live 第64回株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室 淑恵さん

ライブラリ / 「経営×人・組織」視点の対談 C-Suite Talk Live / 第64回(2/4)

第64回 株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室 淑恵さん
Calendar2015/08/06

ワークライフバランス報酬という考え方

鴨居 伝統的な日本の大企業が時間という枠にとらわれない働き方に取り組まれている例も多くなってきましたよね。先日も、働き方を思い切って朝方に変えられた商社の役員の方と、その変革について話す機会があったのですが、最初は商社パーソンが夜まで働かずにどうするんだという社内の反発も強い中、トップマネジメントから徹底してそれを進めて効果が出ているとのお話を聞き、非常に印象深かったです。

小室 そうですね。そうした具体的な例が出てくるようになったことは勇気付けられます。

鴨居 結局朝が早くて単純に時間がシフトするだけになるのではという懸念もあったけれど、実際にはシフトではなく、生産性の向上も図られ、働く時間自体が短くなる結果が出て、社員の皆さんが仕事以外のところで充実した生活をするサイクルが回り始めているそうです。その後ろ側には、組織立った創意工夫とか、無駄なことを排除していくという個々の努力があったということをお聞きし、働く時間を短縮していくということから遠いところにいる印象の商社さんが、積極的に取り組まれて成功しているというのは大きな動きかなと思いますね。

小室 そうですね。私どももご支援をさせていただいた経緯があるのですが、最終報告会の一人の部長さんの発言が非常に印象的でした。「実は、この取り組みに選ばれなかったら自分は会社を辞める覚悟でした。」ということを仰って周囲が非常に驚いたんです。親御さんの介護をされていたのだそうですが、その事情をオープンにできない中で、「管理職として今まで通りの働き方を続けられないのであれば、けじめをつけ、会社を辞めるべきなんだ。」と考えていらしたことをお話されました。労働時間が短い中で成果を出すことをよしとする一つの方向性が示されたことで、モチベーションも上がり積極的に取り組んで、業績を落とさずに働き方を変え、介護と両立も出来たというお話をされたんです。私にとっても、介護理由というのを男性の方が仕事の場で口にされたのを見たのは、あのときが初めてでした。
同様に、多くの企業で人事部が介護の状況を把握しているのは、実際のごく一部です。コンサルに入る前に「介護理由にある人は数人だと思います。」と皆さんご回答されるんですが、実際ははるかに多いのが実態です。育児は漏れなく全員会社に言ってきますから会社としても把握できますが、介護はご本人が言わなければその実態をキャッチできないという意味で現状把握も遅れますし、当然対策も遅れて大きい問題になると思います。

鴨居そうですね。私自身振り返ってみても、あまり会社の人に介護の話は積極的に言う内容ではないという意識もあり、むしろ、その事実を表面に出さずに仕事にも影響を出さないようにしようとして、どんどん公私とも負担が重たくなってくる感じはありました。私の場合には、結果的には最後まで両立しながらなんとか頑張れたっていうのはあるんですけれど、多くの人はバランスを崩され、身体を壊すとか悩んでいくということになるだろうと思います。

小室 期限がないというのも、介護を進める上での大変さの一面なんです。

鴨居先ほどのお話で、創業されて以降、継続的に増収増益を続けていらっしゃるとのことでしたが、それだけ日本の社会で御社の活動が認知され、コンサルティングサービスを依頼される企業が増えてきているということだと思うのですが、御社の活動が社会の中で取り上げられている背景は何でしょうか? 

小室 そうですね。日本って90年代半ばからすでに人口オーナス期に入っているので、労働人口が足りないという人不足感は出てもおかしくはなかったんですけれども、むしろ不景気が蓋をして、人減らしの方に熱心になったっていうのがあると思うんですね。しかしここ数年は、アベノミクスとオリンピックというところが非常に大きいと思います。これまでなら近隣の店舗から人を呼んだり、短期間労働者を呼べばすぐに開店できていたような飲食店などで、ストを起こされて休店状態に陥るようなことがおき、各企業が人材不足を感じています。

鴨居 特にこの2年ほどでしょうか。

小室 はい、そう感じています。従業員と企業のパワーバランスの逆転だという捉え方もできると思います。少ないほうに希少価値は宿りますから。人気のない業界から早く逆転してしまうことも顕著です。今年中には、そうしたパワーバランスが全業界で逆転するだろうなと思っています。そうすると、自分達のビジネスをやっていくために、適正人数と適正レベルの人材を確保することが難しくなってきますね。

鴨居 社員が働き方に目を向ける傾向が一層顕著になるということですね。

小室 はい。例えば、いいお金でヘッドハンティングされても、翌日には自分がお金で雇われたことを忘れます。しかしワークライフバランス報酬は、影響を与える持続性が長いんです。ワークライフバランス報酬は、「今日、親の人工透析に付き合うことが出来ている」とか、「子供が熱を出てしまって、在宅勤務させてもらっている」など、会社のシステムのおかげだということで、機会あるごとにその意義を感じてもらえるんです。経営戦略の一環として、この点に気づいてきた経営者が多くなってきていると思います。

鴨居一方、中間管理職を中心に、組織の長である方の意識付けも重要になりますよね。

小室 そうですね。ワークライフバランスは会社があげられるものじゃなくて、上司があげるものなんです。例えば、在宅勤務制度がある会社で、「俺の目の黒いうちは、うちの部署で在宅勤務させない」とか言ってる人もいるくらいですので(笑)。会社が仕組みを取り入れる議論の前に、上司がちゃんと運用して使える状況にできるかというところが問われます。会社側としては管理職全体になぜそういう仕組みに変革をしていくのかということを腹落ちさせていかなければなりません。職責のひとつとして前向きに部下にその機会を渡していき、効果を上げる意識を持ってもらうためには最初の意識転換だけでは不十分で、繰り返しの積み上げと研修などが必要になってくると思います。

鴨居 自分に照らして考えても、ものすごく仕事が充実していて、今は仕事により時間をかけて取り組みたいという時期もあれば、例えば先ほどの話のように介護しなくてはいけない時期や育児しなくてはいけない時期、あるいは自分の身体の調子が衰えてくるときもあります。それぞれ何十年も働く中ではペースが色々あって、その中で、この自分の働き方がもっともバランスがとれているんだっていう選択肢があるということが、一番大きいんだろうなって思います。

小室 ちょうど一昨日、政府の委員会での会議があったんですけれども、そこで提案していることが労働時間に関するこの国の戦略がどう示されるのかという点です。私が委員会に入る前、政府としては労働時間を減らしたいという意識がありながらも、本人の好きで選べばいいでしょうという方向性に一度舵を切りかけていたんです。柔軟性を増していけば本人が希望するときに休暇をとれるでしょうという考えで、たとえば、ホワイトカラー・エグセプションのようなものを入れてフレックスタイム制にしていくという方向性だったと思うんです。しかし前提となる人口構成を見ると、一部の人の労働時間の長さというようなものがその人にとっては大丈夫な時期だったとしても、実は全体に及ぼすネガティブな影響が大きいということを今は一生懸命伝えているところです。

鴨居 俯瞰して事象を見ると、課題は一層可視化されますね。確かに実際は、なかなか自分の都合だけで選択できるわけではないという環境もありますしね。

小室 日本の法整備の観点でも難しい問題があるんです。労働時間に関することは最終的には労働政策審議会で決めることになっているんです。ところが、労働政策審議会というのは、労使の話し合いの場ですから、そこで労働時間に関する問題を話し合わせることが果たして正しいのかどうかという点です。例えば、長時間労働があることによって皆さん介護にあてる時間に制限ができ、結果24時間型の介護施設の必要性が高まるのですが、そうすると労働政策だけでなく国の財政圧迫に直結するんです。また、育児に関してもアメリカでは延長保育がありません。国が負担している部分と言っても、9~18時の保育だけなんですよね。一方、日本では延長保育をやっていますので、夫婦の労働時間が二人とも長ければ延長保育ばかりが増え、その部分が自治体の赤字に直結する構造があるわけです。こうしてみて見ると、国の財政がどこかで爆発することが、企業の長時間労働と密接に関係していることがわかります。
この点に明確な認識を持っていないのが企業なんです。企業は一企業あたりの労働時間は企業の自由だと思っているんですけど、実は、この国の財政と深くリンクしているので労使で折り合いがつけばいいって問題じゃないんですよね。その税金を払うのは国民であり、それを担うのは次の世代ということになります。

鴨居 そう考えると、労政審だけの議論ではとどまらないということになりますね。もう少し大きな視点での検討が必要になっていくわけですね。